認められない人がリプレース・ドロップした場合の効果

2022年8月9日

 

 まずリプレースすることが出来る人は,規則14.2bにおいて,次のように規定されています。

⑴     プレーヤー

⑵     その球を拾い上げた人,またはその球を動かす原因となった人

  プレーヤーというのは,その球をプレーしているプレーヤーでしょう。⑵のその球を拾い上げた人とは,あまり問題がないように思えます。ところが,球を拾い上げることは誰でも出来ることではありません。

 

2 その球を拾い上げた人にリプレースする権限が有るのか無いのか,具体的な例を検討してみます。プレーヤーには,誰が拾い上げたかに関係なく常にリプレースの権限があります。それでは,キャディーはどうでしょうか。

  キャディーはプレーヤーと異なり,常にリプレースの権限が有るわけではありません。

  規則14.1bは,「球を拾い上げることが出来る人は,プレーヤー,またはプレーヤーがその都度承認した人」となっており,コース上の何処でも適用されます。

  一方,規則10.3b⑴は,キャディーは,パティンググリーンのプレーヤーの球の箇所をマークして,その球を拾い上げて,リプレースすること」が出来るとしています。

 

  「キャディーは,パティンググリーンのプレーヤーの球の箇所をマークして,その球を拾い上げて云々とありますが,パティンググリーンの誤訳と思います。コースエリアとしてのパティンググリーンに球があっても(規則2.2c参照)常に球の拾い上げが出来るのではありません。 なお,英語版は,(Mark the spot of the player’s ball and lift and replace the ball on the putting green. )となっております。」

 

  ところが,規則10.3b⑶は,キャディーがプレーヤーのために認められない行動として,「球をリプレースすること。ただし,キャディーが球を拾い上げていた,または動かしていた場合を除く」としています。

  皆さんは,以上の規則の関係を即座に理解できますか。これが,R&Aの性悪なところなのです。

  規則10.3b⑴は,「キャディーは,パティンググリーンのプレーヤーの球の箇所をマークして,その球を拾い上げて,リプレースすること」が出来ると規定しておきながら,規則10.3b⑶は,キャディーがプレーヤーの為に認められない行動として,「球をリプレースすること。ただし,キャディーが球を拾い上げていた,または動かしていた場合を除く」としているのです。

  即ち,キャディーは,プレーヤーの承認なくパティンググリーンの球を拾い上げることが出来るが,キャディー自身が球を拾い上げていない限り,キャディーが球をリプレースすることは出来ないということです。

  確かに規則に間違いがあるわけではありません。しかし,こんな謎かけのような規定をして平気でいるところが,先ほども指摘したR&Aの性悪なところなのです。ゴルファーに限らず,ゲームの規則など注意深く読まない人がほとんどでしょう。もう少し親切な規定ができないものでしょうか。いや,単にR&Aが能力不足なだけかもしれません。

  このような状況はたくさん発生します。プレーヤーが球を拾い上げ,キャディーに拭いてもらうため球を渡し,ライン読みなどをするためにキャディーから離れると,キャディーは他のプレーヤーの球も拭かなければならないので,拭いた球をボールマークの近くに置くことがあります。これはキャディーにリプレースする権限がない場合の典型です。

  この規則を理解しているキャディーは,ホールとボールマークを結んだ線で,しかもボールマークから20センチも後ろ側に拭いた球を置きます。つまり,プレーヤーに対し,私にはリプレースする権限がないのでプレーヤー自身がリプレースをして下さいとの趣旨です。この置き方に怪訝な顔をしていたプレーヤーを見たことがあります。そのプレーヤーは,キャディーにリプレースする権限がないなどとは思っていないでしょう。

 

3 次に,リプレースする権限のある人の具体的な例は,その球を動かす原因となった人です。例えば誤球した人,誤って球を蹴飛ばして動かしてしまった人などでしょう。

  以上,認められていない人がリプレースした球をそのままプレーした場合,プレーヤーは1罰打を受けるとされています(14.2b⑴)。この1罰打については後述します。

 

4 次に,ドロップをする権限について検討します。規則14.3bは,「プレーヤーがドロップをしなければならない」としています。従って,プレーヤー以外の人が行ったドロップは,全て規則14.4に規定する間違った方法,ないし適用しない手続を使用してドロップしたということになります。

  プレーヤー以外の人がドロップした球をそのままプレーした場合,規則14.7aの誤所からのプレーとして2罰打となるのではないでしょうか。

 

5 リプレースやドロップは,規則が複雑で必ずしも規則どおりに処置されるとは限りません。もし,規則に違反してリプレースやドロップされた球は全て誤球だとすると多くのプレーヤーが失格となってしまいます。

  そこで規則14.4は,「プレーヤーがどんな方法であれ球をインプレーにする意図をもって球をコースに戻した場合,次のときであってもその球はインプレーとなる。⑴誤所に,⑵間違った方法で,⑶適用しない手続を使用して,リプレース,ドロップ,プレースした」としているのです。つまり球をコースに戻しさえすれば,球はインプレーとなり,後はその間違いに対し,どのような罰打が課されるかということです。キャディーが池から拾い上げてコースに戻した球をそのままプレーしても,球はインプレーということでしょう。ドロップ自体がなくてもインプレーとしているとしか解釈できません。

 

6 規則14.5aは,権限がない人がリプレース・ドロップした球について,プレーする前に気付いて訂正すれば,罰はないことにしているのです。

  しかし,認められていない人がリプレースした球をそのままプレーした場合,プレーヤーは1罰打を受けると14.2b⑴に明文があります。ところが,ドロップについては,プレーヤー以外の人がドロップした球をそのままプレーした場合,罰打がどうなるか明確とは言えません。多分,規則14.7aの誤所からのプレーとして2罰打となるのではないでしょうか。

  これは推測ですが,リプレースは誰がやってもリプレースする箇所は観念的には1点です。ドロップは,範囲ですからドロップ箇所は異なります。そこで権限のない人がドロップした場合は,誤所からのプレーとして2罰打としているのではないでしょうか。

以上