「よっ、と!」
うわぁぁっ!
人間が2人、落ちてきたぁ!
驚きのあまり――――魔獣に襲われそうになっていたという恐怖もあり、私は腰を抜かしてしまった。
メルも、立っているのがやっとで、その足はガクガクと震えている。
私は、目の前に着地した2人の後ろ姿を交互に見比べた。
・・・あれ?
ふと、1つの予感――――もう確信に近い――――を感じた。
この2人って・・・。
「やっぱ、能力者だったんだ。」
2人のうちの1人が、私の方を振り返りながら言う。
全身に、電撃が走った。
あ・・・あぁっ!やっぱり、さっきの古代の民の人!
すごく可愛らしい顔立ちをしてて、まじまじと顔を見つめてしまったからよく覚えてる。
どうしてこんなところにいるの?レトロアに行ったんじゃなかったの・・・?
あまりに突然のことで、声も出せないでいる私の方を、もう片方の少女も振り返った。
紛れもなく――――さっきの少年少女だった。
2人はその場に立ったまま、じっと私たちを見つめている。
な、何・・・?私、何かしたっけ?
その時、少し後ろでメルが呟いた。
「ね、ねぇリオ、魔獣が・・・。」
メルの言葉に、私ははっとする。
そうだ、今は余所見をしている場合じゃない。
早く魔獣から逃げないと・・・。
そう思って、力を振り絞って立ち上がり、魔獣に再び向き直った。すると・・・。
「あ、あれ?」
魔獣が、どっか行くよ!?
魔獣は既に私たちに背を向け、森に消えていくところだった。
予想外の事態に、私もメルも唖然としてしまう。
ど、どうなってるの・・・?
「オレたちがやったの。」
深い溜め息をつきながら、さっきの少年がぽそりと言った。
私はまた、少年の方へ視線を戻す。
「これでね。」
たいして興味も無さそうに、少年は掌で珠玉のようなものを弄んだ。
“これ”とは、その珠玉のことを言っているらしい。
なんだろう・・・この玉、不思議な力を感じる。
それに、「オレたちがやった」って?どういうこと?
疑問ばかりが、次々と頭の中を駆け巡る。
「オレたちが“古代の民”だって、もう気付いてるんでしょ?」
少年の言葉に、私とメルはほぼ同時に頷いた。
そりゃ、これだけ特徴があればね・・・誰でも分かるんじゃないかな。
でも、本人の口から実際に耳にして、改めて“古代の民”という存在を実感した。
「この珠玉か、サティの持ってるこの杖。どっちかを使って、大半の古代の民は能力を使うんだ。――――『動物』を操る能力をね。」
「ど、動物を・・・!?」
す、すごい・・・!
さっきまでの恐怖も忘れて私は、思わず大声を上げていた。
植物とか音を操るのとは、わけが違う。
自分の意思で動いているものをあやつるなんて・・・。
やっぱり、古代の民ってすごいんだね。
純粋に、神の加護を受けた能力。
ちょっと憧れるなぁ。
「ま、古代の民にも得意不得意はあるから、『動物』とは別のものを操る奴らもいるけど――――。」
「・・・すごいね!動物を操れるなんて。」
私は、素直に思ったことを言った。
古代の民は知に優れ、世界の理を創り上げた――――あれは、能力のことも含めて言っていたのだろうか。
動物じゃないにしても、きっとすごい能力を古代の民は持っているのだろう。私たち人間には到底出来ない、神の力を――――・・・。
でも、次の少年の反応は、予想外のものだった。
「古代の民に初めて会った奴って、大抵そう言うんだよな。本当、馬鹿。生憎興味持たれても、こっちは馴れ合う気はないんでね。」
・・・え?
さっきとは全く違う態度に、驚きを隠せない。
ど・・・して・・・・・・?
だって、さっきはあんなに優しくしてくれて・・・。
見れば、さっきとは顔つきも口調も、全く違った。
天使のような微笑みとは真逆に、軽蔑するような、冷たい表情でそこに立っている。
言葉遣いだって、さっきのような柔らかいものじゃない。明らかにそれは、私たちを否定していた。
「別に、お前らに恨みがあるわけじゃない。・・・ただ、オレは“人間”が大っ嫌いなんだ。」
ガン!突然、頭を金槌で殴られたような感覚に陥る。
“人間”が・・・嫌い?それは、人間の存在そのものを否定しているということ?
頭が痛い・・・何も考えられない。
ショックだった。他人に――――それも古代の民に、そんなこと言われたのは初めてだったから。