い、今。
何て――――・・・?
「ねえ、セリア。答えてよ。」
つかみかかりそうな勢いの芽美に、セリアははっとしたように目を見開いてから、ぎゅっと唇を噛んでうつむいてしまった。
でも、でも、私の心はパニック状態。
セリアの記憶が、戻ってる?
そんな・・・。
じゃあ、セリアは、私たちに嘘ついてたってこと?
「セリア・・・無言じゃ分からないよ。」
芽美は必死に言う。
きっと芽美は、不安なんだ。
もしも、セリアが言ってることが本当だったら・・・そう思うと、心臓が凍りつきそうになる。
「・・・私。」
セリアが、やっと言葉を発した。
「私・・・は・・・。」
「あら、卯月ちゃん、芽美ちゃん。どうしたの?」
「!お母さん・・・。」
後ろから声をかけられた私たちは驚いて、慌てて会釈した。
セリアは、大きな瞳をさらに見開いていたけど・・・。
「みんなで玄関なんかで立ってて・・・。セリア、リビングにでも・・・。」
だっ!
次の言葉を待たずに、セリアはどこかへ駆けていってしまった――――・・・。
「セリア!」
私は、必死でそれを追いかけた。
今度こそ、大切なものを逃さないように・・・。
「――――セリアっ!」
公園の近くで立ち止まっているセリアが見えた。
私は、その方に駆け寄っていく。
肩が・・・震えていた。
「セリア・・・。」
泣いてるの?
私、セリアの過去を聞いた時以来、一度もセリアの涙を見たことがなかった。
卒業式の時でさえ、セリアは泣かなかったから・・・。
「・・・ごめんなさい、嘘ついてて。」
しばらくして、セリアがこっちを振り向く。
「・・・お父さんに、言われてたんです。日本に帰っていい代わりに、友達をつくるなって。記憶を失ったふりをしろって・・・。ごめん・・・なさい・・・。」
セリアの瞳から、次々と涙がこぼれ落ちる。
「!そんな・・・。ひどい・・・。」
「いいんです、卯月。こうして、また日本に帰って来れたわけだし。・・・あまり、今まで通り仲良くは出来ないですけど。」
・・・何だか、やっと分かった気がする。
セリアが敬語なのって、幼い頃から大人に気をつかってきていたからかな。
だとしたら・・・可哀想すぎる。
セリアだって、1人の人間なのに。
「でも・・・私、セリアと仲良く出来ないの・・・悲しいよ。」
「しょうがないんです。お父さんの命令ですから。」
「お父さんお父さんって、そんなにお父さんは偉いの!?」
私、思わず声を荒げちゃった。
「どうして、いつまでもロボットのままなの?セリアがそれでいいなら、そうするといい。でも、前――――手紙に書いてくれたのが、本音だよね?お父さんのやり方は、間違ってるって・・・。私も、そう思う。セリアだって、人間なんだよ。自由に生きる権利は、あるんだよ。」
セリアは、はっとしたように顔を上げた。
「そう・・・ですね。ごめんなさい、変なこと言って。」
セリアに少しだけ、笑顔が戻った。
「何かあったら、私たちに言って。私たちみんな、セリアの味方だから。」
「はい・・・ありがとうございます。」
良かった・・・もとのセリアだ。
私たちはお互いに手を握り合って、セリアの家まで戻った。
「セリア!記憶、戻ったんだって?」
捺騎君が、笑顔で言う。
翌朝、学校。
結局セリアは、お父さんには屈しないと自分で決めた。
何だか、セリアが前よりもずっとずっと強くなった気がするよ。
「ごめんなさい、迷惑かけて。」
「何言ってんの、ね?卯月。」
「うん!」
良かった・・・これで、また楽しい日々に戻れるね。
「あの~・・・。」
「はい。」
あ、恵太君。
そういえば、ずっと忘れられてたような・・・。
「オレもいれてくれよ~!」
ごめんね、恵太君。
ってことは、また新たなスタートだね。
「あ、そういえば。」
セリアが、ふと小声で言う。
「卯月、捺騎とはどうなったんですか?」
「え?」
ぎっくん。
・・・セリアには、手紙で言っちゃったんだっけ。
「うん、あの・・・進展なし。」
「・・・でしょうね、卯月と捺騎なら。」
はあっと、セリアがため息をつく。
うん・・・自分でも、びっくり。
捺騎君って、本当に天然だね。
でも、それに似てるって言われる私も、相当な天然ってことかな・・・。
「・・・そういえば。」
「ん?」
急に、セリアが深刻そうな顔になる。
「夏休みの初め・・・お父さんが、イギリスから来るんだそうです。」
えぇっ!?