ラテラル救済が受けられる場合

2019年7月5日

(2021年4月14日加筆)

(2022年12月7日訂正)

 

1 ゴルフ規則に基づいて救済を受ける場合,次の四つが主なもので,そのうちの一つがラテラル救済です。

 

 ⑴ 「完全な救済のニヤレストポイント」を基点として,1クラブレングスの範囲に球をドロップする救済〈Nearest Point of Complete Relief〉。

 ⑵ 「直前のストロークが行われた箇所」を基点として,1クラブレングスの範囲に球をドロップする救済〈Stroke-and-Distance Relief〉。

 ⑶ 「ホールと元の球の箇所,あるいはホールと元の球がそのペナルティエリアの縁を最後に横切ったと推定される地点とを結んだ後方線上を通る基準線」に基点を選択して,1クラブレングスの範囲に球をドロップする後方線上の救済〈Back-On-the-Line Relief〉。

 ⑷ 「球がレッドペナルティーエリアに入った場合レッドペナルティーエリアの縁を最後に横切ったと推定される地点を基点として,あるいは,アンプレヤブルの救済で元の球の箇所を基点として,2クラブレングスの範囲に球をドロップするラテラル救済〈Lateral Relief〉。

  この稿では,⑷のラテラル救済についてだけ検討してみます。

 

2 〈Lateral〉とは,横の,横に向かってという意味です。ゴルフ規則はラテラル救済とは何か定義していません。ラテラル救済とは,球がレッドペナルティーエリアに入った場合,または球をアンプレヤブルとする場合に基点からホールに近づかず,且つ基点より2クラブレングスの範囲に球をドロップする救済」とでも注釈できるでしょうか。

情けない注釈ですが,どなたか,ラテラル救済のより良い定義があったらコメントをお願い致します。

新ゴルフ規則は,ラテラル救済について,球がレッドペナルティーエリアに入った場合,または球をアンプレヤブルとする場合の救済の一つであると明確にしたのですから,しっかりと定義すべきであったと思います。

 

⑴   ラテラル救済が受けられる場合の基点は,前記1の⑷で説明したとおり「球がレッドペナルティーエリアの縁を最後に横切ったと推定される地点と球をアンプレヤブルとする場合元の球の箇所」の2つだけで,他にはありませんから覚えておくべきでしょう。特に混乱してはいけないのは,異常なコース状態,目的外グリーン,プレー禁止区域から救済を受ける場合の基点として使う「完全な救済のニヤレストポイント」という概念です。ラテラル救済においては,「完全な救済のニヤレストポイント」の概念は使いません。(ついでながら後方線上の救済においても完全な救済のニヤレストポイントの概念は使いません)

 ⑵ 救済エリアのサイズが2クラブレングスとされているのもラテラル救済だけです。ラテラル救済以外の救済エリアのサイズは1クラブレングスと覚えておくべきです。

 ⑶ ラテラル救済においては,通常ドロップする範囲は,基点から2クラブレングスの半円形になります。厳密にいえば,「基点よりホールに近づいてはならない。」と規定されているので,ホールから基点までと同じ距離であればよいのですから,半円形の直線部分が観念的には曲線となります。

   しかし,ドロップする範囲がきれいな半円形になる場合は,そんなに多くありません。救済エリアの場所に制限があるためです。それが問題なのです。

 

3 ラテラル救済において面倒なのは,救済エリアの場所に制限があることです。すなわち,通常ドロップする範囲は,基点から2クラブレングスの半円形になりますと申し上げましたが,ラテラル救済における場所の制限があるため,2クラブレングスの半円形にならない場合が多いのです。そして場所の制限は,レッドペナルティーエリア(17.1d⑶)とアンプレヤブル(19.2c,19.3 a)で異なります。

  ラテラル救済が規定されているのは,規則17.1d⑶,19.2c,19.3aの3箇所です。規則ごとに順次解説します。

 

 ⑴ 規則17.1d⑶  球がレッドペナルティーエリアに入った場合におけるラテラル救済

  ≫基点:球がレッドペナルティーエリアの縁を最後に横切ったと推定した地点

  ≫救済エリアのサイズ:2クラブレングス

  ≫救済エリアの制限基点よりホールに近づいてはいけない。同じレッドペナルティーエリア以外であれば,どのコースエリアでもよい

   *この意味は,あるペナルティーエリアの球に対する救済を受けるのであるから,同じペナルティーエリアに,ライの良いところがあるからと言って,そこにドロップすることは,ペナルティーエリアから救済を受けるという趣旨に反するということでしょう。

   *従って同じペナルティーエリア以外であるなら,要件を満たせば他のペナルティーエリア,バンカー,パッティンググリーン,ティーインググラウンドでも許されるのです。なお,詳細は規則17.1d⑶を読んでください。

   *以上のとおり,レッドペナルティーエリアには救済エリアの制限があるので,基点から2クラブレングスの半円形になるはずの救済エリアの範囲が,コースと平行して設置された池であれば円を4等分したような形になります。

     パッティンググリーンの手前に池があり,池の手前からレッドペナルティーエリアに球が入った場合なら救済エリアは基点から2クラブレングスの半円形になります。しかし,パッティンググリーン側から戻ってレッドペナルティーエリアに球が入った場合などでは,救済エリアは基点よりホールに近づいてはいけないという制限があるので,ピザを8等分した1片のような形になってしまう場合があります。それどころか,存在しない場合すらあるのです。

   *基点から2クラブレングス以内にコースエリアが複数ある場合,どのコースエリアにドロップしても良いのですが,その球を救済エリアにドロップしたときに最初に触れたのと同じコースエリアの救済エリアに球が止まらなければならないのも重要な制限です。

