「セ・・・リア・・・!」

しんとしたクラスの中で、一際目立つ声を発しちゃった私。

でも・・・今はそんなの、気にならない!

芽美や捺騎君も、心底驚いたような顔をしている。

「あら、知り合い?じゃあ、コネットさん。あっちの席に座ってもらえるかしら?」

先生が、私の隣――――元にゅうちゃんの席――――を指さして言った。

「はい。」

つかつかと、セリアが歩み寄ってくる。

嘘・・・セリア、帰ってきた。

セリアが、私の隣の席に腰かける。

「セリア、久しぶり。いつ、日本に帰ってきたの?」

でも、次の言葉を聞いた瞬間、私の心は凍りつきそうになった。

「あの・・・私、あなたのこと知らないんですけど。」

え?

あ、あの・・・。

「わ、私、卯月だよ。本田卯月。ほら、中学校一緒だった・・・。」

「私・・・1ヵ月より前の記憶、ないんです。ごめんなさい。」

えっ・・・?

今・・・何て・・・。

「嘘・・・じゃあ、中学校の時の記憶なんて・・・。」

「ないです。何でも、1ヵ月前に事故にあって、記憶をなくしたとか。でも、それも・・・医者に聞くまで、よく分かりませんでした。今分かるのは、自分の名前と、お母さんという人の顔だけです。」

う・・・そ・・・。

ねえ、嘘でしょ?

そんな・・・せっかく会えたのに、そんなことって・・・。

私、目の前が真っ暗になった―――――・・・。


「ねえ、卯月。元気ないね、セリアが帰って来たのに。」

休み時間、芽美が私たちの机の方に駆け寄ってくる。

「・・・って・・・。」

「え?」

「セリア・・・記憶、ないんだって。」

芽美が、こぼれそうなほど瞳を大きく見開く。

「―――――!」

言葉にならないようだった。

そう・・・だよね。

私だって、すごく驚いた。

何より、何も覚えていないのが悲しいよ・・・。

せっかく、会えたのに。

どうして、神様はこんなにも残酷なんだろう。

一度は目の前からいなくなったセリア、もう二度と会えないにゅうちゃん。

そして、記憶を失ってしまったセリア――――・・・。

もう、セリアの中には私たちはいない。

中学校の、長いようで短かった思い出も、全部消えて・・・。

あのね、セリア。

私、セリアのおかげで自分の気持ちに気がつくことが出来た。

それだけは――――変わる事のない、事実だから。


「・・・あの・・・。」

帰りの会が終わった後。

セリアが、私と芽美に声をかけてきた。

「何?」

「話があるんです。・・・一緒に帰っていただいて、いいでしょうか。」

セリアは、記憶を失ったはずなのに・・・。

でも、何だか今のセリア、中学生の時の面影が残ってる。

「いいけど・・・。話って?」

芽美が、首をかしげながら聞く。

「ここではちょっと・・・。あの、私の家の方に来ていただけませんか。」

「う、うん、いいけど・・・。」

どうしたんだろ、セリア。

少し・・・淡い期待をしてる。


セリアは、どんどん足を進めていく。

記憶を失ったはずなのに・・・家までの足取りは早い。

ここら辺、しばらく通ってなかったな。

セリアがいなくなってから、一度しか・・・。

「・・・ちょっと、待っててください。」

家の玄関の前で、私たちは待たされる。

しばらくして、セリアは何やら写真立てのようなものを持って来た。

「あの・・・これ、あなたたちですよね。」

セリアが持っていたのは、卒業式の後、捺騎君と雅君と、私たち3人で撮った写真だった。

「そうだけど・・・。」

「これって、卒業式ですか?」

「うん。」

そう、この後、確か芽美がぼろぼろ泣いちゃって・・・。

セリアは一生懸命、あやしてたよね。

「・・・卒業式って、私にもあったんですか。」

「うん、もちろん。セリア、芹田高校に受かったってすっごく喜んでたんだから。」

「芹田・・・高校・・・。」

セリアはふっとうつむいて、暗い表情になる。

?芹田高校が、何か引っかかるのかな?

「私・・・辛かった、です。でも・・・どうしていいか・・・。」

何・・・?

言ってることが、よく聞こえない・・・。

その時、ずっと黙っていた芽美が、口を開いた。

「あのさ、セリア。」

「はい。」

「間違ってたらごめんね。」

すうっと、大きく深呼吸をして――――・・・。

「セリア、記憶戻ってるでしょ?」

え――――・・・?