泣き叫ぶクズ元夫を、最強権力者の夫が踏み潰すわ!

娘が交通事故に遭い緊急の輸血が必要となった時、藤原雄大はあろうことか、街中の血液を貧血で低血糖の女性秘書のために手配した。

追い詰められた小林凛花は、謎の男に助けを求めるしかなかった。「娘を助けて。離婚してあなたと結婚するから!」

血液と専門医は駆けつけたものの、すでに手遅れだった。

娘の死後、小林凛花は約束を果たし、その謎の男と結婚する。

結婚式当日、藤原雄大は彼女の前にひざまずき、泣きながら懇願した。「凛花、私が間違っていた。どうか私の元へ戻ってきてくれ」

「遅すぎるわ」

彼女は冷ややかな視線で見下ろし、言い放つ。「戻ってほしければ、娘を生き返らせて」

なおもすがりつこうとする彼を、冷酷で大柄な男が蹴り飛ばす。「私の妻に付きまとうとは。藤原グループを失いたいのか?」

男はそう言いながら小林凛花を優しく抱き寄せ、彼女の腹部に大きな手を添えた。「いい子だ、心を乱さないで」

 

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泣き叫ぶクズ元夫を、最強権力者の夫が踏み潰すわ! 第1章 娘をダシにするなんて

 

「急げ!血液センターに連絡して、RHマイナスAB型の赤血球製剤を、確保できるだけ回してもらえ!」

手術室のドアがバンッと開き、医師が慌てた様子で飛び出してきた。「患者が大量出血している!今すぐ輸血が必要だ!」

その声に、廊下にいた看護師たちが一斉に駆けだした。

「先生!」

小林凛花は、絶えず血が流れ続ける足を引きずり、激痛をこらえながら医師に駆け寄った。「娘は……うちの娘は、どうなんです!?」

「奥さん、お子さんは出血がひどく、いつ命を落としてもおかしくない状態です……」

医師は凛花の骨が見えるほど深い傷に目を落とした。「あなたの傷もすぐに処置をしないと……ご主人は?」

何度もかけ続けたせいで熱を持つスマホを握りしめ、凛花は絶望を滲ませた。「……連絡が、つきません」

1時間前、娘の藤原莉乃を幼稚園に迎えに行った帰り、凛花は交通事故に遭った。

運転手は即死、後部座席にいた彼女と莉乃も共に重傷を負った。

こんな一刻を争う状況で、夫の藤原雄大とはどうしても連絡が取れなかった。

「あまり思いつめないでください」

彼女の様子を見かねた医師が、声を落として慰めた。「確かにお子さんは珍しい血液型ですが、数日前に市の血液センターへRHマイナスAB型の赤血球製剤がまとまって入ったばかりです。輸血用の在庫は確保できます」

「それに、すでに白川市でトップクラスの専門医たちにも招集をかけています」

「お子さんの輸血が間に合い、先生方が到着すれば……きっと助かります」

凛花は、ようやく安堵のため息をついた。

興奮して医師の手を握る。「ありがとうございます!娘を助けていただけたら、お礼はいくらでも……!夫は、藤原グループの者なんです……」

「大変です!」

先ほどの看護師が血相を変えて戻ってきた。「血液センターからです!市内ですぐ供給できるRHマイナスAB型の赤血球製剤は、藤原グループの系列病院へ回されたそうです!」

「なんでも、社長秘書が貧血で少しめまいがするから、輸血が必要だとか……」

凛花の頭の中で、何かが弾け飛んだ。

事故から今まで、雄大に30回以上電話をかけている。

電話に出る時間はないのに、貧血でふらつく秘書のためなら、娘の命綱となる赤血球製剤まで根こそぎ押さえる時間はあるというのか!

