「ウィスキーは最高の水って感じだよな。アルコールじゃなくて、なんか“水”って言うほうがしっくりこないか?」




「確かに。」




この意見に関しては僕も全く同感だった。




僕らはウィスキーの深遠な味と香りに酔いしれながら静かな時間を過ごした。




今日の就活で見た景色は何色でもなかった。まるで、実験室の中のモルモットでも観察するかのような空間があるだけだった。僕らや、もしかしたら、面接官ですらモルモットなのかもしれない。どこか僕らの見えないところでそこでの僕らとは全く逆に、人間らしさを享受している人間がいるのだろう。




僕がツテの話を完全に理解できているわけではないが、いつも何か物事の核心的なことを言っているような気がした。ただ、僕が彼の言っていることの意味がわかったとき、僕は“兵士”にならなくて済むということだけはわかる。それと同時に、“兵士”になることによって得られるだろう安定を失うことにもなるということもわかる。




彼は今まで“兵士”にならなくて済む代償を支払ってきたのだろうし、これからも払い続けていくんだろう、きっと。きっちりとわかるわけではないが彼にはそれを払い続けることができる何か“器”みたいなものを感じる。僕に“それ”があるだろうか。いくら物事の核心を知ってもそれを享受するためのコストってやつが払えないといけないんだ。なんだ、結局、経済ルールと同じゃないか。現実か・・。




この日は翌日が休みということもあり、随分遅くまで飲んでいた。




明け方近くになり大分、酔いも醒めてきた。僕らは自転車に乗り自宅へ帰った。




誰もいない僕だけの道が延延と続いているかのようだった。薄暗い歩道を自転車で駆け抜け、全身で受ける風が僕を心地良く迎えてくれた。もうじき、朝日が昇ろうとしていた。また、新しい一日が始まる・・。