「・・・づき。卯月!」
「ん・・・。」
誰かに呼ばれて、目を覚ます。
ここ、どこだっけ・・・?
何だか、がたがた揺れてる。
・・・あ!
「いっ、今どこ?」
「まだバスの中だよ。もうすぐ奈良かな。だから、起こしたんだけど・・・。」
芽美が、窓の外を眺めながら言う。
―――――そう、私たち、修学旅行で奈良・京都に来たんだ。
でもね、私、昨日楽しみすぎて寝れなくて・・・。
結局、バスの中で寝ちゃった。
「今日はとりあえず、このままホテルに行くんだよね。」
「うん。あーあ、どうせならちょっと周って行きたかったなぁ。」
芽美が残念そうに言う。
でも、ホテルも楽しいと思うけどな。
私と芽美とにゅうちゃんと美咲ちゃんの4人の部屋班。
ホテルでは基本自由行動だから、私の楽しみの1つでもあるんだ。
「芽美、奈良が好きなの?」
「好きっていうか、ちょっとね。小さい頃、ここら辺にすんでて、おばあちゃんと。ほら、今もそうだけど、うちの親って放任主義じゃん?小学校上がるまでは、おばあちゃんに面倒見てもらってたの。思い出の土地っていうのかなぁ。何だか、忘れられなくて。」
芽美・・・ちょっと、悲しそう。
そうだよね、小学校に上がっておばあちゃんのもとを離れてからは・・・毎日、両親の遅い帰りを待ってたんだもんね。
学校を休んだ時、お見舞いに行っても誰もいないし。
はっとしたように、芽美が言った。
「何か、ごめん。卯月は修学旅行、楽しみにしてたもんね。私のことは気にしないで。めいっぱい楽しもう!」
芽美・・・無理して笑わなくていいよ。
見てるこっちが辛くなる。
本当は悲しいんだ、どうしようもなく。
1人っ子だから、もっと甘えたくて、両親と話がしたくて・・・でも、いつも忙しい両親に気をつかって、わがままも言わずにただいい子にしてる。
そんなの、駄目だよ。
せめて私たちには、本音を言ってくれたらいいのに。
でも芽美は、おばあちゃんと離れてから、ずっとそんな生活を送ってる。
何だか・・・自分のことのように苦しいよ。
胸が痛くて、張り裂けそうで・・・。
芽美、私、何も出来ないのかな?
「じゃあ、各自部屋に戻って、ゆっくりしていてくれ。7時になったら、夕食だ。では、解散!」
ホテルに着いた。
みんな、ぞろぞろと自分の部屋に行く。
「うちらも行こっか。」
美咲ちゃんが、私と芽美を見つけて言う。
「にゅうちゃん、だいじょぶ?」
「う、うん・・・。」
にゅうちゃんは車が駄目で、バスに酔っちゃったんだって。
部屋に戻って、私たちはとりあえずトランプを広げる。
そんな中で、にゅうちゃんはうずくまっていたけど・・・。
「にゅうちゃんって、相当車が苦手なんだね。」
「ね~、平気そうだけど。意外。」
美咲ちゃんも、驚きを隠せないようだった。
この時、私はまだ気づいてなかった。
まさか、にゅうちゃんが嘘、ついてるなんて・・・。