いつもどうりの一日を過ごし、帰宅途中の電車の中で考えていたのは、少しばかり疎遠になっていた料理をすることだった。
最近はもっぱら外食などで済ましていたため、包丁を握るのはとても久しぶりだったのだ。
考えついて決めた料理は、まだ結婚していた時に人気のあった「もつ鍋」だった。
この料理には思い出があり、大阪にいた時に元嫁さんに連れていってもらった小料理のもつ鍋がベースなのだ。
子供たちも何かにつけてはもつ鍋と言うもので、それはこなれたものである(豚モツが人気)。
こんな暑い日夜に、ましてやもつ鍋なんて普通はやらないんだろうが、今日は珍しくしてしまった。
いつものようにニンニクと鷹の爪をごま油で少し炒め、水ともつと調味料。
味を芯まで浸透させて、刻んだキャベツととうふ。
普段ならモヤシもあるんだが、今日は手間だったので抜いたのだ。
前と変わらない味、手順は変わらずあの頃のまま。ただ、今はひとり。
順調に頬張っていたら、LINEに元嫁さんの名前があった。
普段と変わらぬ様なそつない文章に、彼氏ができたとの報告。
俺にも幸せになって欲しいと綴ってあった。
その瞬間、涙が溢れた。
安堵とも言えぬ、複雑な心境。
(よかった……本当によかった…………)
素直にそう思えた自分がいる。
僕自身が不幸にしてしまい、このままそれを引きずってくのではないかと日々心配に思っていた。
しかし再び伴侶に出会えたのなら、もう僕もお役御免だろう。
そう考えている時、ふと走馬灯が流れたのだ。
色々な思い出、キャンプや旅行、子供が生まれた時、数えきれない記憶。
それら全ての事は、この先ないのだろうと。
初めから離婚した時点で分かっていたはずのこと。
それを選択し、今に至るのも全て自分。
仕方ない。仕方ない。
分かってはいたが涙が止まらず、声を上げて泣いてしまった。
虚無感と自分に対する焦燥感は、どうしようも出来なかった。
ただそれでも言えることは。
おめでとう、よかった。僕はあなたを幸せには出来なかったけど、きっと新しい彼ならできる。
あなたの今のありのままを見て、好きと言ってくれてるのだから。
そして最後に一言
僕は今日まで、あなたを愛していたのかもしれません。
ありがとう。さよなら。