「馬鹿な・・・継承権を持つ者がいなくなります。」
「シン殿下を、他国に出すなど・・・」
「何の相談もなく・・・」
気弱なユルを排し、シンを次期王座にと目論んでいた大臣たちは、口々に異を唱えた。
しかし、ユルは一歩も引かなかった。
今までのような、気弱さは微塵も感じられない。
「これは、両国の間で決まったことです。まあ、継承権については、私も婚姻を急ぎ、早めに跡継ぎを設けることとしましょう。これでよろしいですね。」
冗談など言うユルではない。
これは、本当なのだと・・・目を合わせた。
「それでは、調印を・・・チェギョン姫よろしいですか?」
「はい、もちろん。」
チェギョンは、ユルと視線を合わせ、それからゆっくりと隣のシンを見た。
少しだけ口角を上げ、がんばれと言っているようだ。
国の未来をかけ、今回の交渉に臨んだ。
思いもよらぬ結果になったが、父はきっと喜んでくれるはずだ。
チェギョンと共に国を支えるパートナーを得たのだから。
チェギョンはずっしりと重い調印書に軽やかにサインを記した。
その隣にユルのサインがすでに記されている。
ユルは、それを確認すると、まだ不満気な表情をしている大臣たちに高く掲げて見せた。
「これにより、両国は未来への新しい関係を築いていく。それは、両国に幸せを運ぶだろう。」
ユルは高らかに宣言をした。

チェギョンが帰国して一か月後
シンたちを乗せたシャトルが滑るように湖面へと降りて行った。
自分の国とは違う、美しい緑が目に飛び込んでくる。
湖の中ほどにあるポートにシャトルが吸い込まれていった。
「ようこそ申国へ、お待ちしておりました。」
出迎えの一行にチェギョンの顔がない。
シンが頭一つ出た状態できょろきょろと周りを探すので、ガンヒョンがすぐに近づいてきた。
「シン殿下・・・姫は王宮で王と一緒にお待ちです。」
「そ・・そうですか・・・・」
あからさまに残念な表情をするので、ガンヒョンは思わずくくくっと下を向いて笑ってしまった。
「これはこれは・・・我が国の殿下を笑うとは・・少し無礼ですね。」
下を向いていたガンヒョンの上から声が降ってくる。
「も・・申し訳ありません・・」
ガンヒョンが頭を下げた声の主は
どこかで聞いたような声の持ち主だ。
ガンヒョンは靴先から、徐々に視線を上げていった。
目に映ったのは、にやにや笑うギョンの顔。
「俺もついてきたよ。おっと・・・後でな・・・殿下は気がはやるようだ。」
久しぶりの再会だというのに、ギョンはくるりと体を回すと、シンの後に続く。
ガンヒョン達もその後ろに慌てて続いた。
王宮で歓迎の言葉を受ける。
チェギョンは目の前にいるというのに、話すこともできない。
シンは堅苦しい一連の行事を忌々しく思いながらも、ぐっと我慢してこなしていった。
全ての行事が終わり、シンは案内された部屋へと向かった。
衣装を脱ぎ捨て、用意されていた部屋着へと着替えると、やっとゆっくりと腰を下ろすことができた。
さて・・・チェギョンに会うには・・・
ガンヒョンに案内を頼まなくては・・そう思った時だった。
――トントンーー
部屋をノックする小さな音
シンは、もしかして・・・
そう思ってドアを開けた。
「来ちゃった・・・へへへ・・・」
会いたくてたまらないチェギョンがそこにいた。