ジェネラルエリア壁面にくい込んだ球の救済

2019年7月8日

 

1 旧ゴルフ規則は,地面にくい込んでいる球について救済を受けられるのは,芝草を短く刈ってある区域(いわゆるフェアウエイ)にくい込んだ場合だけでした(旧規則25-2.)。新しい規則は,ジェネラルエリアにくい込んだ球の全てに救済を認めることにしました(規則16.3)。以前からプロゴルフの競技においては,ラフでの救済を認めていこともあり,新しい規則のように改正したものです。

 

2 ジェネラルエリアにくい込んだ球全てに救済を認めることにした為に,今までなかった問題も生じています。規則16.3b地面にくい込んだ球の救済は,次のとおり規定されています。

 

  【プレーヤーの球がジェネラルエリアにくい込んで,規則16.3 a に基づいて救済が認められる場合,そのプレーヤーは次の救済エリアに元の球か別の球をドロップすることにより罰なしの救済を受けることができる。

   *基点: 球が地面にくい込んでいる場所の直後の箇所

   *基点から計測する救済エリアのサイズ: 1クラブレングス

   *救済エリアの場所に関する制限: ジェネラルエリアでなければならない。基点よりホールに近づいてはならない。】

 

3 図16.3b:のイラストを見てください(154頁)。まさしく,球が地面にくい込んでいる場所の直後の箇所を基点としています。

  「直後」とは,時間的・空間的にすぐあとということですが,空間的には平面上における位置関係を表すときに多く使います。しかし,ゴルフコースには,正確に言えば平面など一か所もありません。ドロップした球が,地面にくい込んだ球と,空間的に上下に差が出るのは当然ですが,救済の基点に「ある場所の直後」という用語を使用したのは,当然くい込んだ球と救済の基点との関係においても三次元的な上下があり得るということを前提にしていると言わざるを得ません。

  余談ですが,規則はなぜ救済エリアを計測する基点を球のある箇所としないで,球が地面にくい込んでいる場所の直後の箇所と特別な規定をしたのか。多分球のある箇所を基点にすると再ドロップした球が,再び球がくいこんだ跡に止まってしまう場合があるからです。この球の跡はドロップ前に修復すると8.1a⑶改善となってしまいます。従ってピッチマークが救済エリアから外れるように直後の箇所としたものと思います。しかし,アンプレヤブルの場合でも最大限の救済を受けたいので,当然元の球のある箇所の近くにドロップするプレーヤーはいません。不幸にして元の球のあった箇所に止まっても再度のアンプレヤブルの救済しかありません。球が地面にくい込んだ場合も当然ピッチマークから離れたところにドロップするでしょう。「直後の箇所」などと,一読して誰もその理由と意味が理解できない,謎かけのような規定をして喜んでいるのはもういい加減にすべきです。

 

  具体的な事例を挙げてみます。

  ⑴ 球が地面にくい込んでいる場所の直後の箇所から地面が垂直に10センチ高かったとします。10センチ高くなった箇所を基点としてドロップすることに異論はないと思います。

  ⑵ 球が地面にくい込んでいる場所の直後の箇所から地面が垂直に10センチ低かったとします。10センチ低くなった箇所を基点としてドロップすることに異論はないと思います。

  ⑶ ということは,球が地面にくい込んでいる場所の直後の箇所から垂直に3メートル高くても,低くても,球が地面にくい込んでいる場所の直後の箇所は,3メートル高い所,低い所にあり,くい込んでいる球と同一の高さ(平面上)になる必要はないということになりませんか。

 

4 なぜ以上の例を挙げたかというと,次のような事例があったというのです。

  ホールの方向に背丈ほどの壁があるバンカーで,その壁面は芝草がラフ状態で,且つバンカーにオーバーハングしていたそうです。そのオーバーハングした壁面に球がくい込んでいたのです。その時どう処理したか詳細は分かりませんが,試合後(アマチュアの試合)競技委員と検討した結果,当該競技委員は個人的な見解であると断って次のとおり解説したたそうです。

  *壁面がオーバーハングしているので,球が地面にくい込んでいる場所の直後の箇所の垂直下はバンカーとなる。しかし,球は救済エリアであるジェネラルエリアにドロップしなければならない(14.3b⑶ )。少なくともジェネラルエリアの壁面がすり鉢状であるならドロップした球が最初に壁面に当るよう落下させることができるが,壁面がオーバーハングしていたのでは,膝からドロップしても垂直に落ちればバンカーに落ちることになる。

