ストロークと距離の救済とは何か

2019年1月14日

1プレーヤーが任意でストロークと距離の救済を受ける場合

 

  規則18.1は,「ストロークと距離の罰に基づく救済はいつでも認められる」と規定し,「いつでもプレーヤーは,1罰打を加え,直前のストロークが行われた場所から元の球か別の球をプレーすることによって,ストロークと距離の救済を受ける事が出来る。」と説明しております。

  このストロークと距離の救済(Stroke and Distance)の救済を受けるについて,いくつかの注意書が続いています。具体的な例を挙げ,重要だがうっかりすると気付かない事項だけを取り上げたいと思います。

 

⑴ いつでもの意味

  いつでもといっても,あるホールにおいて,球が一度もインプレーになっていない場合は,Stroke and Distanceは認められません。規則6.aは,ティーイングエリアの外からストロークした場合,ホールをスタートしたことにはなるが,球は一度もインプレーになっていないとしています。この場合は,規則6.1b ⑵に従って誤りを訂正しなければなりません(ストロークプレーに限る)。

  球が何処にあっても,球の所在確認も必要なく,球筋や球の位置が気に入らなくても救済が受けられます。

  Stroke and Distanceは,他の救済処置が認められていてもその選択をしないで,いつでもStroke and Distanceを選択できるということです。

  これも誤解されやすいことですが,「直前のストロークが行われた場所から次のストロークを行うこと」とされている直前のストロークの1打は当然ストローク数に算入します。後は「1罰打のもとに直前のストロークが行われた場所から次のストロークを行うこと」ができるということです。

  これは私が経験したことですが,同伴プレーヤーが,残り150ヤード程のショットで,グリーン手前の池に入れてしまったのが納得いかなかったのか,ここでもう一回打ちますと言って,見事グリーンに乗せました。後でその同伴プレーヤーの申告打数がおかしいと気付いたので,打数をどのように計算をしたか伺ったのです。案の定,その同伴プレーヤーは,池に入れた球についてペナルティエリアの救済を受けるときの1罰打を加算していました。Stroke and Distanceは,直前のストロークの1打は,当然ストローク数に算入しますが,その球がペナルティエリアに入ろうが,アウトオブバウンズになろうが,紛失しようがその罰打はないことに注意してください。Stroke and Distanceを選択したこと自体に1罰打が付いて次のストロークを行うだけです。

  ゴルフ規則は,救済処置がとれる場合,必ず第1にStroke and Distanceの処置がとれると記載しています。しかし,Stroke and Distanceは,当該救済処置,例えば球がペナルティーエリアに入ったから,あるいは球がO.B.になったから生じた権利ではなく,前記のとおり何の理由もいらないのです。その根拠は規則18.1に「ストロークと距離の罰に基づく救済はいつでも認められる」の規定にあるのです。R&Aは親切のつもりで記載しているのでしょうが,誠にもってゴルファーを混乱させる規定です。

 

⑵ 直前のストロークが行われた場所からの意味

  旧ゴルフ規則は,「いかなるときでも,プレーヤーは1罰打のもとに,初めの球を最後にプレーした所のできるだけ近くで球をプレーすることができる(旧ゴルフ規則27-1.a.)。」としていました。それなのに,「プレーヤーが前のストロークをしたところから次のストロークをすることを選んだ場合や,・・・・(旧ゴルフ規則25-5.)。」と,全く同じことを言っているのに,規則の位置によってわざわざ異なる表現をしていたのです。

  新ゴルフ規則は,必要な文言の違いは別として,「直前のストロークが行われた場所から次のストロークを行うこと(規則14.6,同18.1)。」と統一しました。こんなことすら今まで改正来なかったのです。

  直前のストロークが行われた場所から球をストロークするといっても,これがかなり面倒臭いのです。球をストロークするには,まず球をインプレーにする処置が必要です。

  規則18.1は,「直前のストロークが行われた場所から元の球か別の球をプレーすること」と言っているだけで,球をインプレーにする処置については,「規則14.6参照」としか規定しておりません。球をインプレーにしなければならない場合は,Stroke and Distanceだけではないので,規則の構成上別の条項になるのは致し方のないことですが十分な注意が必要です。

