プレー禁止区域について

2019年6月11日

(2024年4月1日加筆)

1 旧ゴルフ規則は,プレー禁止区域について極めて複雑な規定をしておりました。異常なグラウンド状態の一つである修理地でなければプレーを禁止することが出来ないということになっておりました。そしてゴルフ規則は,修理地について次のとおり定義していました。(旧ゴルフ規則定義24)。

  修理地〈Ground Under Repair〉とは,コース内の次の場所をいう。

  ・ 委員会の指示により修理地の標示がしてある場所

  ・ 委員会から権限を与えられている人によって修理地と宣言された場所

  ・ 他に移す目的で積み上げてある物

  ・ グリーンキーパーが作った穴

  少なくとも私の解釈では,委員会といえども,コースの修理とは全く関係のない区域について,修理地と指示できるという根拠を「裁定集25/7から同25/18までの修理地:定義」から見出すことはできないと申し上げました。

 

2 新しいゴルフ規則は,修理地でなければプレー禁止区域の指示ができないとすることは不都合であるとして,大幅にその要件を緩和しました。

  しかし,プレー禁止区域は,異常なコース状態,ペナルティエリアのいずれかの部分として定めなければならないとしました。(定義:プレー禁止区域)

  更に続けて,

  委員会はどのような理由でも,プレー禁止区域を採用することができるとし,たとえば:

・ 野生生物,動物の住処,環境保護区を保護すること。

・ 若木,花壇,ターフナーセリ,芝の張替え区域,他の植栽区域への損傷を防止すること。

・ 危険からプレーヤーを保護すること。

・ 歴史的,または文化的な価値のある場所を保存すること。

  極めて妥当な改定で,今までこのような規定がなかったことが不思議です。特に危険からプレーヤーを保護するためのプレー禁止などは,一番考慮しなければならないことです。

  それから,実質的にはプレー禁止区域と同じなのですが,目的外グリーンがあります。目的外グリーンについては,規則13.1fに「目的外グリーンから救済を受けなければならない」と規定し,プレー禁止区域とは区別して,パッティンググリーンの章に1項目を設けております。

 

3 しかしながら,プレー禁止区域は,異常なコース状態,ペナルティエリアのいずれかの部分として定めなければならない(定義:プレー禁止区域)。」と規定されていることと,「委員会はどのような理由でもプレー禁止区域を採用することができる(定義:プレー禁止区域)。」との規定について,このような複雑な規定の仕方で良かったのか疑問です。

 ⑴ 当然のことながら,球がプレー禁止区域に入った場合,プレー禁止区域からは無罰の救済を受けられても,他の理由から罰打が課される場合があります。

   異常なコース状態の中のプレー禁止区域に球が入った場合,例えば,規則16.1f⑴のジェネラルエリアのプレー禁止区域に球が入った場合,完全な救済の二ヤレストポイントを起点として罰なしの救済を受けられます。

 

 ⑵ ところが,ペナルティエリアで且つプレー禁止区域に球が入った場合,ペナルティエリアであるとともに,貴重な植物が生息しているなどの理由でプレー禁止区域と指定されているのですから,ペナルティエリア内でそのままプレーできません。当然1罰打となります。以上のことは,規則17.1e⑴,同⑵に規定されています。しかも,この場合,完全な救済のニヤレストポイントからの救済は受けられません。ペナルティエリアからの救済方法によることになっています(17.1d)。さらに,ペナルティエリアからの救済を受け,球はジェネラルエリアにドロップされて止まったが,スタンスがプレー禁止区域に掛かる場合もあります。この場合は,後述のとおり大変複雑な処置となります。この規定は,誤解されやすいと思います。規則17.1e⑴,同⑵

   しかし,ペナルティエリア内の一部がプレー禁止区域と指定されている場合もあると思いますが,その場合の基点は,そのペナルティエリア内でプレー禁止区域となっていない所に完全な救済のニヤレストポイントを求めることになります(規則17.1e⑵の救済エリアの場所に関する制限が,球が止まっているペナルティエリアでなければならないとされている)。すなわち,ペナルティエリアからの救済は受けておらずプレー禁止区域からの救済だけということです。もちろん罰はありません。しかし,極めて複雑な処置になります。

   また,ペナルティエリアプレー禁止区域が,同一区域として指定された場合,球はジェネラルエリアにあるが,スタンスがプレー禁止区域に掛かる場合は,プレーヤーが受けようとしている救済は,罰なしのプレー禁止区域からの救済で,ペナルティエリアの救済ではありませんから,後方線上の救済やラテラル救済を受けることは出来ません。完全な救済のニヤレストポイントを求めて救済を受けます。うっかりスタンスをプレー禁止区域にとったり,後方線上の救済やラテラル救済を受けると誤所からのプレーとなり2罰打となります(16.1f,14.7a)。

   更に,水溜りのあるバンカーの一部をプレー禁止区域にした場合,バンカー内で救済を受けられるか,後方線上の救済を受けるかで罰打が課される場合,課されない場合が生じます。(規則16.1f⑴)。

 

 ⑶ 以上の規定は理屈どおりですが,きわめて複雑で,適用を誤らないか心配です。プレー禁止区域と指定した以上,全ての場合に無罰で救済を受けられるとプレーヤーが誤解する可能性もあります。プロゴルフの試合でも,何時か問題となることがなければよいのですが。

 

