桃
旅立つ前のこたろうは、自分では全く動くことができず、私の布団の上で横になったままでした。
口もとに野菜やりんごを持っていっても食べようとせず、スポイトで口に水を入れてみても飲み込みませんでした。
「なにか食べさせてあげたい」
そう思って近所のスーパーに買い物に出て、すぐに目に入ったのが桃。
「これなら食べてくれるかも」
桃を買って急いで家に帰り、桃を切ってこたろうの口もとに出してみました。
なにをあげても反応しなかったこたろうが、力を振り絞るようにして頭を少しだけ上げ、勢いよく桃を食べました。
とっても美味しそうに。
こたろうが最後に口にしたのは、この桃でした。
いま、こたろうのケージの上には、綺麗な花や母がこたろうの為に作り始めてくれた野菜がいつもお供えしてあります。
最後に美味しそうに食べた桃をお供えしたらこたろうが喜ぶような気がしていたけれど、私はなかなか桃を買うことができませんでした。
今日、いつもこたろうの為に花を買ってきてくれる妹が、桃を持ってきてくれました。
妹から渡された桃を手にした瞬間、涙が溢れ、桃を手にしたまま声をあげて泣きました。
こたろうが最後に美味しそうに食べた桃。
まだまだこたろうがいないことに慣れない私は、桃に触れるのがなんだか怖くて買えずにいたのです。
こたろうはいつも傍にいてくれる。
そう感じていても、こたろうの温もりがもうないことを、一つ一つこうして実感して乗り越えていかなければいけないことがまだまだありそうです。
また一つ乗り越えて、こたろうに美味しい桃をあげることができてよかった。
こたろうのために、今度は自分で美味しそうな桃を買いにいこう。
2009/06/17
こたろうが魂の故郷に旅立って10日が経ちます。
まだまだ、こたろうがいないことに慣れません。
最初の何日かは、こたろうがいないケージを見ていたら寂しさが一気に込み上げてきて、子供のように声をあげて泣きました。
泣けば泣くほど胸が苦しくなってしまい、こたろうがいないその場所にいるのが辛く、泣きながら家を飛び出したこともありました。
朝起きた時。
帰宅した時。
いろんな時、いつも最初に顔を見せてくれるのはこたろうでした。
そのこたろうの姿をいまだに探してしまう自分がいます。
姿は見えないけれど、こたろうはいつもそばにいてくれる。
まだまだ寂しい気持ちが強いけれど、ふとした瞬間にこたろうの存在を感じることができ、そんな時、自然と笑みがこぼれます。
紫陽花が綺麗な季節。
週末、大好きな鎌倉の紫陽花や海を見に行こうと思います。
こたろうにもあの景色を見せてあげたい。

