球をあるがままにプレーしてはならない

(規則11.1b⑴,同⑵)

2023年8月8日

 

1 球をあるがままにプレーしてはならない場合は,ゴルフ規則にたくさん規定されています。ここでは,ゴルフ規則11.1bの「動いている球が偶然に人,動物,物に当たる」に限定して解説したいと思います。

  この規定は,本当に理解が困難です。規則11.1aの「動いているプレーヤーの球が,人や外的影響にあたった場合」誰にも罰はないとする本文は当然のことを規定したもので,その例外の

  「ストロークプレーで,パッティンググリーン(上)でプレーされた球: プレーヤーの動いている球がパッティンググリーン(上)に止まっている別の球に当たり,そのストロークの前にその両方の球がパッティンググリーン(上)にあった場合は,プレーヤーは一般の罰(2罰打)を受ける。」

 に意味があります。この規定は旧ゴルフ規則も全く同じでした。ここまでは分かるのですが,問題は次の規則11.1bです。なぜ球をあるがままにプレーしてはならないのか,ゴルフ規則にその理由が記載されていないのです。

 

2 (発生した事実)その1  規則11.1b⑴

  パッティンググリーン以外の場所からプレーされた球が ①人 ②動物 ③または動いている外的影響の上に止まった場合: この事実を分解してどのような例があるか考えてみます。

  ① 球が人の上に止まるとは,キャディーや観戦者などの上に止まるということでしょう。

  ② 球が動物の上に止まるとは,ミミズやトンボの上に止まることで,動物という以上生きていることが条件でしょう。

  ③ 球が動いている外的影響の上に止まるとは,外的影響はゴルフ規則の巻末に定義されています。全ての人(注:外的影響の定義では,プレーヤーとそのキャディーを除くとしていますが,①で人としているので,ここでは全ての人です。)全ての動物,全ての自然物,人工物やその他の物とされています。

 

 ⑴ 前記①②③で発生した事実を前提にして,次の条件は,球がパッティンググリーン以外の場所に止まっている場合の処置方法です。

    »基点:その球が人,動物,動いている外的影響の上に最初に止まっていた場所の真下と推定する地点

    »救済エリアのサイズ:1クラブレングス ドロップ

    »救済エリアの制限:基点と同じコースエリア ホールに近づかない

 

 ⑵ ①②③で発生した事実を前提にして,次の条件は,球がパッティンググリーン(上)に止まっている場合の処置方法です。

    »その球が人,動物,動いている外的影響の上に最初に止まっていた場所の真下と推定する箇所に リプレース

 

 ⑶ 動いているプレーヤーの球が,人や外的影響にあたった場合誰にも罰はない。原則として球はあるがままにプレーしなければならないとする理由は理解できます。しかし,その球が止まった後,(発生した事実)パッティンググリーン以外の場所からプレーされた球が ①人 ②動物 ③または動いている外的影響の上に止まった場合,球をあるがままにプレーしないで,しかるべき処置をとらなければならないことについて,ゴルフ規則は何もその理由を明らかにしていません。勝手に推測する以外ないのですが,検討してみます。

  ・球が①の人の上に止まったままプレーするとキャディーや観戦者などが大怪我をすることになるからでしょう。

  ・球が②の動物の上に止まったままプレーするとミミズやトンボの殺傷は免れないでしょう。西洋人もあまり殺生は好まないようですね。

  ・以上二つの処置をとることは,プレーヤーの任意ではありません。記載する処置をとらずプレーして,ミミズやトンボを木っ端微塵にした場合2罰打です。人であるなら加えて傷害罪にもなります。

  ・球が③の動いている外的影響の上に止まった場合というのが理解できないのです。動いている外的影響で全ての人工物やその他の物というのは,作業車両などでしょうか。確かに動いている作業車両が走り去ったら規則9.6が適用されないとこの規定がなかったら紛失と言うことになり兼ねません。

