・・・さっきの子と同一人物とは思えない。
私は冷酷な言葉を浴びせ、今も無表情でそこに立っている少年を見てそう感じていた。
ただ、恐ろしい空気が張り詰める中、殺気がないことだけは・・・なんとなく分かった。
本当に、私たち自身に恨みがあるわけではないらしい。
それが分かって、少しほっとした。
この子たちと、戦いたくなかったから。
人を傷つけてしまうことが――――怖い。
「で、でも!」
不意に、メルが大声を出した。
それは、やっとの思いで絞り出したような声だった。
「僕たちを、魔獣から守ってくれたじゃない。嫌いだったら、助けないと思うけど・・・。」
そこで私は、はっとする。
――――そうだ。そうだよ。
あんな道端で少し話したというだけの関係の私たちを、助けてくれた。
それは、事実だよ。
「別に・・・オレがお前らに話があって、尚且つ利用価値がありそうだから助けたんだ。勘違いするな。」
少年はメルの言葉に、またも冷たく返した。
私の体は硬直する。
「・・・“利用価値”って、どういうこと・・・・・・?」
無意識のうちに、声が震えた。
自分の聞いたことが、信じられない。
その言葉は氷のように冷たくて、私の心に突き刺さる。
高ぶる――――感情が、高ぶっていく。
「だってお前ら、能力者だろ?――――“出来損ない”のさ。初めて会った時も何となく感じてたけど、レトロアに行ったのとさっきので、確信したよ。」
少年が、ふっと鼻で笑った。
“出来損ない”――――・・・?
その言葉だけが、耳に残る。
何も知らないくせに。私とメルのこと、何も知らないくせに・・・!
「メ、メルには酷いことしないで!後、私はともかく、メルは出来損ないなんかじゃない。頭が良くて、優しくていい子なんだから・・・。メルのこと何も知らないくせに、悪く言わないで・・・!」
気付けば、私は叫んでいた。
咄嗟にオカリナを構え、きっと少年を睨みつける。
それでも少年は、余裕の笑みを見せた。
「出来損ないだよ、オレらからしたらさ。だって、“能力”を使える“人間”は――――・・・。」
そこまで言いかけて、はっとしたように少年は笑みを消した。
何か、言ってはいけないことを言ってしまったみたいに・・・。
その意外な反応に、私もメルも戸惑ってしまう。
「な・・・何?」
突然、場の雰囲気が変わった。
さっきからこの子、何なんだろう・・・。
何がしたいのか、目的がよく分からない。
「と、とにかく。能力者なら、オレらと一緒に来てほしいんだ。どうせ、居場所もないんだろ?」
・・・!
ど、どうしてそれを・・・?
レトロアで何か聞いたのかな。でも、大人はみんな眠らせたはず・・・・・・。
「“気”っていうの・・・。私たちは、“気”でその人の中の知りたい情報を読み取れる・・・。」
そこで初めて、少女の方が口を開いた。
“気”・・・?それも、古代の民の能力の1つなのかな。
情報を読み取れるなんて・・・古代の民は、一体どこまですごい力を持ってるの?
私やメルがここにいる理由を、この子たちは知ってるってことだよね・・・。
でも――――例え居場所がなくても、私にはメルがいる。
守りたい存在、守らなきゃいけない存在。
こんな、私たちを利用しようとしてる人についていくつもりはない。
今だったら――――感情の高ぶっている今なら、使える。
私は気を取り直し、オカリナを再び口元に寄せた。
少年たちから逃げる――――・・・転移をするために。
「――――消えなさい、時の果てに。汝はそのままに、我に身を委ねよ――――。・・・第4楽章、『瞬転の歌』・・・・・・!」
・・・っ!?
オカリナの穴を塞ごうとする指の動きが止まる。
私じゃない・・・自分の意思じゃない。
体が動かない・・・!
「リオ、やめといた方が・・・!」
「ふぅん、そっちは馬鹿じゃないみたいだね。――――でも、もう遅い。」
メルはそこでようやく、私の体が動かないことに気付いたらしい。
私を止めようと伸ばしかけた手が、動揺したように宙を泳ぐ。
どういうこと・・・!?
これは・・・あの少年がやっているの・・・!?
腕を動かそうとしても、びくともしない。
メルは、どうして「やめといた方が」なんて・・・。
私がこうなるの、予想してた・・・?
「まさか、転移術まで使うとはね。流石に驚いたよ。・・・でも、所詮人間だね。」
少年は冷たい眼差しで、ゆっくりとこっちに歩み寄ってくる。
古代の民って・・・普通じゃない!
伝説で伝えられている以上に、能力が高い。
私の能力くらいじゃ、敵わないよ・・・。