    ゴルフ規則(2019年版)「図#2 17.1d:レッドペナルティーエリアの球に対する救済162頁」のイラストを参照してください。

 

   *先ほどラテラル救済においては「完全な救済のニヤレストポイント」の概念は使いませんと申し上げましたが,後方線上の救済とラテラル救済では,完全な救済のニヤレストポイントを基点とする場合と異なり,ストロークに対し物理的障害がなくなる所という要件(規則16.1a)がありません。後方線上の救済においてはあまり多くは問題となることはないと思いますが,ラテラル救済においては,ドロップした球は救済範囲に止まっているが,プレーヤーのスタンスやスイング区域が,レッドペナルティーエリアに掛かってしまう場合があります。ラテラル救済には物理的障害がなくなる所という要件がないので,そのドロップは正しく完了しています。再ドロップをしたら球を動かしたことになります(9.4a)。

 

 ⑵ 規則19.2c アンプレヤブルで,球がバンカー外にある場合のラテラル救済

  ≫基点:元の球の箇所(球が止まっている箇所)

  ≫救済エリアのサイズ:2クラブレングス

  ≫救済エリアの制限:基点よりホールに近づいてはならない。どのコースエリアでもよい。

  *当然のことながら,元の球が確認できない場合は,Stroke-and -Distanceの救済しか受けられません。

  *基点から2クラブレングス以内にコースエリアが複数ある場合,球はその球を救済エリアにドロップしたときに最初に触れたのと同じコースエリアの救済エリアに止まらなければならない。例えば,救済エリアにバンカーがあったら,そこにドロップできますが,バンカー内に止まらなければならないということです。

  ゴルフ規則(2019年版)「図19.2:ジェネラルエリアのアンプレヤブルの球に対する救済の選択179頁」のイラストを参照してください。

 

 ⑶ 規則19.3a⑶ アンプレヤブルで,球がバンカー内にある場合のラテラル救済

  ≫基点:元の球の箇所(球が止まっている箇所)

  ≫救済エリアのサイズ:2クラブレングス

  ≫救済エリアの制限:基点よりホールに近づいてはならない。球をそのバンカー内の救済エリアにドロップし,球はその救済エリアに止まらなければならない。

   従って,「基点(バンカー内にある球)からホールに近づかず,2クラブレングス以内の範囲で,且つそのバンカー内となると,球をドロップする半円形の範囲の一部がバンカー外となって,ドロップ範囲が変則的な形になる場合があります。

   ゴルフ規則(2019年版)「図19.3: バンカー内でアンプレヤブルの球の救済の選択肢180頁」のイラストを参照してください。

 

4 私は,ラテラル救済を認めると極めて不都合な箇所があると思います。つまり,混乱の元となるような箇所は,イエローペナルティーエリアにすべきではないかと思います。ストロークと距離の救済とホールと基点を結んだ後方線上の救済だけにすべきではないでしょうか。いくつか理由を挙げてみます。

 

 ⑴ ゴルフ規則(2019年版)「図#2 17.1d:レッドペナルティーエリアの球に対する救済162頁」のイラストを見てください。このイラストの真ん中で下方(フェアウエー部分です)にパッティンググリーンがあったと仮定してください。ここでラテラル救済を受けるとなると,基点は,「球がレッドペナルティーエリアの縁を最後に横切ったと推定した地点(規則17.1d⑶)」ということになります。つまり,X点から2クラブレングスに茶色の救済エリアである3は,ピザを12等分したエリアどころか,存在しないエリアということもあり得ます。このような状況でもレッドペナルティーエリアであるからと救済を受けている場合を見かけます。これは明らかに誤所からのプレーです。

   もし,競技においてドロップ範囲が存在しないのではないか,また,ドロップしても,その範囲が余りにも狭いと球はドロップ範囲に止まりませんからプレースということになります。そのプレースすべき箇所に異議が出ることも予想されます。

 

 ⑵ ストロークと距離の救済,もしくはホールと基点を結んだ後方線上の救済とすべきとするもう一つの理由は,例えば,パー3の手前に池があったとします。球が一度グリーンに乗って戻って,レッドペナルティーエリアの池に入った場合,ラテラル救済を選択してドロップをしても坂がきついと球は止まらず,また,救済エリアが変則半円形どころか槍の穂先状になってしまいます。ドロップしても球が救済エリアに止まることはないので当然プレースとなり,極めて良いライから数メートルを寄せてボギーという場合があります。安全策をとったプレーヤーに比べ,ホールをぎりぎりに狙って失敗したプレーヤーに対する罰が甘すぎると思いませんか。

 

 ⑶ 私は,以上の理由から,レッドペナルティーエリアにするとドロップ範囲が余りにも狭くなってしまう場合,プレーヤーにとって,余りにも有利になってしまうような場合には,委員会がイエローペナルティーエリアにすべきであると思います。その他に,ドロッピングゾーンの設置もありますが,ローカルルールはこの際問題にしません。

   多くの方が,2021年のマスターズ・トーナメントを観戦したことと思います。オーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブのコースにもパー3でパッティンググリーンの手前に池が配置されているホールがいくつかありました。その池の周囲に黄色いラインが引かれていました。救済エリアの範囲について問題となった場合に,映像もあるので,審判員が簡単に決定できないからではないでしょうか。

以上

  なお,「後方線上の救済が受けられる場合」についてもご一読ください。

https://ameblo.jp/modernizedgolfrules2019/entry-12640293678.html