次のチャンスはすぐ訪れた。


しかし、その事務所は

ホントに所属したい本命とも言える事務所だったから

落ちるのが怖かった。


むしろ一次の書類審査で落ちると思っていたから、電話が来たときはビックリした。


オーディションは平日だったので会社を休んだ。


わたしは月~金まで薬剤師をしている。

実に退屈な仕事。

抜け出したくて仕方ない日々。



今回のオーディションは 社長と1対1で行う。

みんなの前でウォーキングするのも緊張するが、個室で1対1というのも

やはり声が震える。


ターンするときにつまづきそうになったり、ビデオテストの自己PRでは噛み噛みだし。


でも、1対1でじっくり話を聞いてくれる社長に好感。


本来はオーディション結果は郵送で知らせるのだが、

私は応募の時期がみんなとズレてしまい、他の人は先々週オーディションが終わっているとのこと。


その関係もあり、わたしの結果だけは今日中に電話で知らせると言われた。



結果は3通りあり、


1、合格 (翌日から売り込み開始)

2、レッスン生としての合格 (レッスン中でも仕事はもらえる)

3、不合格


結果を聞くのが怖くて、夕方はずっとケータイの着信にビクビクしていた。


 

結果は2番という中途半端なもの。


しかし、翌日 再度事務所に呼ばれ、社長が

「姿勢が悪いからウォーキングとか1からしっかりやらないとね。」

「若いからまだこれからだしね」

とか言ってくれたのが嬉しかった。


自分は24歳という モデルを目指すには遅い年齢だと思ってたから

なんだか嬉しかった。


モデルってのは若い人だけじゃないし、ミセス雑誌に出てる人だって立派なモデルだし

女性は努力次第で30代でも輝ける。

自分も女性に生まれたかったよ。

とイケメン社長は言った。


それに

「どんな雑誌に出たい?」とか希望を聞いてくれて、ちゃんとプロフィールにメモしてくれていた。


この事務所はモデル1人1人を大事にし、マネージャーとの関係も充実させるよう努めている

その雰囲気が感じ取れた。


レッスンにはもちろんお金がかかる。


でもネットで見ていた一般的なモデルスクールに比べたら安いし

レッスン生がお金に困らないように

レッスン中でもなるべく仕事のチャンスを与えてくれるとのこと。


未経験で ポーズのとり方すらわからない私には

とりあえずレッスンは必要だ。


たとえ仕事がもらえなくても、モデルとして成功しなくても

このまま何もせずに諦めてしまうよりは

ずっと大きな経験ができるだろう。



レッスンは3週間後に始まる。



楽しみで楽しみで仕方ない。




オーディション当日、少し早めに会場近くまで行き

大好きなドトールで時間の経過を待った。


気持ちを落ち着かせてから会場までゆっくり歩いた。



途中、前後を歩く女の子達はわたしと同じ地図を持ってる。


明らかに同じオーディションを受ける子達だ。



ついつい、スタイルや身長、ルックスをチェックしてしまう。


保護者付きの子もいる。

きっと未成年だろう。


若さが羨ましい。


どの事務所の募集要項を見ても 私は年齢制限ギリギリの24歳。


中には上限が22歳ぐらいの事務所も少なくない。


だから焦っていた。


いくら頑張っても 来年になったらもっと可能性がなくなる……



会場に着いて、中の雰囲気に圧倒された。


まず、集まった女の子達のレベルの高さに。


身長180センチはあるだろう  あんなに背の高い女の人を初めて見た。


みんなわたしより若いだろう 肌もきれいで顔も小さい。


この場にいる自分が恥ずかしくなった。



会場は その事務所のモデルが日頃レッスンをしている場所。


壁にはその事務所で一番有名なモデルがスライドで映し出されていていた。

誰もが知ってるトップモデル。



今日集まった女の子達は約30人。

社長が現れ、みんなに「どこから来てるの?」


と聞いた。


関東の人は少なかった。


北海道から九州まで あらゆる所からモデルを目指してやってきた。



ひとりひとり名前を呼ばれる。


みんなの前でウォーキングをし、合格者は次の審査に進める。

不合格者はそこで解散。



わたしは受ける前から自信を失っていた。


帰りたいとすら思った。


ウォーキングの仕方もわからないし、若い子ならただ歩くだけでも可愛いだろう。




案の定、不合格。


即帰宅となった。


しかし 今思えば 

この初めてのオーディションで味わった緊張感がその後の経験に生かされているのかもしれない。

2007年夏、2年間かかって歯科矯正を終えた。


そして、2年間勤めた薬剤師としての任務も終えた。

会社を退職したのです。


好きで入った薬学部。

そして進んだ薬剤師の道。

決して楽ではなかったけど、わたしにとって この仕事より大事なものがあった。



モデルになるという夢のため、


学歴や資格なんて捨ててやる。


矯正が終わってすぐ、オーディション用の写真を撮りに行った。



写真が出来上がって、モデル事務所に 片っ端に履歴書を送った。


ネットから応募できる事務所も多かった。



しかし、年齢制限が引っかかることも多く、

一次選考でも何社も落ちた。


ヤケクソになってた頃に、1本の電話。


「今週中に時間作れる?」


あるモデル事務所の社長だった。


話し方からするとかなり若い。

最初は、今週中に面接してくれるって話だったのに

最後のほうには もう採用の方向で話が進んでる。


電話でプロフィール作成まで始まった。


しまいには芸名の話にまで及んだ。



所属にかかる費用の話になったとき

なんか異変を感じた。



わたしは この事務所には魅力を感じない…


所属はあきらめた。


もうすこし他で頑張ってみようと思った。




その2日後、別の事務所からオーディションの知らせの電話が。


誰もが憧れるあのトップモデルが所属する事務所だ。