私がゴルフ規則に興味を持った経緯

2022年10月8日

 2004-2005版ゴルフ規則裁定集17/1に,次のとおり裁定がされていました。

質問: パッティンググリーンの一番手前の所からホールまでの距離を示すために旗竿にうすい円盤(または円錐筒)が取りつけられ,それが旗竿の下部にあればホールはパッティンググリーンの手前側にあり,逆に旗竿の上部にあればホールはパッティンググリーンの奥にあることを意味するようにしてあった。そのようなことは許されるか。

回答: 取りつけられている物の断面が円形ならば許される。

 

 私は,単純に円盤や円錐筒を旗竿に付けることは支障ないと解釈したのです。その旨付言し私の妻に話したところ,「なんと馬鹿な,円錐筒の断面が円形だけでないことは小学生でもわかる。何で支障ないなどと解釈したのか。」と怒られました。

 確かに水平断面とは規定されていません。それでも私は,円錐筒を旗竿に付けることは許されると解釈しました(但し,風見鶏の役目を兼ねて円錐筒を横向きに付けることまでは想像していません)。その根拠は,ゴルフ規則「定義18旗竿」に「旗竿の断面は円形でなければならない」とあったからです。中学生なら旗竿の断面が長楕円や長四角形もあることは理解できるでしょう。どこをどう切っても円形となると,球形の旗竿ということになって,それでは,竿の概念から外れてしまいます。

 私は,旗竿の途中にプラスチックの球を付けたのはよく見ます。しかし,円盤や円錐筒を見たことがないのはなぜだろうと最近になって気付いたのです。私はもしかして,この回答は,「うすい円盤や円錐筒を旗竿に取り付けてはいけません。どこをどう切っても円形となる球ならば許される。」と言っているのではないかと思えてきたのです。

 これでは,ゴルフ規則裁定集17/1自体が,全く回答の役目をはたしていません。世界中のゴルファーを混乱させているだけだということになります。

 

 私は,ゴルフをするようになって30年以上になります。ゴルフ規則を読む度に,一体全体,このゴルフ規則を作成しているR&Aという団体は,どういう連中の集まりなのかと興味が湧いてきたのです。R&Aの規則委員の正体を知るにはゴルフ規則を研究するのが一番良い方法と思いました。今から20年程前から勉強を始めたのです。今までに公開した私の原稿は,私の強固な批判精神とちょっとした偏見に手伝って頂き出来上がったものです。

 次の2編の原稿は,2012年頃,と2015年頃の旧ゴルフ規則を適用していた時代に公開した原稿を少し修正したものです。一読していただけたら幸甚です。

 

第1篇 規則26-1.ウォーターハザードに入った球の救済について

 

 ゴルフ規則は,ウォーターハザードに入った球については,アウトオブバウンズや紛失した球とその取り扱いを異にしております。そもそも,ハザードは,ゴルフプレーを面白くするために意図的に作られた障害ですから,ウォーターハザードに入った球についてだけは,アウトオブバウンズや紛失に比べ距離の罰を大幅に軽減しているのではないでしょうか。ところが,それが面倒な問題を引き起こしているのです。

 前方に①ウォーターハザードがあり,②ウォーターハザードの外側周囲のインバウンズに藪があり,③さらに,近くにアウトオブバウンズがあったとします。

 プレーヤーがストロークした球が見つからなかった場合,ストロークと距離に基づく処置をとるなら問題ありませんが,球がウォーターハザードに入った場合だけは,ホールと初めの球がウォーターハザードの限界を最後に横切った点とを結んだ線上で,そのウォーターハザードの後方に球をドロップしてプレーすることができます。また,ラテラルウォーターハザードの救済もあります(この救済を①の救済と呼ぶことにします)。従って,前記の例でストロークした球が見つからない場合,プレーヤーが,球はウォーターハザードに入ったと主張したくなるのは良く分かります。

 R&Aは一貫して,球がウォーターハザードに入った証拠がないと①の救済は受けることができないとしているのです。しかし,球がウォーターハザードの中で見つかることを必要条件にすることにはできません。それを要件にすると,球が水没して見つからない場合,池の水を全部汲み出し,球を発見しない限り救済の要件を満たすことができなくなってしまうからです。すなわち,球の真実の所在ではなく,球がウォーターハザードに入ったことを推測させる間接的な事実をもって①の救済を認める手法を採っているのです。ですから,まれには球が水の中ではなく,ウォーターハザードの外にある場合も有り得るので,(その球が水の中にあるかどうかにかかわらず)と注意書をしているのです。

