その14≪懲役にも色々≫ | The Prison Chronicle ~リアルタイム刑務所日記~

その14≪懲役にも色々≫

新しい年を迎えて、早くも一ヶ月が過ぎてしまったのだが、ここ徳島刑務所では新年早々、不祥事が起こりまくっている。


もしかしたら、これ等のニュースはローカルでしか放送されていないのかも知れないが、刑務官が飲酒運転で捕まってみたり、ブログを開設している職員が、ブログ上で受刑者の個人名を使用して、懲役処分になってみたりと、こんな調子でいったら、一体どんな一年になってしまうのだろう、と私は憂慮せざるを得ない。


そして、前回も書いたように、医務の先生も相変わらず、思考のルーティンが何処かズレてしまっているようで、風邪で入院している懲役に対し、食事療法という名目の下に、三日間の絶食(下痢をしているからという理由で)させたりしている。風邪で体が弱っている者にとって最も必要なものは、他でもない栄養なんじゃないか?と私は思うのだが、それは素人の考えなのだろうか?


回教徒でもあるまいし、三日も絶食なんかさせられたらたまったものではない。


こんな具合で、刑務所職員にも様々なタイプお人間がいるのだが、懲役に至っては、さらに多様な人種が存在している。


まあ、刑務官というのは国家試験に合格する程度の頭脳が、最低限度備わっているのだから、そもそも懲役と較べること自体が間違いの様な気もするが、懲役というのは本当に変わった人が多いのである。


中には作業中に、一人でブツブツ喋っているので、どうしたのかと思い聞いてみると、真顔で「シッ!!今、宇宙人が窓の外に来ているから、静かにしてくれ!!」(どうやら交信中らしい・・・・・。)と言う人がいたり、夜中に寝言で、演歌を前奏付きで三番まで完唱してしまう人(しかも本人はその歌を知らないのだと言う・・・・・。)がいたり、シーチキンは海鳥の肉(うみどりってどんな鳥やねん!!)出来ていると、本気で信じて疑わない人がいたりと、結構、強烈なものだ。


もっとも、本当に強烈な人は、工場に下りる事が出来ないので、独居拘禁されているのだけど・・・・・。


この様に、変な人を挙げていくとキリが無いのだが、私が観たところ、まともなと言うか、常識的な考え方の人というのは全体の3~4割程度なんじゃないかと思われる。


こればかりは、堅気もヤクザも一切関係は無い。


そもそも刑務所(しかも、ここはLBだし)は犯罪者しか居ないのだから無理も無いか・・・・・。


しかし、刑務所というのは何もおかしな人ばかりが来るという訳ではない。


ヤクザ的な表現になってしまうが、組織や誰かの為に、ジギリをかけて務めに来る人も中には居るのである。


そりゃ、罪だけを見てしまえば、殺人などを犯しているので、世間で言うところの”悪人”の様にも見えるのかも知れないが、私情とは全く別のところで、事を決心する訳であるから、これはなかなかに真似の出来る事ではない。


私の工場にも、昨年末に二十年の刑期を立派に務め上げていった人がいる。


この人は、二十代の半ばから服役していたのだが、現役のヤクザであるが為に、満期での出所(警察にヤクザとして登録されている人は、離脱届を受理されない限り、ヤクザとして扱われるので、仮釈放の対象になることはない)となった。


二十年間、自分の意志を曲げる事無く、務めたこの人も凄いと思うのだが、驚くべきはこの人を二十年間、待ち続けたこの人の奥さんなのである。


聞けば、娑婆にいた頃に一緒に生活した期間は、なんとたったの半月程なのだという。


余りにも美しい話なので、少しだけ書かせて貰ったのだが、この人が如何に素晴らしい人柄の持ち主かを窺い知る事が出来る筈である。


昨今の、結婚してはすぐに離婚をするという、責任感の欠落してしまっているエセカップルに、爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいものである。


こんな、ドラマにでもなってしまいそうなケースは、ごく稀だろうと思うのだが、懲役の中にも素晴らしい人が存在するのだという事が少しは解って戴けたら幸いである。


確かに、法律を犯した者以外が此処に来ることは有り得ない(冤罪は別として)のだが、例えば、自分の家族を殺した相手を殺したら、果たしてその人は悪人だろうか?


殺人を正統化するつもりなど更々無いが、快楽や金欲の為だけに人を殺した人も、止むに止まれぬ事情から人を殺した人も、何もかもそれこそ、クソもミソも一緒くたにされ同じ部屋にいて、生活をさせられている。


犯行に至る経緯は、人それぞれ、千差万別だが、ここでは互いが同じ様に感情を殺し合って、日々を送っている。


これが、現実の刑務所の姿なのである。




   12月分賞与金  1811円         TOTAL    15924円