「なっ・・・捺騎君!」

夜、お祭りも間近になってきて、人の姿が多く見られるようになってきた頃。

暗い海辺で、後ろ姿の捺騎君を呼ぶ。

「・・・何、卯月?」

いつもの明るくて天然の捺騎君と違って、少し声のトーンが低い。

まるで、心がないみたい。――――自分のことのように、苦しいよ。

私、こんなにも傷つけてたんだ・・・改めて、実感する。

「あ、あのね。捺騎君に言いたいことがあるの。」

息をしっかり吸って、深呼吸。

心を落ち着かせて、ってセリアに言われたっけ。

今だにセリアは、心理学を研究してるみたい。

だから余計に、言葉に重みがあって・・・。

「どうしたの、卯月。改まって。」

捺騎君が苦笑する。

私も今まで、こうだったんだ。

傷つくのが怖くて、傷つけるのが怖くて、現実の何もかもから逃げてた。

笑って、ごまかしてた。

自分の感情をコントロール出来なくて、余計に怖くなった。

でも、ねぇ、もうこんなこと終わらせようよ。

私には、仲間がいるよ。

消せない想いが、たくさんあるよ。

だから、それに正直になりたい。

もう、自分の気持ちに嘘をつくのは嫌――――・・・!



「なっ・・・捺騎君が・・・好き、です。」



言えた・・・。言えたよ。

分かりづらい言葉ではあるけど、途切れ途切れだけど、自分の気持ちは、本音は、しっかり伝えた。

後は、捺騎君次第・・・。

心臓がどきどきいってる。

芽美は恵太君に想いを伝える時、こんな気持ちだったんだ・・・。

「・・・僕さ。」

「うん。」

捺騎君が静かに口を開く。

「卯月を失うのが怖かった。嫉妬してた。こんな僕――――格好悪いよね。」

へ?

予想外の言葉が返ってきたから、びっくりした。

あの・・・どういう意味?

「僕も、気づくのがすごく遅くなっちゃって、そしたら・・・もう、手遅れで・・・。僕は、卯月しか見えなくなった。」

「?」

よく、分かんないよ・・・。

「卯月以外の人になんか、興味がなくなった。・・・不思議だよね。僕、そういうことには一番縁がないって、自覚してたのに。でも――――・・・ううん、はっきり言うね。」

捺騎君も、深呼吸する。

「僕も――――卯月が好き、です。きっと・・・卯月と同じ好きだと思う・・・。」

「え・・・!」

最後の方は、消え入りそうな声だった。

それでも、捺騎君も言ってくれた。

好き、って・・・。

これは、本当?

現実なの?

夢じゃ・・・ないよね。

「僕と・・・つきあってください。」

「は、はい・・・。」

私たちの後ろで、私たちを祝福するかのように、1発目の花火がドーンと打ち上げられた。