
『BOB DYLAN / TOUGH SONGS』
海賊盤である。
ビートルズ、ストーンズ、レッドツェッペリン等にならび、海賊盤が多く出回っていることでも知られるディランだが、正規のアルバムだけでも50作を越え、そのコンプリートですら一苦労なのに、さらに海賊盤なんぞに手を出してしまったら、いよいよディープな世界に足を踏み入れて抜け出せなくなるのではないか?
オレは単なるファンであって、けしてマニアでもオタクでもないのだ。
…そんな思いから今までスルーしていた海賊盤であったが、ロック史上に残る名演、あの伝説のロイヤル・アルバート・ホールの音源となれば話は別だ。
この二枚組の海賊盤『TOUGH SONGS』は、一枚目には1966年英国ツアーのライブ音源、いわゆる『ロイヤル・アルバート・ホールのボブ・ディラン』が、二枚目には1965~66年に録音されたものの正規のアルバムには使用されることのなかった未発表曲や、バージョン違いのアウトテイクが収録されている。
「伝説の…」という冠詞はけして誇張ではなく、この66年英国ツアーは“フォークの神様”とされていたディランがエレクトリック化し、挑発的なロックスターへと華麗なる変身を遂げた歴史的瞬間としてロック史に刻まれていながら、その後30年以上音源化されることのなかった幻のライブなのだ。
今でこそディラン本人公認の海賊盤(ひじょうにややこしい話だが、ディラン自身がややこしい人なのでしょうがない)であるブートレッグシリーズとして音源化され、誰でも簡単に聴くことができるが、それまではこうした海賊盤を入手する以外に方法はなかったという。

自分がディランの存在を初めて意識したのは、だいたい1987~88年ごろだったと記憶しているが、今から思い起こせば、まだロックの何たるかも理解していない子供だった自分は、ディランの偉大さや、その真髄も理解していなかったし、当時の日本で海賊盤を入手してまで、この幻のライブ音源を聴いたという人がどれだけ存在したのかもわからない。
それでも当時から『伝説』として、その噂だけはとどろき、サブカル少年の好奇心を掻き立てていたのだ。
この伝説を語りつぐためにも、このレコードは手元に置いておかなければならない。
これまでにCDで数え切れないほど繰り返し聴いた音源だが、レコードで聴いてみると同じ音源でもまた新鮮味があって悪くないものだ。
さらに、二枚目のレコードに収録された未発表曲の数々はどれも傑作ぞろいで意外な収穫だった。
海賊盤というものは普通なら公に発表するレベルに達していないボツネタの寄せ集めにすぎないものだが、ディランの場合そのボツネタすらもカッコイイのだ!
おかげでディープな海賊盤の世界に嵌まってしまいそうでこわい(笑)