訳注:① 獄中歌 その4 ・1895年6月の曲)

 

6月に入り、リリウオカラニ釈放の噂が流れた、

と本章に書かれています。

噂の出元がどこだったのかはわかりませんが、

リリウオカラニにとってはこれは非常に明るいニュースでした。

毎朝届く花束の包み紙である新聞で、

彼女はこのニュースを知ったのでしょう。

 

この月、リリウオカラニは数曲歌を書き上げています。

それらはコモン・プレイヤー(祈祷書)の詩篇のいくつかに着想を得た

賛美歌となっています。

 

 リリウオカラニの数多い楽曲の中でも特に有名な曲、

「Ke Aloha O Ka Haku(別名、Queen’s Prayer)」も、

この時期に作られました。

(3月に作曲されたとの説もあります。

 のちに自身で楽譜に3月22日作曲、と書きたしていますが、

 元々は6月5日の日付がされているそうです。)

 

第43章で、リリウオカラニが

[1月16日イオラニ宮殿に拘留された最初の夜、

付き添いのクラーク夫人と二人、

祈祷書をひたすら読んで夜を明かした]

と彼女は記述していました。

 

この時二人が読んでいた祈りの言葉は、

「コモン・プレイヤー」という聖公会(英国国教会)の祈祷書の

詩篇31 Psalm XXXI でした。

 

どう言う内容の祈祷文だったのか、

調べてみました。

こちらのサイトの訳文が読みやすいので

リンクを載せておきます。

    ⤵️

https://www.bible.com/ja/bible/1819/PSA.31.新共同訳

 

読むほどに、リリウオカラニの気持ちが胸に迫り、

本当にどれほどの絶望の一晩だったかが伺えます。

特に、10〜19 にかけての一連の言葉は

リリウオカラニの嘆きとそっくり重なります。 

 

この祈りの主人公は、悩み苦しみ、

身も心もボロボロになってしまった人間。

全ての仇に謗られ、周囲の人間に疎まれ、

「私を見るものは避けて逃げます」。

死んだもののように人々から忘れられ、

身の回りには陰謀が張り巡らされている。

 

 

絶望の淵で、リリウオカラニは必死に

この詩篇の言葉にすがったのでしょう。

 

その後、裁判、判決を経て、3月に入ると、

牢獄の中にいて、全てを失ってもなお、

日々の暮らしは続いていく・・・そのことを

リリウオカラニはどんな思いで受け入れたのか。

 

ハワイの民から送られる花束。

果物やお菓子の詰まったカゴ。

その中に密かに仕込まれたリリウオカラニへのメッセージ。

 

それを受け取るリリウオカラニの気持ちを想像します。

最悪の経験をしたからこそわかる、

真の友情、真の愛情、真の幸せ、真の信仰。

それらもまた、リリウオカラニの中で光を放っていたことでしょう。

 

そうして6月、釈放の噂が聞こえてきた。

この頃には、オアフ刑務所に投獄されていた王党派の人間たちも

少しずつ釈放されていました。

国民を我が子と思うリリウオカラニにとっては、

自分の釈放同様嬉しい知らせだったでしょう。

 

そうした喜びが少しずつ

リリウオカラニの心を癒してくれたのかもしれません。

 

以下の数曲は「コモンプレイヤー」の詩から着想を得たと言われ、

神の愛を歌い、自分を救って欲しいという祈りとともに、

自分を苦しめる相手にも、人間は皆不完全なものだから、と許しを歌っています。

 

 

・Ke Aloha O Ka Haku

(クイーンズ・プレイヤー Queen's Prayer 、

 リリウオカラニの祈りLiliuokalani's Prayer とも呼ばれる)

 

今でも様々なアーティストによって演奏されている本当に美しい名曲です。

この曲は、王位継承者である姪のカイウラニ王女に捧げる、とされています。

 

神を讃え、神の栄光、祝福への賛辞を歌っています。

 

 

 

 

