地面にくい込んだ球の救済規定の問題点

2021年7月21日

1 規則16.3 bの救済規定の問題については,「壁面状のジェネラルエリアにくい込んだ球の救済」として以前検討いたしました。近代化されたゴルフ規則においては,ジェネラルエリアにくい込んだ球の全てにこの救済を認めることにした為に,今までなかった問題も生じていることも説明しました。その原因は,規則16.3 bの次の規定にあるような気がします。

  プレーヤーの球がジェネラルエリアにくい込んで,規則16.3bに基づいて救済が認められる場合,そのプレーヤーは次の救済エリアに元の球か別の球をドロップすることにより罰なしの救済を受けることができる。

   *基点: 球が地面にくい込んでいる場所の直後の箇所

   *そのほかの制限 省略

  つまり「プレーヤーの球がジェネラルエリアにくい込んで止まった場合」を特殊な障害が生じた場合として特別に1条を設けたと言えます。救済方法が多様なことは,具体的に妥当な救済となることは当然です。しかし,救済を受ける方法が大した理由もなく異なると,規則違反を犯し罰打を受ける危険性も多くなります。私は,規則16.3 bの規定をわざわざ設けるほど,球がジェネラルエリアにくい込んで止まった場合の障害は特殊なことなのか疑問に思うのです。つまり,異常なコース状態であるから球がくい込んで止まったというのが通常ではないかということです。

 

2 「プレーヤーの球がジェネラルエリアにくい込んで止まった場合」を規則16で扱っている異常なコース状態の一つとして捉えられないかということです。

  他の異常なコース状態と違うのは,ボールの落下という現象により異常なコース状態になったというところが少し違うところです。しかし,もともと降雨などの影響により軟弱な地面であったともいえます。ともかくジェネラルエリアにくい込んで止まった場合の球を異常なコース状態の一つとして捉えた場合どのような不都合があるか検討してみます。

   ⑴ プレーヤーの球がジェネラルエリアにくい込んで止まった場合」

16.1a⑴のプレーヤーの球が異常なコース状態に触れているに該当すると解釈できないでしょうか。

   ⑵ 「プレーヤーの球がジェネラルエリアにくい込んで止まった場合」

16.1bのプレーヤーの球がジェネラルエリアにあり,異常なコース状態による障害がある場合,全ての物理的な障害が完全になくなる所で次の救済を受けるに該当すると思います。

   ⑶ 以上の解釈が間違っていなければ,その救済方法は次の16.1bが示すとおりになるのではないでしょうか。

    基点:ジェネラルエリアの完全な救済のニヤレストポイント

    》救済エリアのサイズ:1クラブレングス

    》救済エリアの制限:ジェネラルエリアでなければならない

    》基点よりホールに近づいてはならない

    》異常なコース状態による全ての障害からの完全な救済でなければならない

 

3 以上の要件と16.3bの地面にくい込んだ球の救済と違うところは,基点の捉え方以外ほとんどありません。

    いわゆる基点を「完全な救済のニヤレストポイント,すなわち,全ての物理的な障害が完全になくなる所」と,基点を「球が地面にくい込んでいる場所の直後の箇。〈The spot right behind where the ball is embedded.〉」とした場合にどれほどの差があるのでしょうか。その他の制限は共通する規定です。

 

4 近代化されたゴルフ規則において,なぜ「プレーヤーの球がジェネラルエリアにくい込んで止まった場合」を「異常なコース状態による障害がある場合」と区別して救済方法を規定したのか分かりません。すなわち,「球が地面にくい込んでいる場所の直後の箇所」は,概ね「完全な救済のニヤレストポイント」と同じと思います。

  もう一つ因縁をつけるとすれば,「直後」と言う曖昧な用語を使ったことです。ゴルフ規則の中で直後という用語が他にも使われている箇所があるのをご存じと思います。

  旧ゴルフ規則は,その20-1. 球の拾い上げとマークの注:において「拾い上げる球の位置は,ボールマーカーを球の真後ろにおいてマークすべきである。immediately behind the ball〉」と規定しておりました。それを解説したゴルフ規則裁定集は,20-1/19において球の周り360度,何処にマークしても違反ではないと裁定しておりました。これでは幾らなんでもまずいと思ったのでしょうか,近代化されたゴルフ規則では,規則14.1aに「ボールマーカーを球の直後や直ぐ近くに置く。〈Place a ball-marker right behind or right next to the ball〉」と明確にしたのです。

  ゴルフは,3次元空間でプレーしているのですから「直後」などという曖昧な用語は感心しません。

 

5 それでは現行規則をどのように変えればよいか検討してみます。

 ⑴ 規則16.1 異常なコース状態(動かせない障害物を含む)

   この規則は動物の穴,修理地,動かせない障害物,一般的な水,球がジェネラエリアにくい込んで止まった場合による障害から認められる罰なしの救済を扱っている

 ⑵ 規則16.1a 救済が認められる場合 (現行の規則どおりです)

 ⑶ 規則16.1b ジェネラルエリアの球に対する救済 (現行の規則どおりです)

    》基点:ジェネラルエリアの完全な救済のニヤレストポイント

    》その他は省略

  以上のとおり,規則16.1 異常なコース状態(動かせない障害物を含む)のところに「球がジェネラルエリアにくい込んで止まった場合」と規定するだけで他に訂正すべき箇所はありません。

 

6 もしこれで不都合がないとすれば,別の稿「壁面状のジェネラルエリアにくい込んだ球の救済」で検討した全ての問題は解決するのではないでしょうか。すなわち,基点について,現行のゴルフ規則でここでしか使用されていない「球が地面にくい込んでいる場所の直後の箇所」としたために,ドロップする場所が存在するか否かという問題が発生したのです。

  基点を「ジェネラルエリアの完全な救済のニヤレストポイント」とすれば,バンカーの縁の壁面状のジェネラルエリアにくい込んだ球の「完全な救済のニヤレストポイント」は,垂直の壁面であれば,当然バンカーの後方のジェネラルエリアになります。

  また,バンカーの縁の45度の壁面状のジェネラルエリアにくい込んだ球であれば,「完全な救済のニヤレストポイント」は,当然球の直後のジェネラルエリアになるでしょう。しかしそこにドロップしても45度の壁面状では球は救済エリアに止まらずバンカーに止まるでしょう。その場合は規則14.3c⑵の正しい方法でドロップした球が救済エリアの外に止まった場合にすること。従って2回目のドロップをし,それでも止まらなければ,2回のプレースをすればよいのです。45度の壁面状では,2回プレースをしても球はジェネラルエリア止まらずバンカーに止まるのではないでしょうか。

・2回目にプレースした球がその箇所に止まらない場合,プレーヤーは規則14.2eに基づいて球が止まる最も近い箇所に球をプレースしなければならない。すなわち,バンカーの後方のジェネラルエリアにプレースすればよいということになります。

 

7 ゴルフ規則は,多くのゴルファーが従わなければならないのですから,単純で,且つ救済方法を可能な限り統一した方が,間違いがなく良いに決まっています。

  想像ですが,「球がジェネラルエリアにくい込んで止まった場合」の基点を「球が地面にくい込んでいる場所の直後の箇所」としたのは,旧ゴルフ規則20―2c 再ドロップを要する場合の〈Ⅴ〉に規定されていた「規則25-2(地面にくい込んでいる球)により球を拾い上げたそのピッチマークの中にまた転がり戻って止まった場合」並びに,旧ゴルフ規則裁定集13-2/10に「ドロップする前に,自球によるピッチマークを修理すること許されない。」とあったので,それに規則制定者が惑わされたのではないでしょうか。

以上