動いている球をプレーすること

2019年6月24日

(2023年6月17日訂正)

1 ゴルフ規則10.1dは,「動いている球をストロークすること」として次のとおり規定しています。

  「プレーヤーは,動いている球に対してストロークを行ってはならない:」

  もう少し正確に記述すると,プレーヤーは,動いている自分の球に対してストロークを行ってはならないということです。

  ストロークプレーで,この規則に違反して行ったストロークはカウントし,且つプレーヤーは2罰打を受けることになっています。ストロークの1打をカウントし忘れないよう気を付けなければなりません。

 

2 何の疑問もないように思えますが,かなり難しい問題を含んでいます。

  ゴルフ規則10.1dは,動いている自分の球に対してストロークを行っても罰打がない場合,あるいは罰打が2ではなく1となる例外があるとして,次のとおり規定しています。

  例外1―

   プレーヤーがストロークのためにバックスイングを開始した後に初めて球が動き始めた場合: この状況で動いている球に対してストロークを行うことは,この規則ではなく,規則9.1bで扱うとしています。規則9.1bを要約すると,

   「プレーヤーがストロークを始めた後や,ストロークのためにバックスイングを始めた後に,プレーヤーの止まっていた球が動き始めたが,プレーヤーがそのストロークを続けた場合,球が動いた原因に関係なく,その球をリプレースしてはならず,ストローク後に球が止まった場所からその球をプレーしなければならない。」としています。即ち,そのストロークは通常のストロークであるということです。

   以上は,球が動き始める前にすでに球がインプレーとなっている場合です。「球が動いた原因に関係なく」としているのは,ストロークの有効性についてのことで,罰打が課されるか否かは別の問題で,次のとおりです。

   「プレーヤーが球の動く原因となっていた場合,罰があるかどうかは規則9.4bを参照。」となっています。

 

   9.4bは,「プレーヤーが,止まっている自分の球を拾い上げたり,故意に触れたり,動かす原因となった場合,そのプレーヤーは1罰打を受ける。」となっています。プレーヤーに球を動かす原因がなければ無罰です。

 

   例外2―

   ティーから落ちつつある球: ティーから落ちつつある球に対してストロークを行うことは,この規則ではなく,規則6.2b⑸で扱うとしています。規則6.2b⑸を要約すると,

   「球がティーアップされたか,地面に置かれたかに関係なく,ホールをスタートする場合や,規則に基づいてティーイングエリアから再びプレーする場合は,ストロークを行うまで球はインプレーにならない。」

としています。旧ゴルフ規則には,前記の明文がなかったのですが,同規定があるかの如き取り扱いをしていました。このブログ内の次の稿を参照してください。

 

      「球をリプレースする場合の具体的箇所」

 

   即ち,球がインプレーになっていないのなら,球を動かそうが拾い上げようが罰はありません。例えばティーから球が落ち始め,地面に置いた球が動き始め,球が動いている間,もしくはその後停止した球にストロークを行った場合,罰はなくそのストロークはカウントし,その球はインプレーとなるとされています(規則6.2b⑸の末尾参照)。

   形式的には,動いている球,もしくは動いた後停止した球に対するストロークですが無罰としているものです。罰が課されない実質的な理由は,ティーイングエリアからその球にストロークを行ったときに,球がインプレーになるので(定義:インプレー,及び定義:ストローク参照),未だ球がインプレーになっていないからということでしょう。

 

   以上,例外1―と例外2―の規定の趣旨は,球が止まっているのを確認してストロークを開始しても球が動き出すことがしばしばあり,だからと言ってストロークを中止することは困難なためストローク自体を有効なものとし,且つ無罰とし,プレーヤーにその球が動く原因となった事由がある場合のみ1罰打を課すことにしたものです。

 

   例外3―

   水の中で動いている球: 球が停止しているのか否か,確認は難しいので常にストロークをすることができます。

 

3 2018年全米オープンの3日目,フィル・ミケルソンが動いている球を追いかけてパターでストロークして,カップの方向に戻しました。これは明らかに動いている球をストロークしたと言えるでしょう。(追記を参照)

  しかし,短いパットを外して,「おっとっとっと」と言って球を追いかけてパターで止める場合などを見たことがあると思います。これは,動いている球をストロークしたのでしょうか。

  動いている球をパターで止めただけの場合,足で止めたのと同じで,動いている球をストロークしたと言えないのではないでしょうか。

  というのは,ゴルフ規則11.2bは,「プレーヤーが動いている球(自分の球,他のプレーヤーの球を問わない)の方向を故意に変えたり,止めた場合,そのプレーヤーは一般の罰(2罰打)を受ける。」とされています。

