モバイルニュース スマートフォンと連携する腕時計、スマートウオッチが切り拓く新しい時代とは? | 【モバイル】携帯電話の最新情報

モバイルニュース スマートフォンと連携する腕時計、スマートウオッチが切り拓く新しい時代とは?

 カシオ計算機は2011年1月、スマートフォンと通信できる腕時計(プロトタイプ)を開発したと発表した。また、3月にスイスで開催された「バーゼルワールド2011」では、2011年内の発売を目指したスマートウオッチ「G-SHOCK GB-6900」としてお披露目された。

【他の画像:バーゼルワールドで披露された「G-SHOCK GB-6900」、ほか】

 腕時計をほかの機器と連携させる試みはこれまでにもあったが、本製品は無線通信技術に「BLUETOOTH LOW ENERGY」を採用した。これにより通信を行う際の消費電力が大幅に削減されており、ワイヤレス機器ながら充電などの手間が不要(ボタン電池で駆動する)で、従来の時計と変わらない使い勝手を実現できるのがポイントだ。

 スマートウオッチの登場で、腕時計の使い方がどのように広がるのか、カシオ計算機時計事業部モジュール開発部の中島悦郎氏と奥山正良氏に聞いた。

●毎日通信しても電池交換なしで約2年動作

 この時計が持つ機能については前出のニュース記事でも紹介しているが、スマートフォンとワイヤレスでつながり、電話やメールの着信を手元で知らせてくれたり、逆に腕時計側を操作することでスマートフォンの着信音を止めたり、アラームを鳴らしたりといったことが可能になるというものだ。

 ただし、振動モーターなどを搭載した子機を胸ポケットや腕に付けておけば、携帯電話本体はカバンの中に入れたままでも着信を知ることができる――といった製品自体はすでにいくつも存在している。今回カシオが開発した腕時計が従来と異なるのは、「BLUETOOTH LOW ENERGY」と呼ばれる新技術で時計とスマートフォンを接続している点だ。

 BLUETOOTHは、近く場所にあるデジタル機器を無線でつなぐための通信方式で、身近なところではPCのワイヤレスマウス、携帯電話のハンズフリー通話用ヘッドセット、携帯電話とカーナビとの接続などに使われている。その新規格であるBLUETOOTH LOW ENERGYは、従来のBLUETOOTHに比べ通信時の消費電力を大幅に削減したのが特徴で、今回の腕時計の場合、1日12時間の通信(着信待ちの状態)を行っても、約2年もの間電池交換なしで動作し続けることが可能だという。

●今までの腕時計の価値を崩さない

 実は、腕時計とほかの機器を接続しようという試みは今回が初めてではない。カシオでも過去には、赤外線機能を搭載し学習リモコンになるモデルや、電子マネーや社員証として使えるICチップを内蔵したモデルなどを開発しているほか、腕時計に搭載するためのさまざまな通信技術の研究・検討を行ってきた。

 しかし、腕時計と携帯電話などの機器とのワイヤレス接続を実現するにあたっては、電池寿命の短さが問題となっていた。すでに、BLUETOOTH機能を搭載した腕時計は先行商品が市場に出回っているが、それらはいずれも充電式。通信機能を使う際の消費電力が大きいため、数日使うごとに充電を行わなければならない。

 カシオでは、通信機能を搭載する代わりに充電が必要になると、腕時計としての使い勝手が低下することを憂慮し、これまでBLUETOOTH腕時計の商品化は見合わせていた。一般に腕時計といえば、一度電池交換をすれば少なくとも1~2年は動き続けるのが当たり前。充電を忘れたせいで、肝心なときに時刻が確認できないといったおそれがあっては、時計としての価値を損なってしまうという考えだった。

 ところがBLUETOOTH LOW ENERGY規格が登場したことで、通信を行っても充電なしで長期間動き続ける時計の可能性が見えてきた。中島氏は「腕時計に通信をさせるというニーズは昔からありましたが、LOW ENERGYによって充電することなく2年の寿命をキープできそうだということで、今回開発が大きく進みました」と話し、BLUETOOTH LOW ENERGYは「われわれにとってみると画期的・革命的な技術」であると評した。

 奥山氏も「通信技術自体はいろいろなものがありましたが、時計を定期的に充電しなければならないとなると、それはお客さまにとってストレスではないでしょうか。通信をするなら、今までの時計の価値を崩さずに機能を実現したいと考えていました」と話す。

 例えば初期の電波時計では、電波を受信するためのアンテナが時計の外へ張り出して無骨な形になっていたものもあったが、奥山氏は「従来のスタイルを崩してまで新しい機能を入れるべきかという点では反省点もあります」と振り返る。機能が増えるからといってほかの部分が犠牲になっては、多くのユーザーに広く受け入れられる商品にはならない可能性があるという考え方だ。