  *つまり,規則16.3bが認めている基点はあっても,ドロップできる救済エリアがないので救済は受けられない。ジェネラルエリアの球のアンプレヤブルの救済なら,どのコースエリアでもよいことになっているので,バンカーの中の後方線上にドロップしても良いし(19.2b),更に後方線上のジェネラルエリアでもよい。

ということになったそうです。

 

5 確かに,ドロップできる救済エリアがないので救済は受けられない場合があります。例えば,規則17.1d ⑶ の「レッドペナルティーエリア」のラテラル救済を受けようとしても,ホールと基点を結んだ線に対し,基点で直角に交差する線とペナルティエリアを示す線が,基点から両側に2クラブレングスまで同一線上であると,ラテラル救済を受けられる半円状の救済エリアは,全部救済を受けようとしている同じペナルティエリアになり,規則17.1d ⑶ に違反します。従って,ドロップできる救済エリアがないので他の救済方法を選択することになります。

  しかし,先に述べた事例は,プレーヤーの球がジェネラルエリアの地面にくい込んでいる場所の直後の箇所にドロップエリアがないと言えるでしょうか。

  オーバーハングしている背丈ほどの壁面の上の平らな所に,球が地面にくい込んでいる場所の直後の箇所が存在すると言えませんか。断面図を描けば明白です。球が地面にくい込んでいる場所の直後の箇所は,垂直下ではなく,垂直上にもあると言えませんか。くい込んでいる球より数十センチ上にあり,球と同一平面上にないというだけです。

  つまり,前記3の ⑶ で示したとおり,球が地面にくい込んでいる場所の直後の箇所は,垂直に3メートル高くても,低くてもよく,くい込んでいる球と同一平面上に存在する必要はないということです。

 

6 以上の理由が正しいと言えれば,オーバーハングした壁の上に立って,球が地面にくい込んでいる場所の直後の平らな箇所にドロップすれば,ジェネラルエリアにドロップしたことになります。球を2回ドロップして,いずれもバンカーに転がり落ちたら球をプレースすることになります。さらに2回プレースしても球が止まらなかったら,その球が止まる最も近い箇所にその球を置くことによってリプレースすることになります(規則14.2 e )。従ってバンカーの後方のジェネラルエリアが一番近ければ,そこにリプレースすることになります。

 

7 この問題は,ゴルフコースという平面など全くない場所に,一般的には平面上における位置関係を表している「ある場所の直後」という用語を使用したことが原因です。因みに英語版は《The spot right behind where the ball is embedded.》となっています。ゴルフコースは三次元の空間を使用しているので,規則の作成においても,常にそれを意識する必要があります。妥当かどうかわかりませんが,救済の基点を「球が地面にくい込んでいる場所の直後の箇所で,その上下を問わない。」としただけで解決できると思います。

  ちょっと気になる規定があるのでそれも紹介します。

 

  定義:救済エリア(225頁)に,

【救済エリアの大きさを決定するためにクラブレングスを使用する場合,プレーヤーは溝,穴または類似の物を直接越えて計測することができるし,物(例えば,木,フェンス,壁,トンネル,排水管やスプリンクラーヘッド)を直接越えてまたは中を通して計測することができる。しかし,自然にうねった地面の中を通して計測することは認められない。】

 

  救済エリアの大きさを計測する場合と,基点を決定する場合は違うので,私の解釈がこれに触れることはないと思いますが,自然にうねった地面の中を通して救済エリアの大きさを計測することは認められないと気付いたなら,それでは,元の球がある箇所と球が地面にくい込んでいる場所の直後の箇所は,直後と言う以上全く一致することはないのであるから,その距離の計測をどうすべきか,気付くべきであったと思います。

            以上

 

 私の解釈と結論は異なりますが,参考となる解説が見つかりましたのでご一読ください。

https://rock-pine.jp/q&a2019/1071.html

 

 以上いろいろと検討してきましたが,私は規則16.3 bの規定そのものが拙劣であることがすべての原因であるような気がします。いずれ規則16.3 bの規定そのものを検討したいと思います。

https://ameblo.jp/modernizedgolfrules2019/entry-12687694951.html