まずは【前編】古典戯曲への誘い 『スペインの悲劇~ヒエロニモの怒り~』夏目桐利インタビューをお読みください。
〜続き〜
─囁き声といえば、演劇とは思えないほど小さな声で会話しますよね。客席17席という空間ではちょっとした息づかいまで聞こえますが、今回の上演ではどうするんですか?
夏目
「声は“ひそひそ話”をベースにしています。物語の背景として、お城のなかで権力が間違った方向に行ってる……その権力に怯えながら、下の人達は上の間違いを暴きたい、という状況ですから、そんなに大きな声でしゃべれない。この劇場空間でどこまで声のボリュームを落とせるか、足音を消せるかを実験しています。暗くて静かななかで聞こえる彼らの“ひそひそ話”が、響く兵隊の足音との対比になればいいですね」
─暗く、静か、というのは現代古典主義のイメージでもあります。“空間作り”にとてもこだわっていますよね。稽古を拝見していると、夏目さんの演出は「そのシーンからどういう印象を受けるか」「そのシーンはどういうふうに空気が動いているか」という“空間全体の在り方”にとても気を遣っているなと感じました。
あと、これは私が女だからかもしれませんが……夏目さんの演出からは「女性の描き方」も意識されているように思うんです。
たとえば『マクベス』では原作にない父と娘の関係を主軸にし、女性が、マクベス夫人や魔女のように「翻弄する存在」だけでなく、「翻弄される存在」また「それでも意思と葛藤を持つひとりの人間」としての面も描かれていました。『シラノ・ド・ベルジュラック』ではヒロイン役を登場させない(そこにいるものとして周囲が演じる)ことで、原作ではともすると現実味がない理想の美女になる可能性もあるヒロインを、観客それぞれが自分が感情移入できる女性像として想像することができました。その結果、違和感がうまれにくいのではないかな、と思います。
夏目
「古典の場合、女性が“付け足し”みたいになっちゃう作品も多いなぁと感じます。でも、そこは救いたくなるんですよね。
西洋の古典芝居は、位の高い人に見せたり、男性が演じたり、多人数を出演させないといけなかったりといろんな事情があるなかで書かれているのでしょう。現代とは背景が違うからこそ、物語の大筋や本質を変えないことさえ気をつけていれば、今の人達がもっと共感できる見せ方ができるのでは、と思っています。昔も今も、人間として感じていることや大事なことは、きっと同じなので」
─たしかに、古典を観る時には頭のなかで「これは今の時代とは違う」というスイッチングをして観ることで、現代ではしっくりこない設定も納得しているところがあります。夏目さんの演出は、観客が自分で埋めているその違和感をこえる橋渡しともなっています。そこに夏目さん独特の世界の見方や、人間の考え方が反映されているのが劇団現代古典主義さんの面白さのひとつでもあると思います。
いろんな人がそれぞれの視点で解釈した古典戯曲を上演すると、同じ古典作品でも何度も観る楽しみがあります。欧米ではそうやって多くの古典戯曲の上演がおこなわれていますが、日本もそうなると演劇の楽しみが増えそうです。これからもさまざまな古典戯曲の上演を楽しみにしています。
聞き手:河野桃子(ライター)
第31回池袋演劇祭参加作品
The 4th floor series vol.3
スペインの悲劇~ヒエロニモの怒り~
原作 トマス・キッド(1558~1594)
脚色 夏目桐利
▷公演日程
9/14(土)14:30・18:30★
9/15(日)14:30・18:30★
9/16(月)14:30
★…アフタートーク
※開場・受付は開演の30分前より
▷会場
※最寄駅
東新宿/西武新宿駅/新宿三丁目駅/新宿駅
▷チケット料金
前売4,000円 当日4,200円
▷上演時間
70分を予定しております。
◆トマス・キッド《Thomas Kyd 》
イギリスの劇作家。
イギリス初演1587年(説有力)以降、15年に渡り上演されたヒット作。 「復讐悲劇」の先駆けで、シェイクスピア「ハムレット」の原案と言われている。
また、「スペインの悲劇」は英国文学史上初の「劇中劇」が用いられた作品。
◆物語
16世紀後期スペイン。
司法長官ヒエロニモの伺い知れぬところで、王族インペリアと恋仲であった息子ホレイショーが宮廷の何者かに殺害される。
ポルトガル植民地獲得という国家利益の為に我が子を殺害された一介の役人ヒエロニモが、王族相手に果たす復讐にご注目ください。
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