休日に入った。

・・・はぁ。

何だか、どうしようもなく暇だ。

大悟とは話さないし、崎野やさぁやとはケンカしちゃったし。

・・・どうすればよかったのかな。

心の中では分かってるんだ。オレが一番、悪いなんて。

でも、心のどこかでは『オレだけが悪いんじゃない』って、自分勝手に考えてる自分もいる。

どうしたら、うまくいくんだろう。

オレが、全て自分のせいにすればいいのか?

でも、そうしたら、昔の傷が疼く。

そう、それは、オレの人格が変わってしまったきっかけ――――・・・。


幼稚園――――まだ、柳川学園に入学してない頃。

オレは小等部から入ったから、普通の市の保育園に通ってたんだけど。

「ねえ、凛君!」

「へ?何?」

あの頃のオレは、まだ素直だった。

さぁやが言うような、いい人、だった・・・。

「あのさ、今度、私のお家に遊びに来ない?大悟君もいるんだ!」

そう、大悟とは、本当に小さい時からの幼馴染。

よく、”宮野”って苗字の女の子の家に遊びに行ってたっけ。

でも、どうしても名前が思い出せないんだ。名前で呼んでたはずなのに。

「うん、いいよ。でも、随分嬉しそうだね。どうしたの?」

「へへっ、それは家に来てからのお楽しみ!」

その子は、笑顔で言ってた。

だからオレ、気づいてなかったんだ。

これから起こる災難に。


「おじゃましまーす!」

今でこそ常識人の大悟だけど、小さい頃は本当やんちゃで、あいつの悪さに何度巻き込まれたか分からない。

この時も、そんなことがきっかけだった。

「あ、大悟君、凛君!あのね、じゃじゃーん!」

「わぁ、うさぎ!」

オレは、心底可愛いと思ってた。

大悟もそうだったし、宮野って子が嬉しそうだった理由も理解出来た。

しばらくうさぎと遊んでると、宮野が飲み物を取りに台所に向かった。

その時、悲劇は起こった。

「なぁなぁ。うさぎって、寂しいと死ぬんだって?」

「へ?」

一瞬、大悟の言ってることが分からなかった。

「そこの布で試してみない?」

そして、少し間をおいてやっと、大悟の言ってる恐ろしいことを理解したんだ。

「や、やめようよ。うさぎ、死んじゃうかもしれないし・・・。」

あの頃のオレは、うさぎを助けようと必死だった。

今思うと、バカらしいけど。

「平気だって。苦しそうだったら、すぐ出すし。」

そう言って大悟は、そこにあった毛布でうさぎをくるんだ。

・・・どれくらい、たってからかな。

その毛布が、身動きひとつしなくなったのは。

「・・・あれ?」

戻ってきた宮野は、驚いた表情でオレらに駆け寄る。

「うさぎさんは?どうしたの?」

「そ、それが・・・。」

オレらは、毛布の中のうさぎを見せた。

「!ひどい・・・。」

宮野は大きな瞳から涙をこぼし、涙でうさぎの表面は濡れていった。

「ごめんなさい・・・。」

「凛君が謝るってことは、凛君がやったの?」

「え?」

オレは、思いがけない言葉にびっくりした。

「ち、違うけど・・・。」

「でも、凛君もその場にいたんでしょ?大悟君、凛君のこと、かばわなくていいからね!」

大悟も絶句してたけど、自分がやったって言い出せなかったのか、ずっと黙ってオレの方を見ていたっけ。

あの時は、本当に裏切られたって思ったけど、結局大事にしないためにオレが全部罪を背負った。


そんなこともあって、オレはこんなひねくれた性格になった。

特別、大悟を軽蔑するわけでもない。

だって大悟は、そのことがあってから常識人として改心したから。

でも、どうしてもオレは人を信じられなくなった。

だから、さぁやと出会うまでは昔の自分を忘れてたんだ。

それに、過去の記憶も失ったままだった。

さぁやと出会えたから、こんなに昔の出来事を思い出せてるんだと思う。

でも、どうしても思い出せないことがひとつだけある。

それは、その女の子の名前――――・・・。

医者は、傷つけてしまったショックだと言っていたけど。

どうしてだろう。

他のことは、こんなにも鮮明に思い出せるのに。

名前で呼んでたはずなのに、その名前の部分だけ記憶から抜け落ちてる。

・・・くそっ、考えてたら、余計に苦しくなってきた。

駄目だ、もう寝よう。

そう思ったとき、玄関のインターホンが鳴り響いた。

「・・・はい?」

オレは一応、出る。

でも、出てから心底驚いた。

そこに立っていたのは、他ならぬ大悟と誠也先輩だったから――――・・・。