 この注意書について,その球が水の中にあるかどうかにかかわらずとは,その球がウォーターハザードの水の中だけでなく,ウォーターハザード内の芝の上や藪の中にあるかにかかわらずという意味ではないのかと主張した人がおりました。

 ゴルフ規則だけを読む限り,そう解釈される余地があります。しかし,裁定集26-1/3.5を参照すれば明白ですが,球がウォーターハザードの外で発見された場合を意味するものです。後述するとおり,水の中(the ball lies in water)などと曖昧な規定をした理由はある程度推測できるのですが,誠にもって拙劣な規定なのです。(その球がウォーターハザードの中にあるかどうかにかかわらず)とすれば何の問題もなかったことなのです。

 

 規則26-1.ウォーターハザードに入った球の救済については,2006年から新しいゴルフ規則が出版される度に改訂されております。本文を引用してみます。

 

2006-2007

「 ウォーターハザード内で紛失したものとして扱うためには,球がそのウォーターハザード内に入って止まったという合理的な状況証拠がなければならない。そのような状況証拠がないときは,その球は紛失球として扱わなければならず,その際は規則27が適用となる。

 球がウォーターハザード内にある場合やその中で紛失した場合には(球が水の中にあるかどうかは関係ない),プレーヤーは1打の罰のもとに次の中から1つを選んで処置することができる。」

 

2008-2009

「 この規則を適用するためには,その球がそのウォーターハザードの中にあることが分かっているか,ほぼ確実でなければならない。そのようなことが分かっていなかったり,ほぼ確実でなかった場合は,プレーヤーは規則27-1に基づく処置をとらなければならない。

 見つからない初めの球がウォーターハザードの中にあることが分かっているか,ほぼ確実な場合,プレーヤーは1打の罰のもとに次の中から1つを選んで処置することができる。」

 

2010-2011

「 この規則を適用するためには,その球がそのウォーターハザードの中にあることが分かっているか,ほぼ確実でなければならない。そのようなことが分かっていなかったり,ほぼ確実でなかった場合は,プレーヤーは規則27-1に基づく処置をとらなければならない。

 球がウォーターハザード内にあるか,あるいは見つからない初めの球がウォーターハザードの中にあることが分かっているか,ほぼ確実な場合(その球が水の中にあるかどうかにかかわらず),プレーヤーは1打の罰のもとに次の中から1つを選んで処置することができる。」

 

2012-2013

「 ウォーターハザードの方に行ったが見つかっていない球がそのハザードの中にあることが分からない,またはほぼ確実でない場合,プレーヤーは規則27-1に基づく処置をとらなければならない。

 球がウォーターハザード内に見つかったか,あるいは見つかっていない球がウォーターハザードの中にあることが分かっているかほぼ確実な場合(その球が水の中にあるかどうかにかかわらず),プレーヤーは1打の罰のもとに次の中から1つを選んで処置することができる。」

 

 R&Aの規則委員が大いに悩んで,混乱しているのが分かります。ここ数年,新しいゴルフ規則が出版される度に改訂を重ねることになったその原因を推測してみましょう。

 初めに挙げた例で言えば,誰も見ていない限り,見つからない球が①②③に入った可能性にほとんど差はありません。しかし,ウォーターハザードに入った球についてだけは,距離の罰を大幅に軽減しているので,プレーヤーは,確かではないのにウォーターハザードに入ったとし,①の救済を受けると主張するでしょう。R&Aが10年以上にわたり腐心しているのは,これを如何に防止するかの一点なのです。

 2006-2007以前の規則は,①の救済を受けるには,球がウォーターハザードに入って止まったという「合理的な状況証拠」がなければならないとし,それさえあれば(球が水の中にあるかどうかは関係ない)としていました。

 ところが,何をもって合理的な状況証拠というか,解釈に混乱があったのかもしれません。どうしても,安易に球がウォーターハザードに入ったとの主張がなされるので改訂することにしたのではないでしょうか。

 

