「・・・ねえ、凛君。」

「何?」

さぁやが、真剣な表情で問いかけてくる。

?どうしたんだ・・・?

「凛君、崎野麗華ちゃんって子と旅行に行ったって・・・本当?」

オレ、思わずはっとした。

え、オレ、魅羅さんにしか伝えてないはずだけど・・・。

聞いちゃった、かな・・・。

「あの、それ、誰から・・・。」

「魅羅だよ。私、ずっと携帯つながらないから心配で・・・。」

・・・やっぱり。

はぁ、もう、魅羅さんのバカ。

オレは、さぁやがいるのも構わず、ちっと舌打ちをした。

さぁやは、驚きの表情を浮かべている。

そりゃそうだよね。今までオレ、こういうイメージじゃなかったもん。

「あーあ。もう、魅羅さんっておしゃべりなんだから。おかげで、いろんなことがさぁやにバレちゃうじゃないか。」

わざと、冷たく言ってみた。

そしたら、さぁやの大きな瞳から、涙がぽろぽろこぼれてきて・・・。

「さぁや・・・。」

苦しかった。

オレ・・・こんなにも、さぁやを傷つけたんだ。

でも、もう時間は戻せない。

どんなに叫んでも、楽しかった時間は帰って来ない。

オレはどうしようもなくなって、その場を去った――――・・・。


教室に行くと、いつものように大悟と崎野がオレの机の周りでしゃべっていた。

・・・くそっ、あいつらはどうして、あんなにいつも楽しそうなんだよ。

オレは朝っぱらから、さぁやと気まずくなったってのに・・・。

「お。はよ、凛。」

大悟がオレに気づいて、ひらひらと手を振ってくる。

「あ、佐方~。今朝、隣にいたのが七瀬先輩だよね。かっわい~。」

崎野は、からかうように言っていたけど、何か、そう言われるとむしゃくしゃする。

もとはと言えば、崎野が悪いんだろ?

オレを、旅行なんかに無理矢理誘ったから。

「うるさい。」

「あ、あれ?もしかして、ご機嫌ナナメ?」

「うるさいって言ってるだろ!いつもいつも、鳥みたいにピーチクパーチク騒ぎやがって。ちょっとは大人しく出来ないのかよ!?」

あ・・・キツく言いすぎた。

でも、崎野がクラスでうるさいってのは周知の事実だし。

「なっ・・・最悪、佐方!最低!」

崎野が、ヒステリックに叫ぶ。

うわっ、何だよ。事実だろ。

一度机をガンと蹴ってから、崎野は自分の席に戻っていった。

うっわー、怖。

女って、これだから嫌いだ。

すぐ機嫌悪くするし、おっかねーし。わがままだし、そうかと思えば優しくなるし。

人によって態度変えるんだよな。

・・・さぁやは、そんなじゃなかった。

なのに・・・たった1人の味方を、オレは、傷つけてしまった。

・・・本当オレ、最悪だよな。崎野の言うとおりじゃん。

「凛・・・今のは、お前がいけないと思う。」

「はぁ?あいつが旅行に連れ出したのは、事実だろ?」

大悟まで、何言ってんだよ。

オレ、さぁやに謝る気はあっても、崎野に謝る気はないからね。

「そうだけど・・・何でも、最後に決めるのは、自分だろ?それを誰かのせいにするのは、おかしいと思うぜ。」

最後に決めるのは、自分――――・・・。

「だ、だから何だよ。オレ、自分の意思で行ったんじゃないよ、旅行。」

・・・本当は、分かってる。

オレ、言い訳してるだけなんだ。

そんなの、分かってるけど・・・やっぱり、素直になれなくて・・・。

「・・・凛、見損なったよ。オレは、お前がちゃんと反省して謝るまで、崎野の味方でいるからな。」

は?

大悟はそう言い残すと、崎野の方へ駆け寄っていってしまった。

ちょっと、待てよ。

何で・・・オレが、責められなきゃいけないんだ?

確かに、心の中では分かってる。オレも悪かったんだって。

でも・・・だからって、崎野がオレを誘ったのは事実だし、何もオレだけを責めなくても・・・。

くそっ・・・何もかも、うまくいかない。

崎野のことも、さぁやのことも、何ひとつ。