その2≪初任給は驚愕の339円≫ | The Prison Chronicle ~リアルタイム刑務所日記~

その2≪初任給は驚愕の339円≫

10月1日、全ての裁判が終了し、被害者側との示談などが成立した為、最終的に私の刑は懲役16年と確定した。その旨が記された通知が私の手元に届けばその瞬間から懲役としての生活がスタートすることになる。

刑が確定する前の状態を未決と呼ぶのだが、未決囚は週3回1日700円(1週間で4900円以内)の範囲内で、コーヒーやジュース、菓子類、カップラーメンetc・・・・が買えるし、それ以外にも週1回日用品が買えたり、毎週3冊までなら好きな本が買えたりと、結構自由度は高い。

服も私服の着用がOKで、差し入れしてくれる人がいれば、座布団や布団も私物の使用が可能である。

ちなみに手紙のやり取りと、面会などは、平日であれば毎日することが出来る。(回数は制限されている)

そして刑が確定した後の状態を既決(きけつ)と呼ぶのだが、これが現在の私だ。

この既決囚になってしまうと、社会的な身分が受刑者として確定してしまう為、私に対する扱いは、今までとは全く別のものになってしまうのだった。

前回、私は某刑務所内にて生活している、と書いたが、厳密には刑務所の施設内にある分類センターというところに収容されているのだ。

此処は要するに、全国のどの刑務所に受刑者を送るのか審査するところである。

どういう事かというと、刑務所には幾つかの種類があって、初犯刑務所はA、累犯刑務所はB、長期(8年以上の刑)の初犯刑務所はLA、長期の累犯刑務所はLB・・・さらに少年刑務所(28才以下の受刑者で、32才位までに出所する人が多い)は初犯がYA、累犯がYBと区別されるのだが、受刑者はこの中の何処かに送られるという訳だ。

私の場合は、28才以下に含まれるのだが、刑が長いので、少年刑務所には送られないものと思われる。

ちなみに犯罪が悪質たったりすると、初犯の人でもB刑務所に送られる場合があるという。

分類センターは、刑期確定後におよそ2~5ヶ月収容されるとのことだが、私は現在2ヶ月目である。

此処は言ってみれば最悪な場所で、自由度が極めて低いのである。

たとえ自分の本を持っていようと、此処にいる間は読むことが出来ないし、私物の下着の着用も許されないのだ。

しかも、必要最低限の買い物しか出来ない。(便箋・封筒・切手・ボールペンのみ)ので、私物の石鹸や歯磨き粉などが無くなれば、官物の支給を受けることになる。驚くべきは歯磨き粉で、なんとペースト状ではなく、粉状のものを支給されるのである。今は21世紀で宇宙旅行すら計画されている時世だというのに、粉歯磨きなんて、一体どこで売っていたのだろうか・・・?

そして、何より私が受刑者となってから苦痛を感じたのは、誰が使っていたかも分からない、とても臭い布団で寝なければならない事だ。

この素敵な臭いから想像すると、長期に渡って洗われていないのは明白で、臭いもさることながら、ご丁寧に無数のシミまで付着している次第である。

一応、シーツなどは定期的に交換してくれるのだが、この布団を使用した最初の夜は、余りの不快さの為、ちゃんと掛けることが出来ず、早速風邪をひいてしまった。

まぁ、そのお陰で次の晩は鼻が詰まっていたので、臭いを気にすることなくグッスリと眠れたのだが・・・。

ちなみに今ではすっかり慣れてしまったので普通に寝ることが出来る。

あんなに嫌だったのに、人間の順応性とは凄いものである。でも、やっぱりちょっとくさいけどね。

それから、今の私は昼間は基本的に部屋の中でずっと座っているという生活の為、座布団も重要なアイテムの一つとなる。未決の頃は、差し入れしてもらったテンピュール素材の厚さ10センチ程の座布団を使っていたので、ケツへの負担はかなり軽減されていたのだが、それももう使えなくなってしまった。

現在使用中の座布団はといえば、厚さ2センチ程の只のスポンジである。(一応カバー付)

これは想像して頂けば分かる通り、実際に座ってみると地面とケツとの距離が殆ど無くなってしまうので、本来の役割は全くと言っていいほど果たしていない。私は痩せ型なのでとても苦痛である。

その座布団に座りながら、受刑者は作業をしなくてはならない。

ただ、作業と言っても、私はまだ分類センターに居るので、現段階では内職程度のものだ。(本所に行けば工場などで数種類の作業をさせられる)件のスポンジに座った状態でひたすら同じ作業を繰り返している訳だが、今やっているのは、某大手電話会社や某洋服ブランドなどの紙袋を、折ったり貼ったりしている。

こんなものが全て手作業だったとは以外である。

まぁ、内職と言っても立派な仕事だ。

当然、それに対する収入が得られる筈だと思い、一体どの程度のものなのか気になった私は職員に質問してみた。

私:「お伺いしますが、これって1日いくら頂けるんでしょうか?」

職:「・・・・」

私:「じゃあ、1週間でどれくらい貰えるんですか?」

職:「・・・・」

私:「だったら1ヶ月でいくら貰えんの?」

職:「500円だな」

職員の申すところによると、時給でも日給でもなく月給が500円とのことだ。

私は10月11日から作業を始めたので、10月分の給料(作業賞与金という)はなんと339円だった。

日給に換算するとおよそ34円。1日6時間労働として時給は約5.6円である。

あまり数字ばかりを気にすると、とてもじゃないがやってられないので金の問題じゃないんだ・・・と無理矢理

割り切ることにした。これはきっと私に課せられた罰に違いない。

それにしても今時の小学生だってもっと貰っているんじゃないだろうか?そりゃあ、1日でも早く出所できる為だったら、何でもやってやろうとは考えているが、せめてもう少しモチベーションを上げてくれる対価を得たいものである・・・・。

こうして私の懲役生活はスタートしたのだった。


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