「あ、おばあちゃん来た!」
コーチを務めるテニススクールで、ひとりの子が声を上げた。
そちらを見ると、いつも通り迎えに来た彼女のお祖母様。
今日こそは、ちゃんと聞こう。
「いつもお迎えご苦労さまです。今日もお孫さん元気にテニスやられてましたよ。」
「まぁそうですか。楽しかった?」
「うん!!」
とても孫がいる世代の方には見えないその肌の美しさは、きっと、ほぼ間違いない。
ありがとうございました、と去ろうとする守屋さんを引き止める。
「守屋さん、」
はい?と振り返った守屋さんに
無礼を承知で、話しかける。
「あの、失礼ながら守屋茜さんではないですか?」
守屋さんはキョトンとした顔で頷く。
「はい、そうですけど…どこかでお会いしましたっけ?」
「はい、でも、守屋さんは覚えてらっしゃらなくて当然だと思います。守屋さんの出てらっしゃったライブで私が一方的に何度も。実は私、守屋さんのことずっと応援してました。欅坂46の曲にあの頃私はとても助けられていたんです。」
「欅坂46…あぁそうか私よりも年下ですもんね。そうなんですか、ありがとうございます。まさかまだ覚えている方がいるなんて…もしかして、握手会も来てくださってました?」
「はい、何度か。あの時はありがとうございました。守屋さんに何度元気を貰ったか。」
「それは良かったです。そう言ってもらえればアイドル冥利につきますね。そうか、欅坂46か、懐かしい響きですね。口に出してみると一気に懐かしさが蘇る…。こちらこそありがとうございます、この歳になってあの頃を知っている方にお会い出来るなんて思ってなかったし、またあの頃の気持ちを思い出せるなんて思わなかったです。」
そう言って、笑った守屋さんは
「では、お礼に」
と言って、私の手を取った。
「ありがとうございます、これからも孫のこと、よろしくお願いします。それと、欅坂46のこと、時々思い出してあげてください。もちろんメンバーのことも、あの楽曲たちのことも。」
そう言いながら笑顔を見せた守屋さんは、完全にあの頃の あかねん だった。
「ありがとうございます……!!」
それでは、と言ってまた歩き出す守屋さんを見送りながら、久しぶりの高揚感に震えていた。
50年ごしの念願の個別握手会だった。