「その藤原社長と連絡を取ってくれ!こっちは命がかかってるんだ!」

「連絡はしましたが……藤原社長は、秘書の命も命だと……」

「構わん、連絡を続けろ!」

医師は悪態をつくと、続けた。「専門医の先生方は?あとどれくらいで着く?」

「その先生方も、藤原社長の指示で足止めされ、秘書の診察に向かわされたと……」

凛花は目の前が真っ暗になるのを感じた。

壁に背を預け、崩れ落ちそうな体を必死で支える。震える手で、雄大の秘書である杉本彩花の番号を探し出し、電話をかけた。

電話の向こうから、杉本彩花の甘ったるい声が聞こえる。「奥様、どうかなさいました?」

電話の向こうからは、はっきりと雄大の声も聞こえてきた――

「彩花のめまいはまだ治まってないんだ。今ここから赤血球製剤を持っていかれて、容体が悪化したらどうする?」

スマホを握る指の関節が白くなる。凛花は、ほとんど叫ぶように言った。「藤原雄大に代わって!」

彩花は怯えたように、わざとらしく声を震わせた。「雄大さん、だからさっき奥様の電話に出たほうがいいって言ったのに。ほら、怒らせちゃったじゃないですか」

すぐに、電話の向こうから雄大のひどく苛立った声が響いた。「小林凛花、何を騒いでいる?」

「彩花が体調を崩しているんだ。上司として面倒を見ているだけなのに、嫉妬か?」

凛花は唇をきつく噛みしめ、泣き声交じりに訴えた。「私と莉乃が、事故に遭ったの。莉乃は大量に出血して、今病院で……輸血と専門の先生がすぐにでも必要なの!」

「あなたが押さえた赤血球製剤と先生方を、今すぐこっちへ回して!」

「早くしないと、あの子、死んじゃうのよ!」

電話の向こうがわずかに沈黙し、やがて雄大の冷え切った声が返ってきた。「小林凛花、俺が彩花の面倒を見るのがそんなに気に入らないか。莉乃が死にかかっているなんて嘘までついて」

「嫉妬心から実の娘を呪うとはな。母親失格だ」

言うが早いか、彼は一方的に電話を切った。

かけ直しても、電源が切られていただけだった。

底知れぬ絶望が押し寄せる。凛花は歯を食いしばり、雄大の側近や友人たちの番号を片っ端から探し出し、電話をかけまくった。彼に働きかけてくれるよう、必死に頼み込んだ。

だが、返ってきたのは嘲笑だけだった――

「申し訳ありません、奥様。社長から、奥様からのご伝言は一切取り次ぐなと……」

「社長は、娘さんを嫉妬のための道具にするなと。頭を冷やしてください、とのことです」

「奥さん、彩花さんはあなたの地位を脅かしはしませんよ。子供をダシにして気を引こうだなんて、やめた方がいい」

……

時間だけが刻一刻と過ぎていく。凛花の心は絶望に蝕まれていった。

手術室の扉を見つめる瞳から、もう涙も出なかった。

ーー私の莉乃は、まだ6歳なのに!

あの子の人生は始まったばかりなのに、手当てが間に合わないせいで、ここで終わってしまうなんて……。

「白川市内ですぐ供給できる赤血球製剤と救命救急の専門医は、藤原雄大氏に押さえられています」

床にへたり込む凛花を見て、医師が痛ましげに告げた。「今、お子さんを救うには……隣の海鳴市に助けを求めるしかありません」

「ですが、海鳴市から赤血球製剤を車で運べば5、6時間はかかります。それでは到底、間に合わない……」

海鳴市……。

その言葉に、凛花ははっと顔を上げた。「私……方法があるかもしれません」

着信拒否リストの奥からある番号を呼び出すと、震える指で発信ボタンを押した。「以前、私が結婚を承諾さえすれば、どんな条件でも呑むと言ってくれたわね。……その言葉、今も有効?」

男の低い声が答える。「ああ」

凛花は目を閉じた。「娘が事故に遭って、いつ亡くなってもおかしくない状態なの。RHマイナスAB型の赤血球製剤と、救命救急に対応できる専門医が何人か必要で……」

「その病院の屋上にヘリポートはあるか?」

彼女が言い終える前に、男の落ち着いた声が遮った。「1時間後には、専門医も赤血球製剤もそちらへ着く」

 

泣き叫ぶクズ元夫を、最強権力者の夫が踏み潰すわ! 第2章 盛大な結婚式を挙げてやる

 