●アプリやセンサーの活用で広がる可能性

 BLUETOOTH LOW ENERGYを利用する大きなメリットはもう1つある。いま、最も売れ行きが伸びているモバイル機器の1つがスマートフォンだが、この年末から来年にかけて、BLUETOOTH LOW ENERGYに対応したスマートフォンが登場してくると考えられるからだ。電池寿命を延ばすため、できるだけ消費電力を抑えたいというニーズは時計も携帯電話も同じ。現在販売されているスマートフォンのほぼすべてはBLUETOOTH機能を搭載しているが、これが今後LOW ENERGY対応になっていくことで、カシオの腕時計とつながる相手が自然と増えていく形になる。

 また、スマートフォンの最大の特徴は、ユーザーが自分で好きなアプリを追加できることだ。今回試作された腕時計では、着信通知、着信音の停止、アラームの動作、スマートフォンから時刻情報を受信しての時刻合わせ、と大きく4つの機能が利用可能。だが、スマートフォン側に新しいアプリを追加することで、例えばゲームと連動して腕時計が振動やメッセージの表示などを行うといった動作も可能になる。

 さらに、BLUETOOTHは時計や携帯電話だけでなく、今やあらゆる情報機器に搭載が進んでいる技術だ。例えば、体重計や血圧計といったヘルスケア・フィットネス機器では、BLUETOOTH経由でPCや携帯電話にデータを送信できる製品が出ているが、将来的にはこれらの機器とスポーツウオッチが連動し、トレーニング中に最適な運動量を伝えてくれたり、腕時計側で測定した心拍データなどをパソコンやスマートフォンで管理したりといった展開も考えられる。

 ほかにも、通信機能を搭載する時計の種類によってもさまざまな可能性が考えられる。例えば、カシオには登山やトレッキングなどで活躍するアウトドアウオッチ「PROTREK」がある。この時計はセンサーによって方位、気圧、高度、気温などの計測が可能だ。計測データをスマートフォンに送信して蓄積することで、山登りに出かけた1日の行動記録としたり、逆にスマートフォンのGPSで得た位置情報を時計側へ渡し、目的地の方角を表示させるといったことも可能になるだろう。

●通信機能で「腕時計」が「スマートウオッチ」へと進化

 このように、ほかのデジタル機器とつながることで、腕時計は単に時刻を知るための道具から、シーンに応じて最適な情報をユーザーに伝える、あるいはユーザーの現在の状態をセンシングする、いわば人と情報空間とを結ぶ出入り口へと進化することになる。

 腕時計自体は小さな機器のため、その中に搭載できる情報量や機能は限られているが、例えばスマートフォンを介してインターネットに接続することで、その上にある無限の情報やサービスを利用できるようになるし、遠く離れた場所にいる家族や恋人とのつながりを感じられる腕時計といった、便利なだけでなくユーザーの心に響く機能を実現することも可能となるだろう。

 これは、どこからでも電話をかけたり受けたりするための道具として生まれた携帯電話が、データ通信やアプリといった機能の登場によって、いまでは電話というよりもむしろPCに近い存在へ進化したのに似ている。スマートフォンになぞらえるなら、「腕時計」から「スマートウオッチ」への進化ともいうべきだろうか。

 また、携帯電話の普及により時間を知るためには必ずしも腕時計が必要ではなくなりつつある現代においては、「腕時計市場にとって携帯電話は敵である」という見方もしばしばなされる。しかし、腕時計に通信機能を追加することでむしろ互いが補完的な存在になるという構図も興味深い。「腕時計は“スマートウオッチ”化することで、携帯電話と共存する商品になり得る。『携帯があるから時計はいらない』という世代にも受け入れられる商品になるのでは」(中島氏)。

 可能性が大きく広がる一方で、BLUETOOTH LOW ENERGYを採用した理由でもある、腕時計としての価値を損ねてはならないという考え方はあくまで守っていく姿勢だ。奥山氏は「もちろん、まったく新しい商品の可能性にもチャレンジしていきたいと思いますが、基本は今ある時計のブランドの中で、機能の進化として提供したい」と話す。通信は特別な商品のためだけのものではなく、電波時計やソーラー充電などと同じように、商品カテゴリーを問わず幅広く普及していく機能になるという見方を示した。

 BLUETOOTH LOW ENERGY対応の腕時計やスマートフォンが実際に発売されるのは今年の年末商戦以降になる見込み。当初は今回発表されたデモ機のような機能からスタートするが、将来的にはより消費電力を削減しソーラー駆動への対応や、腕時計同士が直接互いに通信するような使い方も検討していきたいとしている。腕時計の新たな世界を切り拓く魅力的な製品の登場が期待される。