「ねぇ、リオ。どうするの?町から出ていくの?」

身支度をする私の後ろで、メルが不安そうな声を上げる。

私は、あの能力を使ってしまった・・・例えそれを町の人が覚えてなくても、炎竜石を盗んだと言って結局責められるだろう。

だったら・・・選ぶべき道は、ひとつしかない。

「ごめんね、メル。ずっと一緒って思ってたけど・・・・・・出来そうにないや。それに、炎竜石が無くなった理由も探さなきゃ。」

私はそう言って、住み慣れた家を後にする。

早くしなきゃ・・・早く、早く。悲しくなる前に。

「な、なら!」

不意に後ろで、メルが慌てたように叫んだ。

「僕も行く!リオについていくよ。」

ほ、ほえ?

意外な言葉に、思わず振り返ってしまう。

「だ、駄目。メルは、ここで今まで通り幸せに暮らすの。炎竜石のことは、私のせいにして・・・。」

そうしなきゃ、こうまでした意味がない。

メルを守ること――――それが、メルのお父さんとの約束なのだから。

でも、メルは頑なに首を左右に振った。

「駄目・・・そんなこと、出来ないよ。それに・・・いいんだ。どうせ、僕もリオと同じでしょ?・・・“能力者”で、逃亡者。」

メル・・・。

メルの言葉に私は、何も言えなくなってしまった。

「すぐに出発しよ。みんな、いつ目が覚めるか分かんないし。」

「で、でもメル、お母さんは・・・。」

「いいって。・・・みんなから聞いたら、きっと分かってくれる。」

半ば強引に、メルはそう言った。

メルは、とてもしっかりしてる。

だから・・・無理してるんだね。

分かるよ。メルの声からは、寂しさばかりが感じられるもん。

「・・・リオ、あれ。」

不意に、メルがある方を指す。

その先に、うっすらと少年の姿が見えた。

あれ、って確か・・・。

「ジェルバ!ジェルバじゃん!」

ジェルバ――――町長さんの孫で、若干9歳の少年。

剣術、勉学、運動・・・たくさんの才に恵まれている。それに加え、町長さんの孫ということもあり、ジェルバの周りにはいつも人が集まっている。

でもだからって、それを驕るわけでも、権力を振り翳して威張りちらすわけでもない。元気ないい子なんだ。

それにしてもジェルバ、どうしてここに?さっきの術、効いてないの・・・?

「ねぇ、町の人、2人を疑ってるんでしょ?怖くて、ずっと家にいたんだ。静かになったから、出てきたんだけど・・・。」

ジェルバは、倒れている町の人々に目をやる。

みんなが安らかな寝息をたてているのを確認すると、ほっとしたように私たちの方に向き合った。

そこで私は、ようやく理解する。

ジェルバ、家にいたからオカリナの音が聞こえなかったんだね。能力が効かないのかと思って、びっくりしちゃった。

そんな私の気持ちには気付かず、ジェルバは続けた。

「オレ、怪しいやつ知ってるよ。白い髪した占い師が、じいちゃんのとこに来て・・・。そいつと話し終わった時には、じいちゃん、おかしくなっちゃってたんだ。まるで、いつものじいちゃんじゃないみたいで・・・。」

白い髪・・・。

もしかして、古代の民・・・?

ううん、まさかね。

古代の民は、随分前から少なくなり始めてるし・・・。

今では、純粋な末裔はほとんど存在していないと言われているもの。

どちらにせよ、その人のせいで町長さんがおかしくなってしまったのは間違いなさそう。

炎竜石を盗んだのも、その人かも・・・。

「リオナ、メルワーズ・・・行っちゃうの?」

ジェルバは、半分泣きそうになりながら言う。

私は、自分より少しばかり小さい少年の頭を撫でた。

「平気、絶対戻って来るよ。・・・約束ね。」

「うん!」

ぱっと明るい表情になったジェルバと、私は指切りをする。

みんな、寂しいのを我慢してる――――メルも、ジェルバも。

私、頑張らなきゃ。自分で決めたんだから。

元来た道を戻っていくジェルバの背中を見送りながら、そう決意した。

約束・・・か。

戻って来れるのかな・・・・・・いつか。