電話を切ると、小林凛花は糸が切れたようにその場にへたり込み、虚ろな目で処置室のドアをただ見つめていた。

電話の相手は高田湊斗。凛花の父親の、年の離れた友人だったが、彼女より数歳年上なだけだ。

かつて父は、死の間際に凛花の手を強く握りしめ、こう言った。藤原雄大は信頼できる男じゃない、お前が海鳴市の湊斗に嫁いでくれなければ、安心して死ねないと。

だが、恋に目が眩んでいた当時の凛花は、父の言葉をきっぱりと拒絶。それどころか、高圧的な態度で湊斗に電話をかけたのだ。

「勘違いしないで。私には愛する人がいるの。あなたと結婚するなんて、あり得ないから!」

それでも、湊斗は怒るそぶりも見せなかった。

ただ静かに笑って、こう言っただけだ。いつか本当に困ったことがあったら、いつでも頼ってくれていい、と。

条件は、彼と結婚すること。

離婚歴があっても構わない、と。

当時の凛花にしてみれば、彼の言っていることは支離滅裂で、捨て台詞を吐いて一方的に電話を切った。

雄大さえいれば、あんな男の助けなど一生必要ない。そう思っていた。

だが今、かつてあれほど嫌悪した男が、娘の藤原莉乃を救う唯一の希望になってしまった……。

40分後、高田グループの「T」をあしらったヘリコプターが、病院屋上のヘリポートに降り立った。

白髪交じりの男性が、自ら赤血球製剤の保冷コンテナを抱え、5人の医療スタッフとともに慌ただしくヘリを降りると、処置室へ駆け込んでいった。

処置が始まってから一分一秒が永遠のように感じられ、凛花は生きた心地がしなかった。

1時間後、処置室のドアが開いた。

凛花は駆け寄り、すがるように医師の腕を掴んだ。「先生、娘は……」

「……残念ですが」

凛花が言い終える前に、医師は静かに首を振った。「海鳴市から専門医と赤血球製剤をこれほど早く手配できたのは奇跡です。ですが……あと一歩、間に合いませんでした」

凛花は呆然と一歩後ずさった。頭の中で雷が鳴り響き、思考が停止する。

「白川市で供給できるはずだった赤血球製剤と専門医が、ほかへ回されていなければ……お嬢さんは助かったはずです」

医師は悔しそうに息を吐き、凛花をまっすぐ見つめた。「……お母さん。最期のお別れを、してあげてください」

凛花は抜け殻のように、ふらふらと処置室へ足を踏み入れた。

ベッドには、莉乃の小さな体が横たわっていた。呼吸器をつけているにもかかわらず、息をするたびに、か細いお腹を必死に上下させている。

血の気を失い真っ白になった顔で、それでも莉乃は潤んだ瞳で、まっすぐに母を見つめていた。

「ママ……」

小さな娘は凛花の後ろに視線を送り、蚊の鳴くような声で尋ねた。「パパは……来てないの?」

凛花の鼻の奥がツンとし、目頭が熱くなる。

莉乃の手を固く握りしめ、声を詰まらせた。「パパは……忙しいのよ」

「また……杉本おばさんと一緒なんでしょ?」

莉乃は顔を上げ、凛花を真剣な眼差しで見つめた。声はほとんど聞こえないほどか細い。「ママ、私、もうすぐ死んじゃうって、わかってるよ」

「パパはママのことも、私のことも好きじゃない。もうパパの娘でいるの、やめたいな……」

「ママ、莉乃と一つだけ、約束してくれない?」

凛花はもう、声にならないほど泣いていた。

涙を流しながら、何度も頷く。「なあに?ママ、なんでも約束するから」

「パパと……離婚して」

娘は澄んだ、真剣な眼差しで母を見つめる。「ママ、パパが杉本おばさんにバッグを買ってあげるの、嫌。学校にお迎えに来てくれないのも、嫌。私のこと叩くのも……大嫌い。 だからママは、お花を買ってくれて、お仕事が終わったらお迎えに来てくれて、ママを叩かない人を見つけて。ね?」

凛花は一瞬、言葉を失った。やがて大粒の涙をぼろぼろとこぼしながら頷く。「ええ……約束する。約束するわ、莉乃!」

「よかった……」

莉乃は懸命に微笑むと、凛花の手を弱々しく握りしめた。「ママ、莉乃はね、ママが幸せになってくれれば……それで……」

言葉の途中で、その手は凛花の手のひらから滑り落ち、だらりと垂れた。

「莉乃――!」

処置室に、母親の慟哭がいつまでも響き渡った。

3時間後、凛花は呆然とした表情で、職員から小さな骨壺を受け取った。

まだ、莉乃の温もりが残っているようだった。

凛花はその骨壺を固く抱きしめた。もう、涙は出なかった。

涙は、とうに枯れ果ててしまったようだった。

凛花が火葬場から出てくると、あの白髪混じりの中年男性が近づいてきた。彼は莉乃の骨壺に小さな花輪をそっと手向けると、通話状態のスマートフォンを凛花に差し出した。「高田様がお話したいと」

