その17≪懲役の無限連鎖≫ | The Prison Chronicle ~リアルタイム刑務所日記~

その17≪懲役の無限連鎖≫

年度初めといえば、大概どこの会社に於いても人事の異動があるのではないだろうか?


御多分に漏れず、この刑務所でもそれは実施されたのだが・・・


その結果、本当に素敵な人事が誕生してしまったのである。


私なんかにしてみれば、刑務所自体が初めての経験なので、入れ替わる前の人事と比較するしかないのだが、以前と比べると遥かに厳しさが増したように感じている。 (実際にもう何人もの懲役達がその被害?に遭い、懲罰を受けているのだ)。


しかし、この刑務所に10年も20年も務めている同囚は、「確かに厳しくはなった」とは言うのだが、10年も前の刑務所の処遇から較べれば、「こんなのはまだまだマンガ」なのだそうである。


聞くところによれば、昔は本当にムチャクチャだったのだそうだ。


ちなみにこれは余談ではあるが、この刑務所には10年や20年どころか、なんと50年も前から務めている囚人がいるのである。(お会いしたことはないのだけれど)。


昨年、監獄法という法律に取って代わり、受刑者処遇法という新法が執行された (数年前に名古屋の刑務所で、囚人が看守に殺されたことに端を発していると思われる) のだが、その際、規制が緩和され、居室内に持ち込み可能な品物が大幅に増えたこともあって、全受刑者の領置品 (刑務所側に預けていた個人の品物) 調べが行われたのだが、そこで起こった出来事がまた凄いのである。


何でも、この人は刑務所に来た当時に自分が娑婆で履いていた靴を領置していたらしいのだが、約50年ぶりにその靴を入れていた箱を開けてみると・・・・・・中には預けた靴ではなく、砂が入っていたそうなのである。


果たして酸化したからなのか、はたまた、微生物か何かに分解されてしまったのかはよく解らないのだが、50年という途方も無い時間が当時はまだ靴だった物を、ゆっくりと砂の様な物に姿を変えてしまったのであろう。


恐るべし50年。こんなところに居たら、人間もそうなってしまうのかも知れない・・・・・。


靴が砂になっていたという話も相当ビックリさせられたのだが、個人的に何より驚きなのは、この閉塞された空間で半世紀もの年月を経ているというのに、この先輩の自我が破壊していないという点である。


その精神力は驚嘆に値する。私はきっと耐えられないだろう。


大分話は逸れてしまったが、こうして新たに構成された人事によって、今後暫くの間は管理下に置かれる訳なのだが、単に厳しく締め付けるスタイル (良い方向に改善されたと思われる部分は今のところ見受けられないので) に私は些か疑問を感じている。


何と言っても、ここは泣く子も黙るLB刑務所である。


海千山千の懲役達に今更小言を言って揚げ足を取ったり、怒鳴り散らしたりすることに一体どれくらいの意味が有るというのだろうか?


確かにほんの2、3ヵ月前までのこの刑務所は、私から見ても 「刑務所ってこんなんで良いのであろうか?」 と思える程、やりっ放しな面が多々見受けられたのだが、そのぬるま湯に慣れきってしまった懲役達を急に熱湯に入れようとしたところで、いたずらに火傷をしてしまうだけなのは目に見えている。


前途した通り、懲罰を受ける懲役の数が飛躍的に増えてしまったのである。


一見すると、みせしめ的な意味でこの作戦は功を奏し、効果を上げたかの様な感じもしなくはないのだが、私に言わせれば、このやり方には大きな矛盾が生じていると言わざるを得ない。


刑務所というのは本来、他の受刑者とお接触を極力避けなければならない筈である (反目している者同士を近づける訳にはいかないし、出所後のことなども考慮されるので) 。


したがって、同じ工場内の懲役意外と触れ合う機会は一年の内に幾度と無いのである。


ちなみに、顔を合わせる機会があっても、原則として会話などは一切認められないので、それを破れば不正交談という規律違反行為となり、取調べの対象となってしまう。


このように、他の工場の懲役おの接触を刑務所側としては最も嫌う筈なのだが、最近の傾向では、一旦、懲罰に落ちてしまうと元居た工場にはまず戻ることが出来なくなってしまったのである。


昨年度までは、事犯にもよるのだが、工場内での喧嘩やチンコロ (密告の意味) でもしない限りは懲罰が済めば元居た工場に帰ることが出来た。


だから私は現在のスタイルは本来の刑務所の意向に反するものなのではないかと思えてならないのである。


何故かと言うと、懲罰後に元の工場に戻れないということは、他の工場へ配役されることを意味している。


それをすると何が起こるのかというと、まるで ”笑っていいとも” の様に友達の輪がどんどん拡がっていくという現象が起きてしまうのだ。


更に、これは単なる友達などではなく、互いが漏れなく犯罪者 (しかも世間で言うところの凶悪犯が多い) なのだから、お世辞にも世の中にとって有益な繋がりとは言えないのでは?という気がするには私だけだろうか・・・・・。


毎日、この様にして何人もの懲役があっちへこっちへと行ったり来たりするものだから、連鎖ははっきり言って無限なのである。


この刑務所は一応、壁で工場を隔ててはいるものの、実際のところ余りその意味は果たせていない。


この狙いのよく解らない、おかしな新システムは何を隠そう、この刑務所の新人事が編み出したものに違いないが、この矛盾点についてはどう考えているのだろうか?


厳しく締め付けることで、一時的い刑務所内の秩序はほんの少しだけ改善されるかも知れないが、そのお陰で犯罪者同士が余計に結びついてしまうので、その分、未来の世の中の秩序は何倍も悪くなるという可能性を秘めてしまわないだろうか?


刑務所で知り合った者同士が意気投合し、出所後に一緒になって事件を犯すという話はよく耳にする。


だから、もしかしたら全国の刑務所で懲罰などのきっかけによる他工場への移動を極力減らす政策を一斉に実施すれば、世の中の犯罪率が1%でも低下させられるのかも知れないと思うのである。


まあ、私は偉そうなことなど言える立場ではないが、所詮、給料を貰うだけに働いている人達にとってはこんな問題はどうでも良いのかも知れない・・・・・。





4月分作業賞与金 → 2421円         TOTAL → 25216円