2022年7月18日、私はピアノコンサートでリスト作曲「婚礼」を弾いていた。
ホ長調の流れるアルペジオから陰影のある深く温かみのある終始和音で締めくくった。和音の響きがスウッと消えると、静寂の後拍手が起こった。それに応じてアンコールにシューマンの「子供の情景」より「異国から」を弾きながら、ひそかに息子の活躍を願った。
その日、小学5年生の息子は隣町の野球大会に4番センターで出場していた。息子の名はS。真心のある男の子になってほしいとの思いを込めて名付けた。
前日、その大会で息子は2打席連続の柵越えホームランを放った。私は翌日のコンサートリハーサルがあり、妻はピアノ教室の仕事があった為2人とも観戦する事は出来なかったが、チームメイトのママ友がメールで「S君、2ホームラン!!」と送ってくれていた。
コンサート当日の試合もまたホームランを打ってくれるんじゃないかと、コンサート本番の最中も、どこかSの活躍を期待する自分がいた。
アンコールを弾き終えコンサートが無事終わり、携帯の電源を入れた。明るい受信音が鳴った。妻からだった。
「凄かったよ!今日もホームラン2本!!大会の関係者が皆、あの子は凄いって言ってた!」
「マジか!それゃ凄い!マジですげー!!」
私は思わずガッツポーズをしながら喜んだ。
その大会でチームも準優勝し、息子はホームラン特別賞をいただいた。
次回 入団するまで