    しかし,動いている外的影響で全ての自然物で,その上に球が止まる可能性のあるものと言うのは,ちょっと頭に浮かびません。どういう場合を想定しているのでしょうか。カラスによる球の移動などは規則9.6にあります。いくら自然物でも揺れている立木の上に乗った球は,あるがままにプレーすると解釈されていますから該当しません。

 

3 (発生した事実)その2  規則11.1b⑵

  パッティンググリーンからプレーされた球が偶然に ①パッティンググリーン上の人 ②動物 ③動かせる障害物(動いている別の球を含む)に当たった場合:パッティンググリーン上の前記①②③に当たったことだけが要件で,その球がパッティンググリーン上に残っていることは要件ではありません。分解してその例を挙げると,

  ① 偶然にパッティンググリーン上の人に当たるとは,プレーヤーのキャディーや他のプレーヤーでしょう。

  ② 偶然にパッティンググリーン上の動物に当たるとは,2023年の改正で,ルースインペディメントとして定義されているミミズ,トンボ,カナブンなどは除かれることになりました。

  ③ 偶然にパッティンググリーン上の動かせる障害物(動いている別の球を含む)に当たるとは,クラブや置いてある旗竿などでしょうか。(「動いている別の球を含む」となっていますが,止まっている別の球は,11.1a例外―に該当するので2罰打です。)

 

 ⑴ 前記①②③の発生した事実を前提にして,球をあるがままにプレーせず,その後の処置を検討します。

   そのストロークはカウントせず,元の箇所(分からない場合は推定しなければならない)に球をリプレースしなければならない。すなわち,再ストロークをするということです。

 

 ⑵ そのストロークはカウントせず,再ストロークをしなさいとした理由についても,ゴルフ規則は何も明らかにしていません。勝手に推測する以外ないのですが,検討してみます。

  ・①の偶然にパッティンググリーン上の人に当たるとは,プレーヤーのキャディーや他のプレーヤーに当たった場合と思いますが,プレーヤーはパッティングをするとき目の下にある自分の球に集中しているので,パッティングラインに人が侵入してきたことに気付かないことがあるからでしょうか。パッティンググリーン上という狭い範囲と偶然性を条件に,カウントせず,再ストロークとしたものと思います。

  ・②の偶然にパッティンググリーン上の動物に当たるとは,リスや鳥などでしょう(ミミズ,トンボ,カナブン等は除く)。これらもプレーヤーが気付かないうちにパッティングラインに侵入してくることがあるからと思います。

  ・③の偶然にパッティンググリーン上の動かせる障害物(動いている別の球を含む)に当たるとは,クラブや置いてある旗竿などでしょうが,重要なのは,動かせる障害物(動いている別の球)なのです。

   以上のそのストロークはカウントせず,再ストロークをしなさいとした規定に対し,相当な違和感を持つ方もおられると思います。人や動物が予期せずパッティングラインに侵入してくることがあるかもしれませんが,プレーヤーの持ち物や置いてある旗竿に当たった場合までカウントせず,というのはプレーヤーの不注意を免除し,且つ再ストロークをしなさいというのは,プレーヤーに有利にならないかという疑問です。確かにそのとおりだと思います。

   しかしながら,旧ゴルフ規則は,パッティンググリーン上の人や物に球が当たった場合,ミミズや虫は除くとか,動いている球はどうで,止まっている球はこうだ,他の競技者はどうで,自分のキャディーならこうだなどと分類し,どちらが先にストロークを開始したかまで規定し,世界中のゴルファーを100年近く翻弄してきたのです(旧ゴルフ規則19-1のa. 及びb. 19-5のa. 及びb.)。

   近代化されたゴルフ規則は,多少の問題はあっても,パッティンググリーンからプレーされた球であること,パッティンググリーン上で当たったこと,そして偶然性を条件に,カウントせず再ストロークをすると誰にでも容易に理解できるよう統一したのです。しかし,私もこの規定の趣旨が十分に理解できていません。いつの日か,もっと分かり易く改正されることを望みます。

以上