「ねぇ、さっきの話だけど・・・。」

メルは、歩きながら顎に手を添える。

メルは昔から、考え事をする時はこうするんだ。

「白い髪って、古代の民かな?それとも、ただ単に老人だったとか・・・?」

メルも、私と同じことを考えてたみたい。

さっき、ジェルバが言っていた人のこと・・・だよね。

白髪・・・正確には、白銀の髪を古代の民はもっている。

古代の民には、普通の人間との違いがいくつかあるんだって。

髪の色もそうだけど、左右の瞳の色が違うオッドアイだったり、みんな種類の限られた見慣れない服を着ていたり。

たまに混血種(ハーフ)の人で、どれか1つを受け継いだりしてる人もいるらしいけど、純血で全てをもっている人はもうほとんどいないらしい。

私、少しだけ思うんだけど、古代の民に会ってみたいんだよね。

言い伝えでは、すごく知性があったんでしょ?

どんな人たちなんだろう・・・今の世界の理を創り上げた人たちは。

そういえば・・・。

私たちのように能力がある人は、神からの加護があるから能力が使えるんだって聞いたことがある。

でも、私たちは“神の加護を受けていない”から『人間』なんだよね?

どういうことなんだろう・・・。

「サティ、危ないっ!」

ほえ?

不意に叫び声がしたかと思うと、目の前から女の子が飛び出してきて・・・。

「きゃああ~っ!」

激突!

私はその衝撃で、地面に叩きつけられる。

な、何々何なの!?

考え事のこともすっかり忘れて、私は目の前で座り込む少女に視線を向けた。

あ・・・れ?

少女の姿を一目見て、私はぽかんとしてしまう。

白銀の髪は日の光できらきらと輝き、赤と青の瞳に町では見掛けない白装束・・・。

もしかして、この子・・・。

「リオ、大丈夫!?」

私の少し後ろを歩いていたメルが、尻餅をついた私の方へ駆け寄ってくる。

と同時に、向かいの少女の後ろからも・・・。

「サティ、だから走るなって言ったのに!」

少女と同じ髪の色、瞳の色――――色は左右逆だったけど――――、服を着た少年が走ってきた。

うわぁ、綺麗な子・・・。

よく見れば、少女の方も相当の美人だった。

恐らくは古代の民であろうこの子たちの、特徴なのかな?

「ごめんね、怪我ない!?」

男の子は真っ直ぐ私のところまで来て、手を差し伸べてくれる。

うわぁ、すごくいい人。

ちょっとドキドキしちゃった。

だって、本当に整った顔立ちなんだもん。

「だ、大丈夫。その子こそ・・・。」

「ああ、サティなら平気。よくあるんだ、余所見して人とか物にぶつかるの。」

はにかむと、天使のように可愛い。そういうとこ、少しメルに似てるかも。

「・・・猫さん・・・行っちゃった・・・・・・。」

サティと呼ばれた少女が、ぽつりと呟いた。

「猫・・・?ああ、さっき町で見掛けた。」

その猫を追いかけていて、私にぶつかってしまったんだろう。

男の子は呆れたように少女に返答すると、思い出したようにメルに向かって言った。

「ねぇ、レトロアって町知ってる?案内してくれない?」

え?

突然のその一言に、私の胸はきゅっと締め付けられる。

こんなタイミングで、レトロアの名前を聞くとは思わなかった・・・。

町を出てからその話題に触れないようにしてたから、余計に苦しい。

「え、えっ・・・と・・・・・・。」

メルが、言いにくそうに言葉を濁した。

そりゃそうだよね、私たちはもう・・・。

「・・・あ、ごめん。これからどっか行くんだよね。引き止めちゃってごめんね。」

男の子ははっとして――――私たちから、何かを感じたのだろうか――――、それから少女を振り返った。

「サティ、行くよ!こりゃ、自力で探すしかないか・・・。」

男の子の最後の呟きに、どきんとする。

・・・どうしよう、困ってる。

でも、私たちは戻れない。あの町にも、楽しかったあの日々にも。

「ごめんね・・・。」

メルは苦しそうにそう言った。

メルは優しいから、案内してあげられないことが悔しいんだろうな。・・・そして、私と同じく、もう戻れないという実感。

私たちはいつまで、この苦しみに苛まれて生きていくんだろう・・・。

「あ、ううん、気にしないで!」

2人の少年少女は、特に気を悪くした様子もなく、そう言ってその場を去っていった。

・・・これで良かったんだよね?

こうするしか・・・なかったんだよね?

私たちは本当に2人きりになってしまったんだという事実が、胸を痛めつけた。