テレビや雑誌でもこの能力が使えるかどうか試してみたが駄目だった。直接、自分の目で人間を見ないと色が見えないのである。
いつものように学校が終わってから予備校へ友人たちと向かった。休憩時間に僕がトイレから出てきたとき、同じ高校の黒峰良子を見かけた。確か、そんな名前だったかな。同じクラスではないからどんな子はよく知らない。ただ、周囲の評判はすこぶる悪かった。とにかく、態度が横柄で身の丈以上の振る舞いに見えるのだ。身の程ってやつを知って欲しいと思いたくなった。“そういえば、この僕の能力を使えば、悪人かどうかすぐに見分けられるじゃないか。悪人は皆、同じ色のはずだ。やっぱり黒かな”
僕は彼女の半透明のピアスをよく見てみた。残念ながら黒ではなく、茶色であった。“なんだ、彼女は実は言うほど悪い人間じゃないのか?それとも、悪い人間の色は茶色か?”僕はあれこれ考えてみたが、面倒臭くなったので止めた。
予備校の講義の間、友人とまたくだらないが笑える話をしていた。そのとき、気付いたのだがこの“色”ってやつは感情に反応するらしい。僕らは笑っているときシルバーはいろんな色にランダムに変わっていた。これはおそらく、シルバー独特の反応で他の色はきっと違う反応をするに違いない。
帰りの電車で友人と別れ、社内のサラリーマンの色を見ていた。やっぱり、彼らには色がなかった。“なんで、色がなくなったんだろ”そのときの僕は何気なくそう思っただけだった。目を凝らして僕の真向かいに座っているくたびれたサラリーマンの半透明の指輪を見ていた。色の付いてないガラスは少しヒビが入っているように見えた。初めは気のせいだと思ったがやっぱりヒビが入っていた。
家に着いてから、夜のニュースを何気なく見ていた。
「××殺人事件の犯人が先ほど逮捕されました。犯人は無職××45歳。」
“やっぱり、凶悪な人間の色が気になるなぁ”
僕がこんなことを考えていたからかわからないが、翌日、偶然にもコンビニの強盗現場に出くわした。僕は幸運にも店に入る前だった。既にパトカーの音が聞こえ始めている。店のレジ前で男が凶器のようなものを店員に突き付けている。僕は目を凝らして色を探した。“あったぞ ベルトのバックル部分だ ずいぶん濁ってて何色かわからないなぁ”
「下がって!下がってくださぁい!」
いつの間にか警察の人が駆けつけてきていた。