私の言葉に、メルはこぼれそうなほど目を大きく見開いた。

驚くのも、無理ないよね。さっきまでと、言ってることが違うんだから。

「で、でも・・・僕は弱いし・・・・・・。」

メルは私から目を逸らし、俯きながら小さな溜め息を漏らす。

さっき少年が言った、私の能力が強いって言葉で、余計に自信を失くしてるのかもしれない。

私はメルを励ましたくて、さっき考えていたことを口にした。

「メルは弱くなんてないよ。誰よりも、心が強いもん。それに、2人で今までみたいに助け合っていけば、何とかなるよ!」

「リオ・・・。」

そう、なんとかなる。1人じゃないから。

私たちは、今こうして一緒にいられてるんだから・・・。

それに、私たちにはもう帰る場所もない。かと言って、よく知りもしない外の世界で2人で旅をする自信もない。

だったら――――行こう。この2人と一緒に。

「・・・ふん。年下に励まされるなんて、情けねぇ男。」

古代の民の少年が、馬鹿にしたようにメルに言った。

ほえ?・・・この男の子、勘違いしてるみたい。

仕方ないか、私小さいもんね。

「私、リオナ・フルール。“16歳”。よろしくね。」

私は、わざとらしく自己紹介をし、右手を前に差し出した。

「・・・え?」

少年の顔に、表情が戻る。

驚きのあまりか、瞬きも少なくなった。

意外と顔に出やすいんだな。

「嘘だろ・・・オレより年上なんて・・・。」

え?

もしかして私、年下だと思われてた?

身長、あまり変わんないのに・・・。

年上だと思われてるなんて期待はしてなかったけど、まさか年下だと思われてたなんて・・・かなりショック。

うぅ、やっぱり私って、小さいだけじゃなくて子供っぽいのかな?

5cm差のメルと並んでいて、同い年だとも思われないなんて。

いや、3歳も違うんだから、同い年でも落ち込むけど。

「あ・・・えっと、僕はメルワーズ。メルワーズ・フランタリア。よろしくね。」

メルが、その場の雰囲気を変えようと思ったのか、明るい口調で言った。

私の気持ちを察してくれるのは嬉しいけど、ちょっと傷つく・・・。

でも、メルは本当にしっかりしてるよね。

13歳とは思えないほど。

「・・・ルー・・・・・・。」

その時、可愛らしい微かな声がした。

その声は今にも消え入りそうで、サティと呼ばれていた少女のものだと気付くのに少し時間を要した。

「ほえ?」

「ルーだよ・・・。この子、ルー・・・・・・15歳・・・。」

見ると、サティの細く白い人指し指は、少年の方に向いていた。

この男の子の名前と年齢のこと、かな・・・。

「そっか、ルーっていうんだ。よろしくね、ルー。」

私は、古代の民の少年――――改めルーに、再び右手を差し出す。

少年は、そんな私を全く無視し、サティを振り返った。

「ちょっ・・・サティ!・・・教えんなよ、ったく・・・。」

あれ、スルーされた・・・。

そういえば、ルーって人間が嫌いって言ってたっけ。

だからって、何事もないように振る舞わなくてもいいじゃん・・・。

ルーって、人間と何かあったのかな?

古代の民と人間が種族的に対立したという話は、昔話でも聞いたことがない。

だとしたら、ルー個人が人間を嫌ってることになる。

でも、サティは口数は少ないけど、とても人間嫌いには見えないし・・・。

「・・・教えてない・・・・・・だって、私がそう呼んでるだけ、だもん・・・。」

サティが、ルーに言葉を返したのか、不意にそう言った。

・・・え?

その言葉に、違和感を覚える。

今の・・・どういう意味?

メルも、不思議そうに首をかしげる。

ルーかサティに聞きたかったけど、それ以上のことは2人とも話す気配が全くなかったから、仕方なく諦めた。

まあ、別にいいよね。一緒に行けることに変わりはないんだから。

しばらくして、ルーが腕組みをしながら私たちを振り返った。

「とにかく、次の目的地はミクシルだ。今日はもう日が暮れそうだから、途中にあるギルンニガに寄る。行くぞ。」

ミクシル?ギルンニガ?

聞いたこともない言葉だったけど、きっと町の名前だよね。

ヤムルには行かないんだ・・・まあ、目的地はどこでもいいんだけど。

私のやるべきことは、炎竜石を取り戻すことだもん。

なるべく多くの町に行った方がいい。


ルーの言う通り、もう空はすっかり橙色に染まっていた。

夕日に照らされ、ルーとサティの白銀の髪が輝く。

何も分からず成す術のない私とメルは、どんどん前に進んでしまうルーの背中を追いかけた。


これから、どんなことが待っているんだろう。

楽しいことも、嬉しいことも、辛いこともあるんだろう。

でも、それを全て受け入れて、前に進んでいきたいな。




これが、後に世界に大きな理を創り上げることとなる、ルーたちとの出会いと私たちの旅の始まりだった――――・・・。