 2008-2009の規則では,①の救済を受けるには,球がウォーターハザードに入ったことが「分かっているか,ほぼ確実」でなければならないとし,合理的な状況証拠を止めてしまったのです。しかし,不思議なことに(球が水の中にあるかどうかは関係ない)との注意書も削除してしまったのです。

 注意書を削除した理由は定かではありません。プレーヤーがこの注意書を逆手にとって,球が水の中にあるかどうかは関係ないのだと,強引に①の救済を受けることを主張することがないよう削除したのでしょうか。

 先ほど,注意書を(その球がウォーターハザードの中にあるかどうかにかかわらず)とすれば何の問題もなかったと申し上げましたが,ウォーターハザードの中と言うべきところを,水の中などと曖昧な表現をしたのは,プレーヤーに球が水の中だけでなく,ウォーターハザードの中にあるかどうかも関係ないのだと主張されることを心配してのことでしょうか。もしそうだとするとR&Aの規則委員は,本末転倒も甚だしい心配をしていると言わざるを得ません。

 それとも,2010-2011の規則で再び同じ注意書を挿入したところを見ると,R&Aの単なる手違いだったのでしょうか。

 これでもまだ,球がウォーターハザードの中にあることが確かではないのに①の救済を受けることを主張するプレーヤーが後を絶たなかったようです。

 

 とうとう,2012-2013の規則では,ウォーターハザードの方に行ったが,見つかっていない球がそのハザードの中にあることが分からない,またはほぼ確実でない場合」は,規則27-1(紛失球)に基づく処置をとらなければならないと,①の救済を受けられない場合を原則として規定することにしたのです。

 加えて,球がウォーターハザードに入ったとして①の救済を受けるためには,球がウォーターハザード内に見つかったか,あるいは見つかっていない球がウォーターハザードの中にあることが分かっているか,ほぼ確実な場合としたのです。これならどうだと言わんばかりに改訂しました。

 

古い諺に「Too many captains will steer the ship up a mountain.(船頭多くして船山に上る)」というのがあります。R&Aのこの一連の改訂は,合理的で,且つ,論理的に正しい態度だったのでしょうか。それとも,諺どおりだったのでしょうか。

 2007より前の規則と,20012年以後の規則で,①の救済を受ける要件に変更があったわけではなく,理念としては全く同じと解釈します。

 合理的な状況証拠という抽象的な概念から,分かっている,ほぼ確実という平易な概念にしたのも理解できます。

 しかし,2012-2013の規則になると,さすが,首を傾げたくなります。

 球がウォーターハザード内に見つかった場合は別として,見つかっていない球がウォーターハザードの中にあることが,分かっているか,ほぼ確実な場合と,連記したのですが,①の救済を受けられる要件として,確実性に差があるだけの要件を複数記載するというのはどういうことなのしょうか。いずれの場合も球は見つかっていないのです。

 分かっているとほぼ確実な場合に,それほどの差があるとは思えません。

 R&Aの規則委員も,これはおかしいと気付いている方もいると思います。しかし,多数意見は,ほぼ確実な場合だけでは心配だと言うのでしょうか。それとも,

見つかっていない球がウォーターハザードの中にあることが分かっていると同じ程度に,ほぼ確実な場合と,例示したつもりなのでしょうか。

 先ほど,2012-2013の規則は,これならどうだと言わんばかりに改訂したと言いましたが,もし,そうだとすると,R&Aの規則委員は論理的な規則の制定を放棄して,駄目押しに終止した,かなりみっともない方針に動かされたという気がします。ほぼ確実な場合とはどのような場合を言うのか,これは裁定集等で詳細に事例を挙げて解説する以外に方法はありません。

 私は,2007年以前の合理的な状況証拠が良いと思います。抽象的であるが故に今後,裁定集で事例を取り上げて具体的に明らかにすることができるからです。事実,2008年頃からかなりの裁定がなされ,その詳細が大分明らかになりつつあります。

 ウォーターハザードに入った球の救済については,まず,球がウォーターハザード内で見つかった場合の救済方法を規定し,次に,球が見つからない場合,その球がウォーターハザードに入ってその中に止まったものとして救済を受けられる要件を規定するのが順序ではないでしょうか。