二番で、

「苦悩に満ちた囚われのわたしの暮らし

 あなたはわたしの愛する光、

 あなたの美はわたしの支え」

 

と書かれています。

この曲をそのままカイウラニへのメッセージとして捉える向きもありますが、

まずは文言通りに、神の愛と栄光を讃える

賛美歌として受け取っていいと思います。

もちろんその裏には、カイウラニへ、

そしてハワイの人々への思いが織り込まれているように思いました。

 

リリウオカラニ自身の英語訳を見ると

 

 

1)主よ、あなたの恵みぶかき哀れみは

天ほど高く

あなたの真実は 

間違うことは決してない

 

2)身を慎みただじっと我が身を振り返るとき

この牢の壁の中で

あなたの御業は私の灯火 私の天

あなたの栄光は私の支え

 

3)私を牢屋に押し込めた彼らの過ちに目をやるまい

そして人間の罪にも。

愛情こもった優しさで許そう

それが我々を清めてくれるだろう

 

4)あなたの恵みを求め 私はひたすら願う

どうか守りをお与えください

そして平安がもたらされるでしょう

今よりとこしえに

 

 

こんな感じでしょうか・・・

 

タイトルにある、Ka Haku という言葉は

ハワイ語では主、神、王を意味します。

「神の愛(アロハ)」という意味であり、

「王(たる自分)の(ハワイへの)愛」

という意味でもあるのかもしれません。

 

 

 

その次に、

「E Ku'u Ho’ola (私の愛する創造主、神よ)」 

という曲です。

歌詞の内容は、

訳注:① その2 でも引用した論文、

「The Prison songs of Liliuokalani」

の中からお借りします。(p.79-80)

 


 

 

 E Ku’u Ho’ola          わたしを救ってくださる主よ、

 E ku mai i luna          立ち上がり

 Pale aku ‘Oe,             払いのけてください

 Me kou mana nui      あなたの大きな力で

 

    I ka poe hana ino    悪事を働く人間たち

    Ho’opilikia mai      彼らは苦しめ

    A ho’opapahao wale  鉄格子に閉じ込める

    I ka mea hala ole     無実の人間を

 

 

こちらの動画の、53分過ぎくらいから

この歌が歌われています。

 

 

3曲目は、「Leha  ’Ku Kou Mau Maka」 (眼をあげて)

 

詩篇121がテーマとなっている曲だそうです。

これは上の動画の、55分過ぎくらいのところから

演奏と歌を聴くことができます。

 

1. 私は山に向かって目を上げる。私の助けは、どこから来るのだろうか。
2. 私の助けは、天地を造られた主から来る。
3. 主はあなたの足をよろけさせず、あなたを守る方は、まどろむこともない。
4. 見よ。イスラエルを守る方は、まどろむこともなく、眠ることもない。
5. 主は、あなたを守る方。主は、あなたの右の手をおおう陰。
6. 昼も、日が、あなたを打つことがなく、夜も、月が、あなたを打つことはない。
7. 主は、すべてのわざわいから、あなたを守り、あなたのいのちを守られる。
8. 主は、あなたを、行くにも帰るにも、今よりとこしえまでも守られる。

 

という内容です。

神さまがいつでも守ってくださっている、と

自らに言い聞かせるような、

神を讃える歌ですね。

 

 

最後にもう一つ、 「Himeni Ho’ole a Davide 」

歌詞は詩篇124となっていますが、この曲は未完だそうです。

 

詩の内容は

 

「主をたたえよ。

主はわたしたちを敵の餌食になさらなかった。

 

仕掛けられた網から逃れる鳥のように

わたしたちの魂は逃れ出た。

 

網は破られ、わたしたちは逃れ出た。」

 

というもの。

リリウオカラニの希望や、

神への感謝が感じらる詩ですね。

共同訳聖書 詩篇124 より引用させていただきました。)

 

 

 

 

とはいえ、

リリウオカラニの釈放は噂だけで時間だけが過ぎ、

7月に入っても8月の声を聞いても

実際に釈放されることはありませんでした。