 

(1) ゴルフ規則10.1d

   「プレーヤーは,動いている球に対してストロークを行ってはならない:ストロークプレーで,この規則に違反して行ったストロークはカウントし,プレーヤーは2罰打を受ける。」ことになっています。つまりストロークは有効で,球はあるがままの状態でプレーすることになります。

 

(2) ゴルフ規則11.2b,及び 11.2c⑴, 11.2c⑵

   「プレーヤーが動いている球の方向を故意に変えたり,止めた場合,そのプレーヤーは一般の罰(2罰打)を受ける。」に続けて,11.2c

   「方向を故意に変えたり,止めた球をプレーしなければならない所」の規定があります。

    11.2cの⑴ パッティンググリーン以外の場所から行ったストロークと11.2cの⑵ パッティンググリーンから行ったストロークの規定を読んでください。⑴の場合,球の方向が変えられたり,止められていなければ,その球が止まっていたと推定する箇所に基づいて救済を受ける。⑵の場合,そのストロークはカウントせず,元の箇所か推定した元の箇所にリプレースすることになっています。つまり,球をあるがままにプレーしてはならないのです。詳しくは説明しませんので,皆さん規則本文を読んでください。

 

(3) 動いている自分の球をストロークしてはいけないとする規定と,プレーヤーは動いている球,特に自分以外の球も含めて方向を故意に変えたり,止めた場合の規定を同一に論じることは出来ないということでしょう。

   しかし,プレーヤーが動いている球に対してストロークを行ったのか,プレーヤーが動いている球の方向を故意に変えたり止めたのか,具体的には行為に明確な差があるとは思えません。それなのに,ゴルフ規則10.1dとゴルフ規則11.2bでは,その後の球の処置が以上のとおり全く違うのです。

   この規定は規則を複雑にしているだけで,妥当な規則とは言えないと思っております。パッティンググリーン上で動いている球をパターで止める行為が良くありますので注意が必要です。

 

4 プレーヤーのクラブが偶然に2回以上球に当たった場合も形式的には動いている自分の球をストロークしたことになりますが,ゴルフ規則10.1dの例外に規定がありません。いわゆる2度打ちは,球がクラブに複数回当たっただけで,ストロークは1回であるとし,例外にしなかったのでしょう。

  ゴルフ規則10.1a「球を正しく打つすること」に規定されています。(する)は間違いと思います。

以上

 

 

追記 (2023年6月17日)

 

 2018年全米オープン,3日目のラウンドが中継されていました。フィル・ミケルソンが動いている球を故意にストロークするという滅多に見られないことをしました。

 ミケルソンは,「あの行為で,2罰打を受けることは知っている。だが,バンカーに落ちるよりは良い。ルールは理解しているつもりだ。無礼な行為だと思われるのなら,皆さんに謝ろう。」と言ったそうです。

 多くのファンがいるミケルソンとしては,いくら「バンカーに落ちるよりは良い。早く次のホールに行きたかった。」と思っても,故意にルール違反をするのは感心しません。

 それではミケルソンどうすれば良かったのでしょうか。13番でのグリーン上の最初のストロークはボギーパットで約4メートルあったそうです。ミケルソンは,ボールがバンカーに落ちるのを見届けてから規則18.1のストロークと距離の救済を選択すればよかったのです。

 1打の罰のもとに,初めの球を最後にプレーした所,すなわち,カップから約4メートル離れたボギーパットをした所に戻り,再度プレーすることができたのです。

 すなわち,パー4でボギーパットをしたのですから5打目です。そこで,Stroke & Distanceの処置を選択すると,カップから4メートル離れたボギーパットをした所からの再度のストロークは,1罰打と1ストロークで7打目になります。そのままカップインすれば7打です。更に1パットを要しても8打です。直前に試し打ちをしたようなものですから,再度バンカーに落とすことはないでしょう。

 ところが,ミケルソンのとった処置は,ボギーパットをした5打目の後,動いている球に対する1ストローク,動いている球をストロークした2罰打,更に2パットでホールアウトしたので10打となってしまったのです。

 もし,ミケルソンがバンカーに入った球を悠然と拾い上げ,カップから4メートル離れたボギーパットをした所に戻り(分らない場合は推定する14.6b),プレースし,再度のストロークに臨んだら,ミケルソンは一体何をしているのだと大騒ぎになったと思います。同じ大騒ぎでも,これなら咄嗟に誰も思い付かないような,Stroke & Distanceの処置をとったミケルソンの規則に対する理解の深さに感心し,その株は大いに上がったと思いませんか。