「ねぇ、この人について知りたいんだけど、ダメ?」

女が耳元で囁くと、男は顔をだらしなく歪ませ

「しょうがないなぁ、2人の秘密だよ?」


その瞬間、別の場所にいる4人がガッツポーズをする。

男の横にいるその女の耳には超小型の骨伝導フォン。それは別の場所の4人に繋がっていて、こちらの会話は全て筒抜けになっている。


彼女の名前は守屋茜。
主に色仕掛けで男性から情報を聞き出している。

色仕掛けは基本しない(できない)ものの、その酒の強さから相手の口を緩くする手口は菅井友香。

女友達のようなのりで容易く距離を縮め、主に学生を相手にする志田愛佳。

渡邉理佐はとんでもなくドSのため、ちょっと踏んで罵倒すればだいたい済む。

そして、渡辺梨加。彼女は並外れたルックスを持ち、ちょっと上目遣いをすれば何でも手に入る、ある意味最強な存在。


「…って感じだよ、僕が知ってるのは。茜ちゃんの役に立てて光栄だよ。」
「うん、ありがとう。すごい役に立った。さすが、部長さんは色んなこと知ってるんですね」
「もっと色々教えてあげようか?」

そこに含まれた下品さを感じた守屋は適当に切り上げようとさりげなく耳を2回叩く。

すると彼女のスマホがなり始め、

「あ、ごめん出てもいい?」
「今?」
「ダメなの?」
「…いいよ」

「もしもし?」
出た瞬間、スピーカーにしなくても聞こえてしまうほど大きな声で

「お姉ちゃん?!どこにいるの?早く帰ってきて!!お父さんが!!」

の声。もちろん嘘で、電話の向こうは志田愛佳だ。

「え?お父さんがどうしたの?落ち着いて?わかったから、もう帰るから、ね?落ち着いて。1回切るよ?」

そういった彼女は、申し訳なさそうに振り返る。

「なんか、お父さんが…」
そこで声を詰まらせ、口元を押さえる。

「え?お父さん?大変だよ、すぐに帰ってあげな。電車…ないか、タクシー代、これねあげるから」

そう言って握らされたのは1万円札。

計算より多かった臨時収入にニヤつく頬を抑え、

「ありがとう、ごめんね、また。」


またねって送り出すおじさんにまたはねぇよって思いながら部屋を出る。

「お疲れ〜」

イヤホンから聞こえる4人の労いに答えつつホテルを出る。

ありがたくタクシーを使い基地の近くまで帰る。



「ただいま〜」
「おかえり〜、もうながるには報告したからこれで終わり〜」
「お疲れ〜」


今日相手をしたおじさんは、この後適当に付き合って、そのうちどうにかされるだろう。

処理は彼女たちの仕事ではない。
あくまで情報を引き出すための彼女たち。


5人組の情報屋 MARRY