龍のまなざし 21 | ももたろう子のブログ

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「宮」大好きで、お話を書いていました。
引っ越し中です。

「実は・・・私たちは、あなたのおじい様にあなたのことを守るように申しつかっているの。だから、スンヒが韓国に戻ると言うのであれば一緒に行きます。」
「えっ・・・」
優しいチェお姉さんが、真剣な表情でそう言った。
スンヒの頭の中は、聞きたい事やわからないことで軽いパニック状態になったようだ。
言葉がうまく出てこない。
「スンヒ・・・驚かないで聞いてね。」
チェお姉さんの手がスンヒの手をそっと握った。
優しい美しい手だ。
スンヒはその手元から視線をおそるおそるチェお姉さんに向ける。
「あのね、スンヒ。」
ゆっくりとゆっくりとスンヒが混乱しないようにと言葉を紡いでいく
「実は・・・チェギョン・・・あなたの名前は、『シン・チェギョン』と言うの。韓国に戻るのであれば、そのことも知らなければいけないと思う。」
また、わからない話が続いて行く。
自分は、イ・スンヒではない??
シン・チェギョン??
自分の記憶の中に『シン・チェギョン』の名前はなかった。
ずっと『イ・スンヒ』だった。
小さかった時に別れた両親も、大好きなおじい様もそう呼んでいたから・・・
「大丈夫?話が聞けるかしら?」
アジュマが横から心配そうに覗きこむ。
スンヒはゆっくりと頷いた。
「私たちは、あなたが幼くしてこの国に来た時から、ある方の命を受けてずっとあなたの傍にいました。名前を変えなければならなかったのは、あなただと言うことを誰にも知られてはいけなかったから・・・それが、あなたを守ることだった。」
英国に来てから・・・そう・・・思えば、ずっとアジュマとチェお姉さんにお世話になっていた。
おじい様が忙しい時は、アジュマの家にいることが多かった。
おじい様が亡くなってからは、なおのこと。
スンヒは、話を聞きながら自分の幼かった時のことを思い描いていた。
それでも
〝チェギョン”と・・・そう呼ばれた記憶はどこにもな・・・・い・・
そう頭を振ろうとした時だった。
微かに
そう微かに
笑顔の自分が、広い広い庭を歩いている
そんな記憶が、ぽつりと浮かんだ・・・・・そんな気がした。
「宮?」
小さく、唇がそう動く。
それは、スンヒにも思いもかけない言葉だった。
何を指しているのか自分でもわからない。
そんなスンヒの様子を見て、アジュマとチェお姉さんが、手を口に当て、目を大きく開けて顔を見合わせる。
「何か、覚えているの?」
探るように、そして心配そうにチェお姉さんが聞く。
「よくわからない・・・ふっと、頭をよぎった気がしたの・・・どっちにしても・・・・私、父と母を探したい・・・・だから、韓国行きをオッケーしたのよ。おじい様は・・・韓国に戻ってはいけないと何度も、何度も言っていたけれど・・・そのことも、アジュマ達は何か知っているの?」
チェお姉さんは、言いにくそうにその表情が硬い。
「ごめんなさい、スンヒ。まだ、すべてを話すことはできない。でも、あなたの想いを何よりも大切にするようにと言われているの。だから、サンウ様は韓国に戻るなとおっしゃっていたけれど、あなたが戻ると言うのであれば、それを優先します。」
スンヒは、二人の顔を見比べながらきゅっと唇を噛む。
自分は、本当にどうしたいのか・・・
「韓国に戻ります。そして、父と母を探す。一緒に行ってくれたらどんなに心強いか・・・・お願いするわ。」
今度は、スンヒから二人の手を取った。
「殿下、お出ましを。」
内官の声で、シンはすっと足を踏み出した。
女王との面会。
いつにもまして、完璧な皇太子スタイルを身に纏う。
いつもと変わらぬ姿を見せるシンだが、心の中はスンヒのことが多くを占めていた。
通された部屋には、女王とヘンリー王子と婚約者が待っていた。
礼を取って、三人の前に立つ。
「韓国皇室を代表して、この度の慶事に招かれましたこと、心より感謝を申し上げます。本当におめでとうございます。また、皇室の一員である恵政宮に英国において特別な計らいをいただき、合わせて感謝申し上げます。」
シンは、丁寧に感謝の言葉を口にした。
「いえ・・・お礼には及びませんこと・・・あなたのおじい様に当たられる聖祖陛下とは古くからの友人です。伝統を守る立場として、人と人、また国と国の友情は大切にすべきものです。若いあなたたちも、未来永劫良き関係であって欲しいと願っております。」
女王は、にこやかに答えた。
形式に添った挨拶だが、これも大切な儀式だ。
15分ほどの面会がつつがなく終わる。
女王たちは、次の国賓に会わねばならぬ。
部屋を辞しようとした時、シンは思い切って女王に尋ねてみた。
「恵政宮の他に、英国で特別な計らいを受けている者がおりますか?イ・スンヒと言う学生ですが・・・」
唐突な話に女王は怪訝な表情を見せたが、随行の者にそっと耳打ちをし、何度か頷いていた。
「詳しくはわかりませんが・・シン殿下がお尋ねの者は、確かにいるようです。問題はないようです。優秀な学生さんだと思います。」
それだけを言うと、女王はくるりと背を向け部屋を出て行った。
〝スンヒには・・・何か、特別な秘密がある・・・それは何か・・・”
シンはチェギョンにつながる何かがある・・
そんな思いを止められなかった。