  規則は,「図14.6: 直前のストロークを行った場所から次のストロークを行う」としてイラストで紹介しています。すなわち,ドロップとプレースの処置です。

  主な改正点は,ジェネラルエリア,バンカー,ペナルティーエリアのドロップ箇所について,その直前のストロークを行った箇所を基点とし,1クラブレングスと明確にしました。旧ゴルフ規則が使用していた「特定の箇所にできるだけ近い所」という曖昧な概念を廃止し,「直前のストロークが行われた箇所が分からない場合は推定しなければならない。」としました。基点から1クラブレングス以内としたこと,推定すること,いずれも極めて妥当な改正です。

  但し,これは球をドロップする場合の規定で,球をリプレースする場合は,「球は元の箇所にリプレースしなければならない(14.2 c)。」,「元のライに最も近く,最も似ていて(14.2 d⑵」などとされているので気を付けなければなりません。これについては,「規則14.6」の検討を後日致します。

  ここで,注意してほしいことは,パー3などでよく見かけますが,球がペナルティーエリアに入った場合,もう一回ティーイングエリアで打ちますと宣言するプレーヤーがおります。これは,元の球がペナルティーエリアに入った場合の規則17.1d⑵の救済を受けているものではない場合がほとんどです。

  元の球がそのペナルティーエリアの縁を最後に横切った地点とホールを結ぶ後方線上が,たまたまティーイングエリア上になることもあるかもしれません。その場合は規則17.1d⑵の救済ですが,ほとんどの場合後方線上は,ティーイングエリアを大きく外れるでしょう。それでも,もう一回ティーイングエリアで打ちますと言えるのは,17.1d⑵の後方線上の救済ではなく,規則14.6aのStroke and Distanceの救済処置を選択しているのです。救済の方法は似ていて罰打も同じですが,救済を受ける根拠条文は全く違います。

  更に注意すべきことは,通常ストロークと距離の救済を受ける場合,プレーヤーは,一度インプレーとなった球を元の場所にドロップして,再度インプレーにしなければなりません。ところが,直前のストロークをティーイングエリアから行った場合に限り,球を元の場所にドロップしてインプレーにする必要がないのです。

  即ち,ゴルフ規則6.2aは,規則6.2bの⑴から⑹までの規則は,プレーヤーにティーイングエリアからプレーすることを認める場合は,何時でも適用されるとしているからです。例えば,ティーイングエリア内であれば元の場所でなくてもよく,ティーアップが出来(6.2bの⑵),ティーイングエリアを改善して良く(6.2bの⑶),更に球が一度インプレーになったら,アウトオブプレーになった球をドロップ・プレースした瞬間に球はインプレーになるのが通常ですが,ティーイングエリアの規則が適用されるので,ストロークをするまでその球はインプレーとはならない(6.2bの⑸)としているのです。

  ティーイングエリア以外で受けるストロークと距離の救済とは,その方法と効果が大きく異なっているのです。

 

2 プレーヤーが義務としてストロークと距離の救済を受けなければならない場合(紛失とOB.の場合)

 

  規則18.2は,球が紛失またはアウトオブバウンズとなった場合,「ストロークと距離の救済を受けなければならない」と規定しました。

  旧ゴルフ規則が,27-1 b. c. と紛失・アウトオブバウンズの処置をそれぞれ規定していたものを「ストロークと距離の救済」の規定を準用して,その処置を義務としたものです。

  ストロークと距離の救済は,歴史的には球が紛失した場合の処置として規定されていたようです。公正で極めて汎用性の高い規則であるため,それをさらに進化させ,適用する要件を大幅に緩め,「ストロークと距離の救済」を独立した規則としたものと思います。

  しかしながら,「ストロークと距離の救済」の処置を紛失球とアウトオブバウンズに準用し,その処置を義務とすれば明解になるのに,歴史や伝統に過度に縛られたゴルフ規則は,大昔からあった規定を削除することが出来なかったのです。そのことが,旧ゴルフ規則27-1 a. b. c. 更に27-2.の暫定球の相互関係の理解を困難にしていたのです。

 

3 暫定球とストロークと距離の救済の関係

 

  規則18.3は,暫定球の場合,「ストロークと距離の罰に基づき暫定的に別の球をプレーすることができる。」と規定しました。暫定球が認められる要件があっても,暫定球としないでStroke and Distanceの選択をするのはプレーヤーの任意です。

  暫定球が認められる要件で,旧ゴルフ規則と違うのは,「球がペナルティーエリアで紛失したかもしれないが,コース上の他のどこかで紛失している可能性もある。」場合にも暫定球を認めることにしたことです。ペナルティーエリアがかなり先にある場合,紛失場所の推定は困難ですから妥当な改正であったと思います。   以上