「母ちゃん、行っちゃ嫌だ!!」

握った手を離さない。
女は目を合わせなかった。

目からは涙がこぼれていた。

「どうしてなんだよ?」

握った手をさらに強く握る。

女は答えなかった。

口を結び。
あふれてくる涙をこらえながら。
握った手を
静かに、そして力強く
離そうとしていた。

男と女とはいえ
子供と大人。
息子と母親。

その時父親はいなかった。
意図して居なかったのかもしれない。
見るに忍びなかったのか。
耐えられなかったのかもしれない。

女の決意は母親の情さえも越え
女は最後に一言

「ゴメンね」

と後ろ姿で良い
去っていった。
振り返らなかった。

握りしめた少年の右手はその後
開くことが無かった。。