この世界を、自分の目で、見てみたい。

そんな願いはもう捨てた。

私は、ここで生まれ、閉じ込められた。

みんな、あいつらの実験体にされていく。

私の番も、もうすぐ来る。

 

ここには、ダークオークと丸石でできた、おおきな館。

そこにある牢屋に、私達アレイは閉じ込められている。

そして、たまに灰色の顔をしたやつらがやってきて、アメジストを無理やり食べさせるか、アレイを連れて行くかする。

 

私達を繁殖させ、研究し、改造して、自分たちの手下にする。

それがあいつらの目的。

自由なんか、アレイには存在しないんだ。

実験されて、手下にされて、戦って、おしまい。

私の日常に色なんかはなく、あいつらの顔みたいに、灰色の毎日だった。

だから、私は、もうどうでもよくなった。

手下にされる?

戦わされる?

それがアレイの運命なら、そうなってしまえばいい。

 

憎しみも、悲しみも、寂しさも、私はすでに感じなくなっている。

今までに連れて行かれたアレイは、一人も帰ってきていない。

そんなの、当たり前だよね。

だって、実験されて、意思を持たない殺人兵器になるか、失敗して死ぬかだもん!

アハハ、外の世界も、他の生き物も知らないまま死んでいく!

それが、アレイ。

それが、私達。

それが…私。

 

 

「なあ、お前。おい、お前っ!お前だよ、そこにいるやつ!」

ボーッとしていた私に、誰かが声をかけた。

アレイの男の子だった。

私と同い年くらいだろうか?

でも、アレイは年をとらない。

だから、いつ生まれても、みんな同い年。

 

そして、このアレイは、見たことがない。

まあ、どのアレイにも、私は話しかけないようにしているのだけれど。

だって、もしそのアレイが死んだら、いや、絶対に死んでしまうのだけれど、そうなったら、きっと悲しくなる。

「なあ、聞こえてるかぁ?もっしも〜し!?」

「…………なんで、私に話しかけたの?」

うるさい、誰とも知り合いたくないのに。

男の子がしつこいから、私は少しだけきつく言ってやった。

「え?だって、この部屋、俺とお前しかいねえじゃん」

部屋?こいつは、この牢屋のことを部屋というの?

自分の運命を受け入れていないの?

きっと、ここで生まれた子だ。

私も、最初の頃は、この子みたいに、他のアレイに話しかけていた。

でも…………。

 

「どうしたんだよ。前から見てたけど、お前、やっぱり暗い顔してやんの。……なあ、俺、エーレっていうんだ。お前は?」

「エーレ?」

こいつは、何を言っているの?エーレ……って、それが名前だとでも言いたいの?

私達はアレイ。

アレイという種族。

名前なんか、実験体の私達には存在しない。

それに、なんなの、こいつは。

能天気っていうか…いつ私達が選ばれるのかもわからないのに、なんでそんなに笑えるの?

なんでそんなに楽しそうなの?

「そっ、エーレ。名前っていうの、羨ましかったからさー。ほら、あの灰色の顔の奴ら。あいつら、名前があるじゃん?ほら、えーっと、ヴィンディケーターって種族と、エヴォーカーって種族?俺も、名前があって良いんじゃないかな〜、って思ってさ。どう思う?いい名前だろ、エーレって!」

「…………」

言葉が出てこない。

ずっと他のアレイと話をしていなかったから。

心の奥に蓋をして、正直な気持ちを封じてきたから。

言葉が頭の中で、口の中で回っているだけ。

何も言えない。

「いや、なんか言ってくれよっ!」

エーレは、そんな私を面倒くさがるわけでもなく、苦笑してそう言った。

私の心の蓋が、少し開いた気がした。

「……変なの」

私は、そう言って少し笑った。

私が笑うのは、いつぶりだろう。

笑顔を誰かに見せるのは、いつぶりだろう。

笑っているアレイに会うのは、いつぶりだろう。

こんな陰気な牢屋に入れられているのに、この子は……エーレは、なんで楽しそうなんだろう。

私は、エーレが……少し、羨ましい。

「へ、変ってなんだよっ!せっかく考えたのにさぁ」

エーレは、私が笑って少し安心したようだった。

もしかしたら、私のことを心配して、声をかけてくれたのかもしれない。

「……じゃあさ…私にも……。私にも、名前…考えてくれる?」

私は少しほほえんで、エーレの目を見つめて言った。

エーレは、少しおどろいていたようだったけど、すぐに笑顔でうなずいた。

「考えてやるから、しばらく待っとけよっ!」

エーレの満面の笑みは、私が憧れ、見てみたいと思った、空に浮かぶ、明るいお日様を思わせた。

そしてその日から、私の灰色の毎日に、きれいな明るい色がついた。

 