 ⑷ 私の所属するゴルフ場で採用した処置についての話です。レッドペナルティエリアと指定された池の護岸工事をするに際し,レッドペナルティエリアと同一の範囲を重複してプレー禁止区域にする必要があったのです。まずは,レッドペナルティエリアに入った球を1罰打でプレー禁止区域外にドロップしなければならないのですが(規則17.1e⑴),以上のとおり,スタンスがプレー禁止区域に掛かったら,さらに,完全な救済のニヤレストポイントを求めて救済を受けなければなりません。また,池を少し大きくするため,護岸の位置を従前の位置より広げて変更する必要もあったのです。しかし,広げた部分は従前の指定ではレッドペナルティエリアではなかったのですから,今回の護岸工事によって生じた,単なるジェネラルエリアの異常なグラウンド状態(修理地)をプレー禁止区域に指定したに過ぎません。

   アマチュアプレーヤーに,とてもそのような状況であることを正しく理解して救済処置を求めることは複雑すぎて不可能と判断し,レッドペナルティエリアの指定を外して,工事個所全体を単純にジェネラルエリアの異常なグラウンド状態(修理地)として,同一範囲をプレー禁止区域と指定し,全て罰なしの救済を受けられるようにしたのです。工事中クラブ競技が何回も行われるのですから,複雑な救済処置を求めると失格者が多数出ることになります。もちろん,レッドペナルティエリアを廃止するのですから,コースレイトが違ってきます。しかし,工事中の半年ぐらいのことですから極めて妥当な処置であったと思います。

  以上のとおり,救済処置を間違わないよう臨時にコースエリアの指定を変更したのですが,それでも,工事前はその箇所がレッドペナルティエリアであったため,修理地のラインを最後に横切った箇所の後方線上で救済を受けようとするプレーヤーを見かけました。ジェネラルエリアの修理地においては,そもそも無罰で後方線上の救済が受けられる規定がありません。ジェネラルエリアの修理地でプレー禁止区域に指定されているのですから,修理地内の元の球に最も近くで,ホールに近づかない箇所に完全な救済の二ヤレストポイントを求めて無罰の救済を義務として受けることになります。もちろん,レッドペナルティエリアであったところを臨時にジェネラルエリアに変更したのですから1罰打でアンプレヤブルの後方線上の救済(19.2b)は可能です。

 

 ⑸ 電磁誘導路の2本のコンクリートレールの間の埋設してあるケーブルを保護するため,2本のコンクリートレールの間を含めた全部をプレー禁止区域にする場合を考えてみます。異常なコース状態の部分ということでプレー禁止区域の指定をすることになると思います。

  異常なコース状態の定義を見ると次のように定義されています。(定義:異常なコース状態)

   ・動物の穴

   ・修理地

   ・動かせない障害物

   ・一時的な水

  電磁誘導路の2本のコンクリートレールの間を含めた全部を一体として動かせない障害物とし,プレー禁止区域の指定をすることになると思います。旧ゴルフ規則が適用されていた時,キャディーさんは,修理をしている状況など何もないのに「修理地と看做してプレー禁止区域の指定をしています。」などと苦しい説明をしていました。改正されたゴルフ規則では,修理地という実体とかけ離れた概念ではなく,2本のコンクリートレールの間を含めた全部を一体として動かせない障害物とみなして,その上位概念である「異常なコース状態」としてプレー禁止区域とされていると説明すべきと思います。

 

4 更に一言付け加えると,プレー禁止区域の例示のところに,危険からプレーヤーを保護することだけでなく施設や備品の損傷を避けるためという1項目を入れたほうが良いのではないでしょうか。

  最近気づいたのですが,ゴルフ場にはよく高圧送電線の鉄塔があります。たいていの高圧送電線の鉄塔敷地は,電力会社のものでしょう。したがって鉄塔敷地は他人の土地であるからアウトオブバウンズとするとプレーヤーが思わぬ不利益を受けてしまいます。ゴルフ場と電力会社の暗黙の了解のもとにコース内としているのでしょう。鉄塔敷地をコース内とすると,鉄塔の4本の基礎の外側に球があれば動かせない障害物として救済を受けられますが,4本の基礎の真ん中に球があったら,動かせない障害物による障害はありません。そこからのプレーは危険なため多くのゴルフ場は,高圧送電線の鉄塔敷地内をプレー禁止区域としています。

  私は,ローカルルールで「高圧送電線の鉄塔敷地は,修理地とみなしプレー禁止区域とする。」という規定を見たことがあります。旧ゴルフ規則が,修理地でなければプレーを禁止することが出来ないとなっていたことに未だに捉われていると思いました。鉄塔敷地内の工作物全体を一体として動かせない障害物とみなして,その上位概念である「異常なコース状態」としてプレー禁止区域とされていると説明すべきと思います。

 

5 さらに,(定義:プレー禁止区域)の末尾に,

  委員会は線または杭でプレー禁止区域の縁を定めるべきで,そのプレー禁止区域が普通の異常なコース状態やペナルティエリアとは異なるものであることが識別できる線または杭(杭の上部に印をつけるなど)を使用するべきである。

  と規定しました。

プレー禁止区域からプレーすると誤所から球をプレーしたものとして,規則14.7aに基づく一般の罰(2罰打)を課されるのですから(16.1f ,17.1e の末尾参照),杭に特別な印を付けることはどうしても必要なことと思います。

以上