「・・・オ。リオ、起きて。」

横で、メルの声がする。

あれ・・・?今日、学校だっけ?

ぼうっとする頭で考えてから、そういえば、と思い直した。

昨日は帰ってきてそのまま眠ってしまって、何もしていない。

・・・お腹すいたなぁ。

今日は学校休みだったはずだし、メルと何か食べようかな。

「どうしたの、メル?」

私は目を擦りながら、体を起こす。

「の、のんびりしてる場合じゃないよぉ。とにかく早く!」

・・・え?

メルの言ってることの意味が分からない。

そういえば、心なしかメルの声がいつもより慌ててるような・・・。

私は急いで服を着替えて、メルについていく。

家の外に出ると・・・。

「ほ・・・ほえ?何これ・・・。」

町の人たちが、家の前に集まっている。

いつも見慣れている顔。その中には、お父さんとお母さんの姿もあった。

何が・・・起きてるの?

「あんな子供が、まさか・・・。」

「しかもよりによって、リオナが・・・?」

町の人たちが囁いているのが聞こえた。

その間を縫って――――町長さんが前に出てくる。

優しくおおらかで、人々の信頼も厚い町長さん。

でも今は、何故か険しい表情をしている。

何があったんだろ・・・?

「どうしたの、町長さん?」

いつものように、柔らかい口調で答えてくれると思ってた。

けど・・・。

「・・・去れ。心悪しき者よ。」

え・・・!?

と、突然何?

「フィ、炎竜石を盗ったのは、お前だろ!」

「昨日、お前以外に近づいた人はいないんだぞ!」

町の人たちが、次々に叫んだ。

え・・・!?盗られたの?炎竜石が!?

しかも、どうして私のせいに・・・?

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

メルが、私を背に庇うように立つ。

「確かに昨日、リオは行ったけどさ・・・・・・っていうか、リオを呼んで来いってそういうことだったの!?」

「そうだ、メルワーズも・・・!お前も共犯だろ!この町から出てけ!」

「ち、違うよ!僕らはそんなことしない!」

メルの必死な声は、私の耳には届かない。

何も考えられない。頭が真っ白になる。

何で・・・?私は、そんなことしないよ!

どうして、こんなことに・・・。

「でも、リオナもメルワーズもそんなことするような子には・・・。」

「町長がそう言ったんだ!間違いねぇ!」

え?

町長さんが、そんなこと言ったの?

信じられない・・・。

何の根拠もなく、人を疑うような人じゃなかったのに・・・。

どうして?何で?急にどうしちゃったの?


感情が高ぶる。

ああ・・・“使える時”だ。

あの能力・・・天性のもの。


「――――眠りなさい、安らかに。汝眠る時、我君臨す――――。」


静かに、詠い始めた。

「!駄目だよ、リオ!そんなことしたら、もう二度と――――・・・!」

メルが、私のしようとしていることに気付き、悲痛な声を上げる。

メル、気にしないで。

大丈夫。私は大丈夫だから――――・・・。

この町にいられなくなったって、いいの。

いずれ、やってしまう時が来るって――――心のどこかで、分かってた。

「・・・第1楽章、『眠りの歌』――――。」

私はオカリナを取り出し、それを吹いた。

柔らかい音色が響き、それと同時に人々が次々に倒れ出した――――耳を塞いだメルを除いて。

たちまち、町がしんと静まる。




――――もう後戻りは出来ない。

私は、不思議な能力を持っている。

音を操れる、神の能力。

メルのお父さんが殺された、あの日から――――・・・。