カリコー博士は、1955年ハンガリーで生まれ、RNAの抗ウイルス効果の研究で博士号を取得した。

30歳のときにポスドクとして渡米し、ペンシルベニア大学の助手に着任した。

 

当時、DNA合成装置やPCRマシンが世界中の研究室に導入され始め、遺伝子治療が進み始めた時期であった。例えば、遺伝子に欠損がある患者さんに正常な遺伝子を持つDNAを導入した・・・など。

 

でも、カリコー博士は、『DNAは長期に身体に残ってしまう。治療が終わり、必要がなくなれば除去できる方が望ましい。短期に分解できるmRNAを導入して、一時的に必要なタンパク質を作らせた方が絶対いいに決まっている。』と、世間ではDNA研究にまっしぐらなところ、博士の信念に基づいてmRNAの研究に邁進する。

 

博士は教授に昇進し、このmRNA研究のグラント(研究資金)申請をするが、あえなくリジェクト(不承認)されてしまう。何度も申請したが、リジェクトされ続けてしまい、外部研究費が獲得できないため、とうとう教授から非常勤教授へと降格されてしまう。

 

しかし、博士のmRNAワクチンにかける情熱は一向に収まらなかった。

 

この当時のmRNAワクチンの最大の問題点は、mRNAワクチンをそのまま体内に入れても、身体の免疫反応ですぐに排除されてしまうことだった。

 

大学のコピー機でドリュー・ワイズマン(現ペンシルベニア大学教授)という学生と雑談しているときにこの最大の問題点を克服するアイデアを思いついた。

それは、ウリジンというヌクレオチドをわずかに修飾変更することでmRNAの免疫による排除を抑えることに成功した。