実を言うと、富田班長は、結子が普段からとても頼りにしている上司でもある。
仕事面で何かとクセの強い結子を誰よりも評価し、酒の飲み方まで教えてくれた、いわばこの業界における「育ての親」のような存在である。……まあ、庭に森があるような規格外の男でもあるわけだが。
後日。航空写真の衝撃が冷めやらぬ結子は、デスクの片隅で富田班長にそっと先祖の話を振り出してみた。
「あんな壮大な森と鳥居があるお庭にお住まいなんですから、絶対どこかの由緒あるお殿様のご落胤(らくいん)か何かですよね? ご自宅に立派な家系図とか残ってたりするんですか?」
「ん? 僕は二男だから本家(兄の家)にあるはずだよ。昔、古い家系図を何度か見せられたことはあるなぁ。僕はそういうの全く興味がないから、詳しい話は聞いたことないけど」
「なるほど……。実はわたし、最近ちょっと家系図に興味が出てきまして。でも、うちは班長のお宅みたいに歴史があるわけじゃないので、先祖の記録なんて残ってないと思うんですよね」
「いや、今からでも遅くないよ。家系図を作りたいなら、まずは情報収集からだ。役所に行って『除籍簿を遡れるだけ取りたい』って相談してみるといいよ」
「えっ、役所でそんなことできるんですか!?」
結子は初耳の事実に目を輝かせ、思わず身を乗り出した。富田班長、地味な顔してやっぱり情報感度が高すぎる。
しかし、一瞬で希望の光は潰(つい)えた。
現実という名の「霞が関の激務」が、結子の首を絞めにかかってきたからだ。
(……待って。役所って平日しか開いてないよね?)
結子の脳裏に、現在進行形で抱えている「国会答弁絡みのデスロード・プロジェクト×3」の残骸が駆け巡る。ただでさえ連日残業パンチを食らっているのに、平日に「先祖を調べたいので年休取ります!」なんて申請を出した日には、上司からどんな顔をされるか分かったものではない。おいそれと休める空気では到底なかった。
(自分が動けないなら……そうだ、動かせる人間を召喚すればいいんだ!)
結子の頭に、閃光のごとくひとつの顔が浮かんだ。
妹の朱里である。
民間企業に勤務する朱里はフットワークが軽く、平日でも割と時間に融通が利く優秀な妹。
「持つべきものは、動かせる身内!この前、けんかの仲直りをしておいてよかった~」
結子はニヤリと不敵な笑みを浮かべると、素早いフリック入力でモバイルを取り出し、朱里へ向けて「ご先祖サルベージ作戦」の協力を仰ぐSOS(という名の脅迫……ではなくお願いメッセージ)を打ち込み始めたのだった。
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