帰る途中、私とメルは古代石の前に寄った。

私とメルの、毎日の習慣。

古代石は各々の町にあり、古くから町に伝わるとされる古代の民の石。

その石はかつて、古代の民を守っていた大切な石なんだって。

種類はそれぞれ違って、私たちの住むレトロアにある古代石――――炎竜石(フィエラリア)は、火を司っている。

“神の石”とされているから、誰も手出しは出来ない。

「メルのお母さんが元気になりますように!」

何故私たちが毎日そんなとこに来てるかというと、神様が宿っているこの石にお願い事をするため。

メルのお母さんは、昔から体が弱い。

だから、元気になってほしいんだ。メルのためにも、メルのお母さんのためにも。

「リオ、毎日ごめんね。後、ありがとう。」

メルがふと顔を上げ、言った。

私はそんなメルに、微笑み返す。

「何言ってるの。メルの大切なお母さんでしょ。元気になってくれないと、亡くなったお父さんも安心出来ないよ?」

「そう・・・だね。」

メルは、深い溜め息を吐く。

――――メルのお父さんは、メルが生まれてすぐに死んでしまった。

私の目の前で、山賊に殺されたのだ。

私は一生忘れないだろう。

目の前で起きた、あの惨劇を――――・・・。



その日は、メルが生まれて2週間が経った、ある雨の日のことだった。

もともと私の家族とメルの両親は仲が良く、メルの誕生パーティにも呼ばれていた。

3歳の私はメルにあげるぬいぐるみを抱え、これから会えるであろう小さな男の子に期待を膨らませていた。

楽しい日になる――――はずだったのだ。

パーティが始まって2時間後に、“あの人たち”が現れなければ。

ドアの鍵が壊される音がして、メルのお父さんは咄嗟に私たちを奥の部屋へ隠した。

大丈夫、心配いらない。――――そんな類のことを言っていた気がする。

結局、メルのお父さんは殺され、金目のものを盗って山賊はいなくなった。

「おじさん!おじさん・・・!」

まだ微かに息をしていたメルのお父さんに私は駆け寄り、私は叫んだ。

その時に言った、最期の言葉――――・・・。

「メルワーズを・・・頼んだよ・・・・・・。」

それ以降、メルのお父さんが動くことはもうなかった。



メルのお母さんの体調が悪くなったのはそれからで、辛くて1人ではメルの世話を出来ないメルのお母さんのために、私はメルを守ると決めた。

メルのお父さんが命を懸けて守った人たちを、私が守る、と――――・・・。

メルのお母さんは、私を娘のように可愛がってくれた。

その恩返しもしたかったんだ。


そして、何より――――

メルのお父さんとの約束を、守るために。