その3≪刑務所内の年末年始≫
パクられてから2度目の正月を迎えてしまった。過ぎてしまえば早いもので、まさに光陰矢の如しといったところだ。
今回は此処での年末年始の様子を簡単に記することにする。
まずは、前回書いた""ありえない収入""の作業だが、12月28日の午前中で仕事納めとなった。その後は大掃除をすることになったのだが、これがまた酷いものだった。
建物自体がまだそんなに古くなかったのがせめてもの救いだったのだが、毎日結露によってビチャビチャになってしまう窓側の壁は大量の黒カビに侵食されていて、それをタワシで落とすだけでも一苦労である。
ちなみに掃除の際に壁を磨かなければならないという決まりなんかは無いので、もしかしたら2、3年以上前からカビは放置され蓄積され続けていたのかも知れない。
それでもかれこれ2時間も掃除を続けると、部屋は見違える様に綺麗になった。
その後に入浴を済ませると、あとはそのまま1月3日の21:00迄自由時間である。
たぶん一年の中で、この約一週間の期間が受刑者にとって最も楽しいひとときなのではないだろうか。
すくなくても私はそうである。
ただ、自由といっても自分の部屋の中だけで生活するということには何の変わりも無いのだが・・・。
ちなみに現在は12畳程の広さの中に6人で暮らしているが、やる事といえば専ら将棋・オセロ・五目並べ、もしくは読書(官本)である。
一応休みの期間中は殆ど一日中ラジオが流れているのだが、6人がそれぞれに会話をしていると、とても聴けたもんじゃないのであまり意味は無い。
私の部屋は6人中4人が年末に入れ替わってしまったので最初こそは彼等の事件に至るまでの経緯や今迄の犯罪など、世間話に華が咲いたが、それ等が聞き飽きた頃には大晦日になっていた。
大晦日といえば年越しそばだが、此処では""どん衛兵の天ぷらそば""が支給された。
しかし、されるタイミングは完全に我々受刑者の気持ちをシカトしていて、なんと夕食が終了した10分後位には湯を注がなくてはならないのである。(ちなみに夕食は休みの日だと16:00頃だ)
せっかく久しぶりに食べられるカップ麺だというのに満腹中枢満たされた直後なので美味しくも何ともない。
それを無理矢理食べ終わると、次は数種類の""甘しゃり""(此処では菓子などのことをこう呼ぶのである。ちなみにしょっぱい物でも甘しゃりとなる)が配られたのだが、こちらはゆっくりと食べられるのでとても喜ばしい。
外の世界にいればこんな菓子なんか何とも思わないのだが、此処では普段自由に食べることが出来ない為、とても貴重に感じてしまう。
残さず食べてしまったのだが、我ながら浅ましい限りである。
そしてこの日ばかりは紅白歌合戦を聞きながら24:00まで起きていることが許される。
そのまま何事も無く年は明けてしまった訳だが、元旦は朝から意外とまともなオセチと和菓子の折り詰めが配られ、僅かながらも正月気分を味わうことが出来た。
更に三箇日は毎日餅が出された。
正月太りを目論んでいた私にとっては、まさに打って付けのメニューだったのだが、1月5日の時点で体重を量ったところ、正月以前と比べプラマイゼロという結果にあえなく終わってしまった。
何故私が太りたかったのかというと今暮らしているこの部屋にはなんと暖房器具が一切無いからなのである。
まだ南側に窓があるのが不幸中の幸いといったところだが、空が晴れていなければ最悪な一日となる。
此処は北国に属している地域なので、雪も降れば気温も低い。
はっきり言ってこの季節は苦痛以外の何物でもないのである。
普段の食事は朝・昼・晩の殆どを完食している私だが、カロリーが足りていない所為か体重はほんの少しも増えてくれない。
そんな中で唯一太れるチャンスだった筈の正月期間は結局私に何ももたらしてはくれなかった・・・。
まぁ、こんな感じで新しい年がスタートしてしまった訳だが、一体どんな一年となるのだろうか。
私はとにかく一日も早い出所を目指しているので、懲罰などを受けることなく無事故で過ごしていきたいものである。