1 今回の「表現の不自由展・その後」中止を新聞はどう報じただろう。
朝日・毎日は、ほぼ、同じ論調だ。

朝日 社説「『表現の自由』が大きく傷つけられた。深刻な事態である」
「一連の事態は、社会がまさに『不自由』で息苦しい状態になってきていることを、目に見える形で突きつけた」
毎日 社説「『表現の不自由展』中止 許されない暴力的脅しだ」

一方、読売は淡々と事実を報道するのみで、産経はいつもの論点ずらし。
<読売:4~6日>一方、淡々と報じている印象を与えるのは読売。4日付に2社の第3項目扱いの2段で「『少女像』企画展中止 愛知知事 脅迫受け『運営難しく』」と報じ、ベタ(1段見出し)で「『自由が萎縮』 ペンクラブ声明」とも伝えた。5日付では続報は見当たらず、6日付の第3社会面のベタで「『少女像』問題で 愛知知事が反論 名古屋市長に」と載せていた。

<産経:4日>朝日新聞とは異なったニュアンスがにじむ見出しが目につくのは産経。4日付では、1社の第2項目扱い(3.5段見出し「慰安婦像展示を中止 抗議1400件『安全に支障』」)だった。他メディアが「少女像」とするところ、見出しで「慰安婦像」表現を使った。中止を求めていた河村たかし・名古屋市長の主張も2段見出し(「やめて済む問題でない」 名古屋市長 展示関係者に謝罪要求)を使って紹介した。来場者の反応に関する記事では、3段見出しで「来場者『不快だった』『趣旨は賛同』」と賛否双方の声を紹介した。

2  各社の論調は、過去の『表現の自由』をめぐる事件ではどうだったのか。

読売の淡々=社としての立場を鮮明にしないことが意外だったが、過去記事を探したら、「ムハンマドの風刺漫画」に対するイスラム教徒の抗議行動への社説が目にとまった。
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2006年2月11日 読売新聞社説
風刺漫画という表現方法で、権力者や社会事象などを皮肉るのも、報道の範疇(はんちゅう)だろう。だが、それによって、敬虔(けいけん)な信仰心を傷つける権利までは、表現の自由にはない。
風刺漫画を転載した仏、独など欧州のメディアにも、共感できない。イスラム社会の反発を拡大する結果となった。
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次に、2015年 シャルリー・エブド社襲撃事件後に、特別号に掲載された「涙のムハンマド」は載せるべきか否かで、日本の新聞社は、対応が分かれた。読売新聞は、掲載しなかった。
掲載しなかった各社の理由は以下。

朝日 特定宗教や民族への侮辱を含む表現かなどを踏まえて判断
毎日  冒涜ととらえるイスラム教徒が世界に多数いる以上、慎重な判断
読売  社会通念や状況を考慮

朝日、毎日が掲載しなかったのは、2006年の読売のような理由だったのだが、読売は、今度はもっと一般的な社会通念や状況を考慮という理由にかわってしまった。

3 朝日・毎日が、今回「表現の不自由展・その後」でブレずに報道できているのは、「表現の不自由展・その後」には、こうしたイスラム教を冒涜する、侮辱すると批判される作品がなかったからにすぎないようだ。「表現の不自由展・その後」に、「涙のムハンマド」があったら、どうだったんだろうか。

4 憲法で表現の自由を制約すると言われているもの、そして最高裁判例で確定している事例以外は、保護されるべき。という基本姿勢を新聞社は出すべきだろう。

佐藤潤司 https://www.jstage.jst.go.jp/article/mscom/92/0/92_125/_pdf/-char/en
日本は法治国家であり,言論,出版その他一切の表現の自由が憲法で保障され,報道の自由もその下にある。それらは公共の福祉(他人の権利と衝突した場合の調整)以外に制限は受けず,特定の宗教的価値観によって制約されることはない。こうした民主的社会の普遍的価値を各紙が明確に打ち出していれば,事態は違う展開を見せたのではないか。この点においても新聞の役割不全が見て取れよう。

長谷部委員 https://www.asahi.com/articles/DA3S11677821.html
最高裁の判例で、表現の自由として保護されないものとして、わいせつ表現、他人の名誉を毀損(きそん)する表現、犯罪の扇動、プライバシーの侵害、児童ポルノがある。これらは表現活動の形はとっていても、社会的な価値もなく、社会全体や他の人々に対して大きな損害を与える活動で、そもそも憲法による保護に値しない。
それ以外の表現活動は、憲法の保護の範囲内にある。


※デンマーク紙ユランズ・ポステンがムハンマドの風刺漫画を掲載して、
2006 シリアやレバノンでは、1月末から大規模な抗議運動に発展した。これらの国でデンマーク大使館や領事館に対するデモや放火
   以降欧州各国の新聞が、声高に「表現の自由」を叫び、怒ったイスラム教徒が各国の大使館などを標的に、暴力で応酬するという大きな事件に発展した。


※なお、「涙のムハンマド」は載せるべきか否かでは、東京新聞が深刻な事態に追い込まれていた。
東京  〇 問題の判断材料を読者に提供。
だったが、抗議を受け、要求に応じなければ収拾困難な事態に陥った。
29日付の朝刊に「イスラム教徒の方々を傷つけました」と記した「おわび」記事を掲載した。報道姿勢に特異な変化が見られたことを考えれば,同紙は報道への圧力に抗しきれず結果的に報道が萎縮したと言われても仕方ない。