~~~中編~~~

 

 多分、人類史上の先例をあたってみれば、「征服者の権利 (Right of  Conquest)」と言われる一種の権利があり、その権利のもとでは泥棒だろうが略奪者だろうが、自分たちが仲間から奪い取るのに十分な力があれば何であろうと自分の

ものにすることができるのかもしれない。

 

文明とキリストの教えがそれをどこまで禁じたか、裁定の真似事をするつもりはない。

だが、ハワイの君主制は偉大なるアメリカ共和制の政策および確固たる友情によって、いつでも守られるものと頼りきっていたことは長年周知の事実であった。

 

 我々を破滅させようという連中を我々は自らの懐で大事に育てあげてしまった。

それも、その連中を我々が誰より大切な友人・仲間だと信じていたからである。

 

彼らの決定的な暴挙に我々が力づくで抵抗しなかったのは、合衆国の軍事力とまともに衝突せざるを得ないからだ。

どんなやむを得ない理由からこの偉大な国の執行部がホノルルの現政権を承認するにせよ、それは我々の行いによってではない。

あくまで米国政府の人間たちの不法な行為により強行されたものだ。

それらの所業をどれほど否認しても無駄である。

 

 陰謀を企てた連中は、実際に政治機構を手中に収め、諸外国の外交官たちの承認も取り付け、自分たちの勝利を手放そうとしなかった。

そこに持ってきて合衆国の介入により、自力で強奪者を払い退けることもできず、他の友好国からの援助も受けられないという状態に追い詰められたハワイ人たちは、自国の将来に対して声を上げることも許されず、アメリカ大陸の原住民の状態にまで貶められたも同然である。

 

 私には、この問題をアメリカ人の観点から考えることはできない。

懸案の併合問題はアメリカ合衆国の建国の方針から全く逸脱するに他ならず、対外関係における不吉な変化を予感させるものでしかない。

私が断固たる確信を持って言えるのは、ハワイ先住民族は自分たちの首長に全面的に忠実であること、そして自分たちの風習や政治形態に深い愛着を持っていること、それだけだ。

彼らは併合案を理解していないか、もしくは激しく反対しているかのどちらかだ。

ハワイ人として生まれ、ハワイの現政権の人間やその家族たちと密接な関係の中で教育を受けて育ち、ハワイと外国両方の特性をじっくりと検分する機会に誰よりも恵まれた私には、併合条約の一行一行、一語一語が何を意味しているか、さらには各部分を誰が考案しているのか見分けることなどたやすいことだ。

 

 この法案を最も熱心に提唱する連中の略歴、そしてその精神構造や性質について考察した文書を私は用意していた。

彼らは私に対してとんでもなく卑劣な、根拠のない誹謗中傷を容赦なく広めている。

 

彼らは公人であるのだから、公開討論にも応じるはずだと私は思っていた。

ところが私の出版社から、名誉毀損に当たる可能性があるということで印刷をあっさり却下されてしまった。

 

だからこの場を借りて私はお伝えしたいと思う。

国民に情報を伝える巨大な媒体であるアメリカの報道機関がハワイ問題に関してとっている姿勢、それに対して私がどれほど困惑しているかを。

 

シェイクスピアはこう言っている。

「巨人の強さを持つことは大いに素晴らしきこと。

だが、巨人のごとくにそれをふるうのは暴挙だ。」

 

マスコミはほとんど例外なく、ハワイ人の統治権消滅を歓迎しているらしい。

それどころかたびたび私について低俗な当て擦りや軽佻浮薄な表現で論じ、判で押したように私に不利な論評を書き連ねてきた。

その一方で、故意にせよ騙されたにせよ、記者が書いた誤った記事内容については、正しい情報を伝える私や友人たちからの手紙の掲載は拒否している。

 

たぶん、名誉毀損に絡むケースも多かったのだろう。

おそらくマスコミは自分たちがどれほど冷酷に自らの力を奮っているか、何も自覚していなかったのだ。

でもきっとその傷をなんとか修復しようとするはずと私は信じている。

 

 ハワイには異分子のグループがあり、彼らはエネルギッシュで決断力に溢れ、自分の仕事をやり遂げる能力は十分だが、手段を選ばない。

彼らは間違いなくホノルルの現政権の資力、影響力全てを支配している。

そしてこの先もこれまでと同様に、自分たちの目的を達成するためにそれらを存分に駆使し続けるだろう。

 

彼ら併合派グループはアメリカの政治でも危険分子となるかもしれない。

もともとそう生まれついているせいもあるし、子供の頃から独裁的な生き方を叩き込まれているせいでもある。

 

(後編に続く)


 

 

1897年、6月17日付のセントポール・グローブ紙

(ミネソタ州の地方紙)

一面に掲載された風刺画

 

下のキャプションには、

 

「皆さんお下がりくださいよ。

これから私がこのサンドウイッチを味見するからね」

と書かれていて、

アンクル・サム(=アメリカ合衆国)が他の人たちを抑えて退けている。

 

退けられているのは、日本人(帽子にJAPと書かれている)やイギリス人など。

ハワイ諸島は、当時はサンドイッチ諸島と呼ばれていた。

 

 

アメリカは、日本が増大し続ける移民の数を背景に、

ハワイや太平洋の覇権を狙って進出してくるのを非常に警戒していました。

天皇制という君主制国家の日本は、ハワイ王制とも馴染みが深く

その点でもアメリカ併合派は日本人を強く警戒、牽制していたようです。

 

ちなみに、この日の新聞記事を読むと、ワシントンではハワイ併合法案が上院に提出されたものの、条約批准に反対する上院議員たちが多く、次期(来年度)国会に持ち越しになりそうだ、と書かれています。

そしてその通りになりました。