第1章 失われた神



「・・・・・・て。起きて、リオ。」

夢見心地の私の脳裏に、優しい声が響く。

半分寝てるのに、誰の声か分かるんだ。

だって、私を“リオ”って呼ぶのは・・・・・・。

「リオナ・フルール!起きなさいっ!」

突然ぴしゃりと言われて、私は跳ね起きる。

「ひえぇっ!」

「全く、あなたは毎日毎日・・・。もう少し、メルワーズを見習ったらどうですか!?」

先生が、私の隣の席のメルワーズ・フランタリア――――私はメルって呼んでる――――に、目配せする。

あ~あ、またやっちゃった。

メルも呆れ顔。

ここ、トワハルト学校は、私たちの住むこのレトロアの町にある唯一の学校。

レトロアは、自然がたっくさんある。

のんびりしてて、穏やかで、私は大好き。なんだけど・・・。

ここの学校のたった1人の先生だけは、のんびりの「の」の字もないくらい、せっかち。

まあ、授業中に私がいつも寝るせいもあるんだけどね。

それに比べ、幼馴染で私を唯一“リオ”って呼ぶメルは、優秀で落ち着いていて、しっかり者。

少し気弱で運動は苦手だけど、私をいつもフォローしてくれる、町で一番頭の良い男の子。

本当、年下とは思えない。

「だから、何回も起こそうとしたのに・・・。」

授業が終わった後、やっぱり呆れたようにメルが言った。

私は、少し苦笑してみせる。

「あはは。ごめんね、メル。」

「いいよ、もう。リオの世話は慣れっこだから。」

メルは教科書をバッグにしまい、帰ろうとドアの方へ向かった。

私は、それを追いかける。


いつのことだったか、なんて覚えてない。

ただ、気付けばいつも隣にいた。

メルは優しいから、よく他の男の子たちにからかわれていた。

私は年上だから、メルを守るのが当たり前。メルと毎日一緒に遊ぶのも当たり前だった。

なのに、いつからだろう。

メルは学校に通い始めて、その優秀さを発揮し、一目置かれていじめられなくなった。

身長も私を追い越して、今ではもう私の方が頼ってる感じ。

16歳にもなって140cmしか身長がなくて、ドジでおっちょこちょい。メルは、そんな私をいつもフォローしてくれる。

「どうしてそこまでしてくれるの?」って聞くと、「小さい頃のお礼だよ。」って微笑むんだ。

私は、そんなメルが大好き。

いつまでも、可愛い可愛い幼馴染だよ。