 なお,「ウォーターハザードの方に行った後で見つかっていない球がそのウォーターハザードの中にあるかどうかの判定は事実問題である。」という前置きも必要があるとは思えません。

 

第2編 旧規則13-4.球がハザード内にある場合;禁止行為

 

 2007年頃プロゴルファービジェイ・シンは,フェアウエイバンカーから遥か先のグリーンサイドバンカーに球を入れたのですが,バンカーに球が入ったことに気付かなかったのです。ところが彼はフェアウエイバンカーに残る自分の足跡をレーキで直したのです。その頃は,球の行方が分からないような200ヤードも先のバンカーあっても自分の球がバンカーに入っているときは,砂のテストをしてはいけないことになっていたのです。もちろんビジェイ・シンは過少申告で失格でした。

 R&Aは,慌てて規則13-4.例外3を追加し,「あるハザードからプレーし,その球が他のハザード内に止まった場合,自分の足跡を直してもテストしたとみなさない。」ことにしたと聞いております。

 しかし,その数年後,プロゴルファースチュアート・シンクは,彼の球がバンカー外の淵にあり,バンカー内にスタンスをとってストロークをし,グリーンサイドバンカーに球を入れてしまったのですが,それに気付かずストロークした後,彼は自分の足跡をレーキで直したのです。この場合は,あるハザードからプレーされた球ではないので,規則13-4.例外3で救済されません。もちろんスチュアート・シンクは,過少申告で失格だったそうです。

 とうとうR&Aは,規則13-4.例外2を追加し,「単にコースを保護する目的で,かつ次のストロークに関して規則13-2の違反とならないことを条件として,いつでもハザード内の砂や土をならすことができる。」と改訂したそうです。

 私が本当に言いたいことは,こんな複雑な規則は,数千万人が楽しんでいるスポーツの規則にはなり得ないということです。歴史だの伝統だのと言っている以前の問題です。その原因は,多分R&Aの利権に絡んだものと推測します。もちろん金銭的な利権だけでなく名誉の利権でしょう。JGAも然りと思います。

 こんな出鱈目な規則では,ある程度理解するだけでも一生かかります。アマチュアプレーヤーだけでなく,プロのプレーヤー,そしてプロキャディも含めて,ゴルフ規則を深く理解しようなどとは誰も思っていません。ゴルフ規則の体系は,完全に破綻していると言っても過言ではありませんから,そもそも理解など不可能なことなのです。

 2013年マスターズでタイガー・ウッズが間違った箇所にドロップしたため,後で罰打を課された一件のように,プロゴルファー,プロキャディ,果てはレフリーまでも周りに居ながら注意できなかったのです。タイガーがドロップした後,誰かが気付いて正しい箇所に再ドロップすれば罰などなかったのに誰も間違いに気付かなかったのです。もちろん,3人の能力が通常人以下であったと主張するなら敢えて否定しませんが,簡単なことなのに規則が適切でないため,多くの人が正しく理解することができず,処置を誤るような規則を放置していたのです。

 世界中のゴルフ関係者や団体も,R&Aの権威の幻想に惑わされ,R&Aの御先棒をかついでいるため,ビジェイ・シンの一件のように馬鹿馬鹿しい規則が延々と続いていても,その不都合を指摘する者もなく通用してきたのです。

 しかし,R&Aの驚くべき能力は,ビジェイ・シンの一件が起きて,規則を改定した時,スチュアート・シンクの一件も当然起こり得るのではないかと誰も思い至らなかったことです。これがR&Aの真実なのです。

 別に驚くことではないのかもしれません。規則全体について責任をもって見通せる者が大勢居なくては,体系的な規則の制定などできません。責任のない素人の集団が何十団体集まってもこの程度でしょう。すなわち,これらの問題はR&Aの能力の問題と言うより団体としての体質の問題であることは明らかです。

 昭和の初めにゴルフ規則を解説した大谷光明氏が,「ゴルフ規則の注釋と判例」において,ゴルフ規則が難解なのは,条文の不備によることに疑いないと既に指摘しておりました。今でも全く変わっておりません。

 ゴルフ規則の現状は,R&A,JGA,そして,その全ての下部組織が一丸となって,何かおかしいと思っている者に対し,分からぬ者は近寄るなと,組織から排除するための道具と化しているのです。皆さんはどう思いますか。

以上