スマホを受け取ると、凛花はかすれた声で言った。「……もしもし」

凛花の心情を慮ってか、電話の向こうの男の声はひどく穏やかだった。「すまない。力になれなかった」

凛花は力なく唇の端を上げた。「そんなこと言わないで。あなたは、十分に早く手を尽くしてくれたわ……」

ーー私が、馬鹿だっただけ。

もっと早く雄大の本性を見抜いて、あの男に期待さえしなければ、まだ間に合ったのかもしれないのに……。

そう思うと、凛花は鼻をすすった。「ありがとう」

「莉乃は助からなかったけど、約束は守る。あなたと結婚するわ。でも……少し時間が欲しいの」

電話の向こうで、男がわずかに沈黙した。やがて、低い声が響く。「俺が手を貸したのは、6歳の女の子の命を救いたかっただけだ。君の約束とは関係ない」

「結婚したくないのなら、無理することはない」

「無理なんかじゃない」

凛花は目を閉じた。「5年も前の約束を、あなたが覚えていてくれた。こんな時に、これ以上ない助けをくれた。だから、私も約束は破らない」

再び短い沈黙が落ち、ややかすれた男の声が聞こえた。「今、アフリカのダイヤモンド鉱山を視察中でな。帰国できるのは半月後になる」

「その半月で、娘さんの葬儀と、今の結婚生活をきちんと片付けるといい」

「半月後、君がその決断を後悔していないのなら……」

「盛大な結婚式を挙げてやる」

 

泣き叫ぶクズ元夫を、最強権力者の夫が踏み潰すわ! 第3章 藤原雄大、これがあなたの娘の遺骨!

 

「奥様」

小林凛花が電話を切ると、竹内執事が恭しく歩み寄った。「高田様のご指示通り、白川市の最高級区画に、藤原莉乃お嬢様のお墓を確保いたしました……」

凛花は胸の小さな骨壺を抱きしめ直し、かすれた声で言った。「莉乃は……海鳴市に埋葬したいと思います」

高田湊斗と結婚すると決めた以上、これからの生活は海鳴市になるのだ。

愛しい娘を、自分から遠く離したくなかった。

竹内執事は頷いた。「承知いたしました。直ちに手配いたします」

「ですが」

彼はそう言うと、顔を上げて凛花を見やった。「海鳴市へ向かわれる前に、一度お戻りになって莉乃お嬢様の遺品を整理なさいますか?」

彼女は胸の骨壺をきつく抱きしめ、こくりと頷いた。

凛花がスーツケースを引きずり、莉乃の遺骨を抱いて藤原雄大との家を出た、まさにその時。雄大の車が、屋敷の前に滑り込んできた。

雄大は運転席のドアを開けると、慌てて助手席側に回り込み、杉本彩花を優しく支えながら車から降ろした。「ゆっくりな」

「奥様?」

彩花は地面に足が着くか着かないかのうちに、玄関先でスーツケースを引く凛花の姿を捉えた。

「まあ、家出でもなさるおつもりで?」

彼女は驚いたように目を見開き、やがて傷ついたような表情に変わった。

彼女は唇を噛み、潤んだ瞳で雄大を見上げた。「雄大さん、だから言ったじゃないですか。こんなに気を使っていただかなくても……」

「全部、私のせいで……」

そう言うと、彼女は俯いて涙を拭い始めた。「私が体調の悪い時に雄大さんを頼ったりしたから……奥様が『莉乃ちゃんが死にそう』なんて嘘をついて、あなたが私を送ってくる間に家出しようなんて……」

スーツケースを引いて家を出ていこうとする凛花の姿に、雄大もさすがに罪悪感を覚えていた。自分の配慮が足りなかったのだろうか、と。

だが、彩花の言葉で我に返った。

そうだ、この女はまだ芝居を続けているんだ!

あれだけ莉乃を溺愛していた凛花にとって、娘は命も同然のはずだ!

本当に娘に何かあったのなら、わざわざ荷造りに戻ってくる余裕などあるものか。ましてや、俺が彩花を連れて帰ってくるタイミングを見計らったように、家出の芝居を打つなどあり得ない。

