――――季節は巡り、6月。

梅雨の時期に入った。

でも、じめじめしてる外とは裏腹に、うちのクラスは騒がしい。

そう、もうすぐ、修学旅行なんだ。

「楽しみだね。私たち、同じ班だし。」

姫乃が笑顔で言う。

「でもなぁ。行動班が誠也と一緒って、どういうこと?」

「いいじゃない。誠也君と一緒でも、きっと楽しいよ。」

もう、姫乃のお人好し。

っていうか、誠也に優しくされてばっかいる姫乃だから、全然分かってない。

「ったく、うるさいなぁ。ちょっとは静かになれない?」

うっ・・・。み、魅羅。

魅羅って、本当どんな時も冷静。

どうしてこんなにも違う私たちが、親友になれたんだろ?

今でも不思議に思うことがある。

まあ、いっか。とりあえず、仲の良い子たちとなれたわけだし。

ちょっと残念なのは、修学旅行の間は凛君に会えないこと、かな・・・。


「わーいっ!来ました、大阪!」

うちの学校はめずらしくて、中等部3年では大阪に行くんだよ。

ちなみに、定番の日光や京都・奈良は、小等部6年と中等部2年の時行ったし。

幼稚舎からだと、結構いろんなとこに行けるんだ。

一旦解散して行動班になってから、私はみんなのところへ駆け寄る。

魅羅の冷静な声が聞こえてきた。

「まずはどうする?大阪城?」

え!

さ、最初からそんな真面目なとこ行っちゃうの!?

「え~、私、たこ焼き食べたいな!」

「・・・・・・。」

うっ・・・。

み、魅羅の視線が怖いんですけど。

うわーんっ、分かったよぉもう!

「おっ、大阪城に行けばいいんでしょ!」

「よろしい。」

何か私、魅羅にコントロールされてる気がするんだけど・・・。

せっかく大阪に来たんだから、本場のたこ焼き食べたかったのにな・・・。

「あ、じゃあ、もんじゃ焼きは?」

私の問いに、ぎろり。

また、魅羅がこっちを睨んだ!


「ふぅ。」

1日の終わり、ホテルのラウンジで1人、感傷に浸る。

今日1日で、結構疲れたな・・・。

「さやか?どうしたの?」

「あ、誠也。」

って、あれ?男子って、こっちのラウンジ来てよかったんだっけ?

誠也が、私の心の中を読み取ったように、にかっと歯を見せて笑う。

「本当は駄目なんだけどな。でも、部屋の窓からさやかが見えたから。うわ~、1人悲しい、って思ってさ。」

「うっ、うるさいな!余計なお世話!しょうがないでしょ、魅羅は班長会議に行っちゃったし、姫乃はまた保健部屋行きなんだから。」

自分で言って、ふっと悲しくなる。

せっかく3人で一緒の部屋班になったのに、ちっとも楽しくない。

姫乃がせめて、体が弱くなければ・・・。

こんな、1人でラウンジにいることもないのに。

私がしばらくうつむいてると、誠也は私の髪をぐしゃぐしゃっとかき上げた。

「わぁっ!?」

「へへっ。そんな暗い表情してるさやか、さやからしくねーよ。元気出せよ。」

え?

もしかして・・・慰めに来てくれたの?

「ま、いつもみたいに元気がねーと、からかいようがないしな。」

むかっ。

結局、それ!?

もう、本当に誠也ってば・・・。

「誠也って、本当に子供の頃から性格悪いよね!」

よしっ、言ってやった!

でも、誠也の横顔は、どこか哀しくて・・・。

「せ・・・いや?」

「あ、ごめんごめん、何でもねーよ。じゃ、バレたらヤバいから、オレ行くわ。」

「あ、うん・・・。」

誠也はそのまま私に背を向けてしまったけど、私、はっきり覚えてる。

普段ポーカーフェイスの誠也の、すっごく悲しそうな表情――――・・・。

ねえ、誠也。心に、何を抱えてるの?

私に出来ることはないの?

何が――――あったの?