今日、隣の牢屋から、またアレイが連れて行かれた。

この牢屋には、全然あいつらが来ない。

今は、隣の牢屋で増えすぎてしまったアレイを処理するので大変らしい。

でも、今は、いつ実験されても、殺されても、どうでもいいとは思わない。

エーレと出会ったから。

エーレは、私にいろんな話を聞かせてくれた。

その話のほとんどが、外の世界でしてみたいことだった。

エーレは、アレイの運命を受け入れようとはしなかった。

自由に生きれる世界に憧れていた。

アレイにも、生きていていい権利はあると、いつも信じていた。

きっと、エーレはどのアレイよりも強く、生きていたいと思っている。

私も今は、強く『生きたい』って思ってる。

こんなことを思ったのは、あの子がいた時以来だな。

辛い現実から逃れようと、目の前を見ようとしなかったあの時以来。

楽しい。嬉しい。

私の心の蓋を突き破って、そんな感情が溢れ出てきた。

ずっとエーレと一緒にいたい。

外の世界を……見てみたい。

 

ある日の夜。

エーレが、私をそっと起こした。

私が何か言おうとすると、人差し指を唇に当てて止めた。

見たことがない、エーレの真剣な顔。

私は何も言えずに、エーレの顔を見つめた。

そしてエーレは、私の隣に座って、小さな声で言った。

「ここから、逃げよう」

 

今日は、胸がドキドキしている。

この前の夜にエーレからささやかれたこと。

こんな大きな屋敷からどうやって逃げ出そうとしているのかはわからない。

でもなぜか、エーレが私にそう言ってくれたとき、私は……。私は、すごくすごく嬉しかったんだ。

 

「エーレ。ねえ、ここから逃げ出すってどうやって?牢屋からだって出られないのよ?この建物の外にでるなんて、不可能よ」

私は、牢屋を歩き回ってるエーレを止めて言った。

でも、エーレは余裕そうにほほえんだまま、私の肩に手を置いた。

「まあまあ、焦るなってば。ちょっとずつ、バレないように作戦を考えよう。俺は、絶対にお前と逃げる。だけど、チャンスがあれば、他のアレイも連れて行く。そのためには、完璧な作戦が必要だろ?」

「……本当に、大丈夫なの?中途半端な気持ちじゃやれないわ。もう今からでも作戦を考え始めないと!いつ、私達が実験されてもおかしくないのよ?それに、アメジストを食べて分裂した後は、しばらく体力が回復しない。はやく行動するべきだわ」

私は、必死にエーレに訴えた。

しっかりと考えて行動しないと、手遅れになる。

エーレは私をしばらく見つめた後、ため息をついて、こう言った。

「しょうがないなぁ〜。この牢屋の抜け道をもっと探そうとしてたんだけど。ま、いっか。一つは見つけたし」

「え?見つけた?牢屋の、抜け道を?」

私は信じられない思いでエーレを見た。

しっかりと作戦のために行動していたなんて。

ただエーレが何か言うのを待っていた私のほうが、考えていなかった。

「う〜ん、抜け道っていうより、崩れやすいところっていうか。すぐに出られるわけじゃないんだけど、少し手を加えればすぐに抜け出せるっ!」

エーレに負けてはいられない。

いよいよ、作戦を考えなくちゃ!

私は、他のアレイも一緒に連れ出したい。

だから、すごく慎重に作戦を練らないと……

 

続く

 

 

 

 

 

(あとがき)

 

ぎずもです。

最後まで読んでくださって、ありがとうございます!

この話は、マインクラフトのアレイを題材にした話で、一部、私の考察などを入れて物語にしております。

展開がはやすぎだし、なんか言葉つかいとかも変かもだけど、めっちゃくちゃ大目に見てくださいです。

エーレって名前は、アレイをGoogle翻訳でてっきとーにやったら、なんかそう聞こえたから、それで決めたんですよね〜。

さあ、主人公の名前はどうなるんでしょうか?

そして、どんな作戦をたてて、どうやって脱出するの!?

2話も楽しみにしていてくださいね!