そこまで考え至ると、男は唇の端を歪めた。「小林凛花」

彼は凛花を侮蔑の眼差しで見下した。「昔からお前は聞き分けがなく、無理やり芸能界に入って役者になると騒いでいたな。莉乃が生まれてようやく落ち着いたかと思ったが」

「なんだ、また病気が始まったか?今度は現実で俺相手に芝居とは、よっぽど役者稼業が恋しいらしいな?」

男の嘲笑に、凛花は言いようのない虚しさを覚えた。

この男こそ、父の遺言に背いてまで、私が必死に一緒になろうとした相手なのだ。

杉本彩花とは知り合ってわずか2年。それなのに、彼はあの女の言いなりで、何を言われても信じてしまう。

それなのに私は。6年もそばにいて、身の回りの世話をし、娘まで産んだ。父が亡くなった後には、小林家の全財産を彼の事業のために投げ打ったというのに……

その見返りが、これだなんて。

「藤原雄大」

彼女は顔を上げ、乾ききった唇を震わせた。声はひどくかすれている。「嘘じゃありません。莉乃は……死んだんです」

現実を受け入れたつもりでも、自分の口から娘の死を告げるその瞬間、声が詰まるのは抑えようがなかった。

だが、その悲しみさえ、雄大の目には芝居にしか映らない。

雄大は眉をひそめ、怒りを露わにした。「小林凛花、いい加減にしろ!」

「何度言わせるんだ!莉乃は人間だぞ!お前の嫉妬のはけ口に使う道具じゃない!」

「奥様」

彩花もすかさず口を挟む。唇を噛み、目を赤くしながら。「雄大さんに私の世話をさせたくないなら、そうはっきりおっしゃればいいじゃないですか。どうして莉乃ちゃんに不吉なことばかり言うんですか?」

「雄大さんがご家庭を大切にして、莉乃ちゃんを可愛がっているからって、そんなことで気を引こうとするなんて……。家族のために外で身を粉にして働いて、もうクタクタなんですよ……」

雄大の目に、ようやく心が動かされたような色が浮かんだ。

彩花はいつだって、こうして俺を気遣ってくれる。

嫉妬に狂うことしか能のない、小林凛花とは大違いだ。

俺がどれだけ疲れていようが、気遣いひとつ見せたことがない。

「……もういいです。私は帰りますね」

彩花はまた一つしゃくりあげた。「奥様、もう私のことで、可哀想な莉乃ちゃんに不吉なことを言うのはやめてください。私はただの貧血なだけですから……死にはしません」

「君のせいじゃない!」

雄大は慌てて彩花の手を掴むと、冷たい視線を凛花に向けた。「全部、こいつの嫉妬深さが原因だ」

固く握り合った二人の手を見て、凛花はそっと目を閉じた。もう一言も言葉を交わす気力もない。

彼女は背を向け、スーツケースを引きずって道へ向かった。

彩花が追いすがり、後ろからスーツケースを掴んだ。「奥様!」

「放しなさい!」

「嫌です!」

彩花は凛花の前に回り込み、涙ながらに訴える。「行かないでください。雄大さんと喧嘩するのはやめて、お願いです。あの人の苦労を少しは分かってあげてください」

言いながら、彼女の視線は、凛花が胸にずっと大事そうに抱えているピンク色の箱に注がれていた。

その目に悪賢い光が宿ると、次の瞬間、彼女は箱をひったくろうと手を伸ばした。

凛花はとっさに一歩後ずさり、声を荒らげた。「触らないで!」

凛花が身を引くのを見て、彩花はすぐに声を張り上げた。「雄大さん!奥様がずっと抱えているこの箱、きっとすごく大事なものなんです!」

「早くこっちに来て手伝ってください!これを取り上げれば、奥様も意地を張って出て行ったりしないはずです!」

雄大は、小林凛花という女には心底うんざりしていた。

だが、必死に関係を取り持とうとしてくれる彩花の姿には、心を動かされるものがあった。

雄大は大股で歩み寄った。「それを彩花に渡せ!」

言うなり、彼は箱の端を掴み、力ずくで奪い取ろうとした。

凛花は悲鳴を上げた。「やめて!その子に触らないで!」

しかし、非力な女である上、先の事故で負った足の傷もまだ癒えていない。

その箱は、ついに雄大の手に奪われ、彩花へと渡された。「ほら」

彩花は満足げに箱を受け取った。「奥様、一体何が入っているんですの?こんなに大事そうに……」

「きゃっ!何これ、気味が悪い!」

「やめて――!」

凛花の、喉が張り裂けんばかりの絶叫が響いた。

だが、もう遅い。

箱は彩花の手から滑り落ち、乾いた音を立てて地面に叩きつけられた。

灰白色の粉末が瞬く間にこぼれ出し、夕暮れの風に吹かれて舞い散った。

凛花は、膝から崩れ落ちるように、その場に跪いた。

「莉乃……莉乃……」

彼女は地面に這いつくばり、震える手で土にまみれた遺骨をかき集めようとする。だが、かき集めたそばから、はかなく指の間をすり抜けていく。

彼女は顔を上げ、雄大を睨みつけた。喉の奥から絞り出すような声が漏れる。「藤原雄大。これが、あなたの娘の遺骨よ!」

 

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