その4≪早くも最低なお土産を貰う≫
お土産といえば大抵は喜ばしいものと相場は決まっているのだが、刑務所内のそれは決してそんなものではない。むしろ、この通称“お土産”を頂いた方々はほぼ確実に怒りを憶えるに違いない。
私は受刑生活4ヶ月目にして早くも頂いてしまったので、ちょっと恥ずかしいけどカミングアウトしてしまうことにする。
まず、その前に少し触れておきたいのだが、此処の施設では、入浴日が一週間に二回の週と三回の週とが殆ど交互に繰り返されている。
一回の入浴に割り当てられる時間は15分と非常に短く、風呂好きな私としてはせめて二日に一度は入りたいところなのだが、まぁ、頭も坊主だし今は冬なのでなんとか我慢できている。
現在私は雑居で生活しているので、毎回5~12人程度の集団で入浴が実施されるのだが、浴槽があまり大きくないので、7、8人以上で入る場合は膝を抱える様な格好で向け合って入らなければならない。更に男同士が至近距離で肌を寄せて入る為、そっちの気の無い私にとっては不快であり、決して開放的とは言えないのだが、背に腹は代えられないのでこの季節は悪条件にプラスして垢だらけの湯船であっても温まりたくなってしまう。
ちなみに、此処ではシャンプーなどという物は存在を許されていないので、頭から足の先まで全てを石けんのみで洗わなければならない。それから、浴場内には12個の水道とシャワーが設置されているのだが、何故かシャワーを使用すると怒られてしまうので、いちいち洗面器に湯を溜めて体を流さなくてはならないのだ。たかだか風呂に入るだけだというのに、制約はまだまだある。
まず、浴場内での交談は固く禁じられている。もし、誰かと喋っているところを担当職員に目撃された場合は程度によっては連行されて取調べを受けてしまうのだ。(懲罰委員会が開催される恐れがある)
それから、髪を剃る為のT字カミソリが渡されるのだが、髪以外の毛を剃ってしまうとこれまた連行である。(まゆ毛を剃りたがる人が多いのだ)
他にも、もみあげの長さは目尻の延長線上で揃えなければならない等々、書いていけば切が無いのでとりあえずこれ位にしておこう。入浴状況はざっとこんな感じなのである。
さて、ここらで本題に入るが、私は先日の或る夜中に猛烈な痒みによって突然目を覚ました。どこが痒かったのかというと・・・・アソコである。きっと温かい布団の中で菌が活発になってしまったのではないと推測されるのだが、はっきり言ってこの痒さは耐え難い、というよりヤバスギル。
この症状が噂の「インキン」と発覚したのは数日後の医務診察の時である。(毎週水曜日が医務診察の日)医者はこういった症状を余程多く見てきたのか、「インキンだと思うよ」と冷たく言い放つと、一向に効き目の表れない薬(塗ってみて発覚した)を残して、とっとと次の患者の元へ行ってしまった。
以後、この症状は日に日に悪化し、毎晩夜中に目を覚ますと決まって私の手は股間を掻いているのだ。
言うまでもなく此処で言う“お土産”とはこの「インキン」である。
もうひとつ、最もポピュラーなところで「水虫」というのもあるのだが、私は今のところ後者には罹っていない。もっとも私は残りの刑期が十数年と長いので、罹ってしまうのはきっと時間の問題だろう。
短い刑期の受刑者は刑務所内でこの症状に見舞われ、完治することなく社会へと放り出されてしまうので、“お土産”と呼ばれる所以となっているのだろう。
そもそも、何で私がインキンになったのかと思いを巡らせてみたところ、心当たりは入浴時に座るイスに行き着いた。
どういうことかというと、既にインキンを患った受刑者が私が座る前のそのイスに菌をくっつけていったのだと思われる。
ということは、既に感染してしまった私が座ったイスに後から座った人も同じ運命を辿ることになる。
どの位の確立で感染するのかは分からないが、これは無限に感染者を増やしてしまう魔のサイクルだ。
このサイクルを考慮すると、せっかく完治したところでまたすぐに感染してしまう恐れがあるということになる。
私がこの魔のサイクルに一役買っているのは不本意ながらまぎれもない事実である。
私に菌を移した野郎は呪ってやりたいが、私から不幸にも菌を貰ってしまった人には申し訳ないので、これ以上の被害者を増やさない為にも、今では入浴の際、イスに座る前と、使用した後には熱い湯でイスを流すことにしている。
これが今の私に出来る精一杯の予防と償いである。
それにしても、一体何割の受刑者がこれ等の症状を発症しているのだろう?
ちなみに私の部屋では6人中2人が感染していた。
昨今、世界中ではHIVウイルスや鳥インフルエンザウイルスの問題が深刻化いているが、今の私にとってはインキンの方がよっぽど深刻な問題である。
それ程に痒い。
私は我々受刑者を夜毎苦しめるこの菌の根絶を心の底から願う次第である。